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第一部
夢の欠片Ⅳ
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血の海に 死者の灰で大地をつくる
それが世界である
───────
焦土。辺り一面が燃えていた。
ビルは崩れ、黒々とした煙がそこかしこで上がっている。
どうやら自分は気を失っていたようだと少年は気づいた。
戦いの疲労と負傷とでガタが来ている身体をなんとか起こしながら周りを見回す。
ぎちち、と音がなりそうなほど鈍い動作だった。
周囲にはドールと異形の怪物の死体があちこちに転がっており、
自分の他に動く影はなかった。
這うようにして近くの仲間の元へ行き声をかけるが反応はない。
理解しつつある現実を否定しようと、
体を大きく揺さぶりながら何度も名前を呼ぶがついぞ返事はなかった。
「……っ」
少年はできる限り遺体を整えてからその場を離れる。
「リ……ナ…」
かすれる声で、これまでずっと共に戦ってきた少女の名を呼ぶ。
声を出すだけで胸に激痛が走った。
瓦礫を支えになんとか立ち上がり、幾度も少女の名前を呼びながら探し歩く。
少し進んだところで、山のように積み上げられた異形の中で倒れている少女を見つけた。
思うように動かない身体にむち打ち、足を引きずりながらも少女の元へ歩く。
「リーナ……」
花のように華奢な身体を抱き抱えた。
「こよ……み……」
意識を取り戻した少女がうっすらと目を開き、少年の姿を目に捉えると、
ほっとしたように微笑んだ。
「おまえ……なんで……」
「無事で…よかっ…た」
「よくないだろ……おまえ、なんで……こんな無茶……」
少女の身体はもはや生きているのが不思議なほどの状態だった。
腕は焼け焦げ炭化し、片脚は皮1枚で繋がっているようなもので太ももから白い骨が覗いていた。
抉られた脇腹からは止めどなく血が流れ続けいてる。
彼女の命が消えていく。そう実感した。
「待ってろ……俺がエデンまで運んで行ってやるから、それまで耐えろ……!」
少年が少女を抱いて立ち上がろうとすると、腕をそっと掴まれた。
「もう、いいんだ……」
少女にはまるで似合わない、諦めの言葉。
無性に腹が立った。
「何もよくねぇ!絶対に救ってやる!」
「自分の体のことは自分が一番よくわかる……。私はもう、助からないよ。
それに、きみもその体じゃ私を運ぶなんて無理だよ」
「じゃあ助けを呼べばいいだろ!」
ただをこねる子供のように、少年は言う。
助けを呼びにいこうと立ち上がりかけたところで、少女に服の袖を握られる。
「最後くらい……傍にいてほしい。だめ……かな」
喋るのも辛いはずなのに、少女はなおも微笑んでいた。
気丈に振る舞う少女の姿を見て、少年の肩ががくっと落ちた。
「なんでだよ……。なんで、おまえが……お前たちがこんな目に……」
吐き出すように呟いて、ぐっと唇を噛み締める。
口から血がつっと流れる。
折れた腕に走る痛みも気にせずに固く握られた拳が小刻みに震えていた。
「俺は……お前に貰ってばかりで、まだ何もしてやれてない……」
その声は震えていた。
「そんなことない……私はきみに、たくさんのものをもらった。
きみが知らないだけでね」
少女は辛うじて原型を留めている腕の方で、少年の頭を優しく撫でた。
「かなしまないで。また会える日が来るから」
「それは……」
「こよみ……。……て。し……に……」
少女の唇がゆっくりと動いて、
頭を撫でていた彼女の手は糸が切れたようにぱたりと地に落ちた。
「全然聞こえねぇよ……」
声は硝煙の彼方に消えていった。
それが世界である
───────
焦土。辺り一面が燃えていた。
ビルは崩れ、黒々とした煙がそこかしこで上がっている。
どうやら自分は気を失っていたようだと少年は気づいた。
戦いの疲労と負傷とでガタが来ている身体をなんとか起こしながら周りを見回す。
ぎちち、と音がなりそうなほど鈍い動作だった。
周囲にはドールと異形の怪物の死体があちこちに転がっており、
自分の他に動く影はなかった。
這うようにして近くの仲間の元へ行き声をかけるが反応はない。
理解しつつある現実を否定しようと、
体を大きく揺さぶりながら何度も名前を呼ぶがついぞ返事はなかった。
「……っ」
少年はできる限り遺体を整えてからその場を離れる。
「リ……ナ…」
かすれる声で、これまでずっと共に戦ってきた少女の名を呼ぶ。
声を出すだけで胸に激痛が走った。
瓦礫を支えになんとか立ち上がり、幾度も少女の名前を呼びながら探し歩く。
少し進んだところで、山のように積み上げられた異形の中で倒れている少女を見つけた。
思うように動かない身体にむち打ち、足を引きずりながらも少女の元へ歩く。
「リーナ……」
花のように華奢な身体を抱き抱えた。
「こよ……み……」
意識を取り戻した少女がうっすらと目を開き、少年の姿を目に捉えると、
ほっとしたように微笑んだ。
「おまえ……なんで……」
「無事で…よかっ…た」
「よくないだろ……おまえ、なんで……こんな無茶……」
少女の身体はもはや生きているのが不思議なほどの状態だった。
腕は焼け焦げ炭化し、片脚は皮1枚で繋がっているようなもので太ももから白い骨が覗いていた。
抉られた脇腹からは止めどなく血が流れ続けいてる。
彼女の命が消えていく。そう実感した。
「待ってろ……俺がエデンまで運んで行ってやるから、それまで耐えろ……!」
少年が少女を抱いて立ち上がろうとすると、腕をそっと掴まれた。
「もう、いいんだ……」
少女にはまるで似合わない、諦めの言葉。
無性に腹が立った。
「何もよくねぇ!絶対に救ってやる!」
「自分の体のことは自分が一番よくわかる……。私はもう、助からないよ。
それに、きみもその体じゃ私を運ぶなんて無理だよ」
「じゃあ助けを呼べばいいだろ!」
ただをこねる子供のように、少年は言う。
助けを呼びにいこうと立ち上がりかけたところで、少女に服の袖を握られる。
「最後くらい……傍にいてほしい。だめ……かな」
喋るのも辛いはずなのに、少女はなおも微笑んでいた。
気丈に振る舞う少女の姿を見て、少年の肩ががくっと落ちた。
「なんでだよ……。なんで、おまえが……お前たちがこんな目に……」
吐き出すように呟いて、ぐっと唇を噛み締める。
口から血がつっと流れる。
折れた腕に走る痛みも気にせずに固く握られた拳が小刻みに震えていた。
「俺は……お前に貰ってばかりで、まだ何もしてやれてない……」
その声は震えていた。
「そんなことない……私はきみに、たくさんのものをもらった。
きみが知らないだけでね」
少女は辛うじて原型を留めている腕の方で、少年の頭を優しく撫でた。
「かなしまないで。また会える日が来るから」
「それは……」
「こよみ……。……て。し……に……」
少女の唇がゆっくりと動いて、
頭を撫でていた彼女の手は糸が切れたようにぱたりと地に落ちた。
「全然聞こえねぇよ……」
声は硝煙の彼方に消えていった。
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