両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~

あぶらみん

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第一部

嵐の前

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薄く目を開くと、かすれた視界に見慣れた天井が広がった。自分の部屋のベッドで寝ているようだった。何をしていたんだったかな、と一瞬考えて本の中での少女との出来事を思い出す。

己が何者かもわからずに一万年以上も旅をするというのは、どんな気持ちだろう。前世と合わせても、その百分の一にも満たない年月すら過ごしたことのない自分には、彼女の気持ちはわからない。
それでも、寂しさが突風のように襲いかかってきて心が震えた。
なぜこんなにも自分のことのように感じてしまうのか、理由はわからない。
でも、きっとそれは、とても自然な感情なのだと納得している。

うっすらと汗が湿る額を手で拭おうとしたところで、両手が何かあたたかいものに覆われていることに気がついた。
自分の二つの手を、二人の少女がそれぞれ握ってくれていた。少女たちはよほど気疲れしたのか、ベッドにもたれかかって穏やかに寝息を立てていた。寝ながらも、手を離さないでいてくれたらしい。
力強くはなかった。そっと包み込むような優しい握り方なのに、少しのゆるぎも感じない。思いがけないほどしっかりとした優しい感覚に、先ほどまで感じていた寂寥感もなくなっていた。

「……ありがとな」

小さな声でアルテアが言った。

「んんぅ…」

イーリスが返事をするように小さく唸って身をよじった。
体を起こして空いた方の手でゴシゴシと目をこすりしばたたかせた。
アルテアはその様子を見ながら、なんだか猫みたいだなと感じた。

「悪い、起こしたか」

優しく話しかけると、少女は紅い瞳をうるませて抱きついてきた。
アルテアは予想外の行動にかなり驚かされ、取り乱した。

「い、いきなりどうした……」

「心配した……とつぜん倒れたから」

少女はそう言って少年をさらに強く抱きしめた。
泣きそうな声だった。いや、泣かせてしまったのかもしれない。

「すまん……心配かけたな」

アルテアも空いている手を少女の背中に回して子供をあやすみたいにゆっくり撫でつけた。

そうしているうちにもう一人の少女も目を覚ました。

「おはよう、ノエル」

アルテアがそう言うやいなや、ノエルも少年に飛びついた。

「心配したんだからっ……!」

ノエルは隠すことも無く泣いていた。
彼女のあたたかい涙が首元にぽたぽたと落ちてきた。
ジルバーンが「にゃ~ん」とベッドの中から顔を出して、
慰めるようにノエルの頬をぺろぺろとなめた。

「……ありがとう」

礼を言って、大泣きするノエルの頭を優しく撫でた。
アルテアが目覚めたことを察したターニャが部屋にやってくるまで、
三人はぬくもりを求める小さな生き物のように、ずっと身体を寄せ合っていた。


辺りは日が落ちてすっかり暗くなっていた。
自分は数時間ほど寝ていたということが皆の話でわかった。
ティアやターニャ、イーリスは魔法による攻撃ではないかとかなり心配していた。
ターニャに診てもらった結果、体には異常がないことが確認された。


今朝方から体調が悪かったところ、
強い発光現象を目にしたことで意識が飛んでしまったということで一応の落着を得た。
誰も納得はしていないだろうと薄々感じてはいたが、
アルテアも結局は本当のことは伝えなかった。
心配をかけたとみなに謝罪したところで盛大に腹の虫が鳴った。

「そういえば夕食がまだだったわね」

ティアが思い出したように言った。

「せっかくだから、イーリスちゃんもノエルちゃんも一緒にどうかしら?」
「食べる」とイーリスが即答する。

「あっ、あの……ご迷惑じゃなければ……」

ノエルが遠慮がちに言う。

「じゃあ早速仕度しちゃいましょう」

ティアが満面の笑みを浮かべるのを見て、アルテアは何やら嫌な予感がした。
ほどなくして料理が完成し、食卓に所狭しと並べられていく。
香ばしい匂いが漂い、空腹を刺激した。

一時間ほどしか経っていないはずだが、どうやってこれだけの料理を
短時間に作り上げているのかアルテアにはまるでわからず、密かにターニャを賞賛した。

もっぱら調理を担当したのはターニャであるが、
イーリスとノエルも手伝ったようで、今も二人で一緒にテーブルに料理を並べている。
あらかた並べ終わったところで席につき、ターニャをのぞく全員で夕食を始めた。

「なあ、なんだかバランスが悪くないかな?」

アルテアは両隣を見たあと正面の母に顔を向けて尋ねた。
なぜか向かいは母ひとりで、アルテアたちは三人一列に並んで座っていた。

「母さんは全然気にならないわよ。ターニャはどうかしら?」

どこ吹く風という様子で母が言う。

「奥様のお隣は旦那様の指定席でございます」

「あら、そんなこと皆の前で言われたら恥ずかしいじゃない」

恥ずかしさなどおくびにも出さずにティアが返す。
アルテアはこの二人に抗議しても無駄だと悟り、普段からかわれている父に思いを馳せた。

「ならこれでいいや……」

投げやりに言った。

「相変わらずターニャのつくる料理はおいしいわ」

ティアがハンカチで口を拭いながら言った。

「イーリスちゃんもノエルちゃんも、お口に合っているかしら?」

「おいしい」

イーリスは食べ物を詰め込んだリスみたいに頬をいっぱいに膨らませていた。

「とってもおいしいですっ」

ノエルが一口サイズに切り分けた肉料理を口に運んでいた。
テーブルマナーも心得ているようで、両親の躾の良さが伺い知れた。

「そう言ってもらえて何よりだわ、ねえターニャ」

「はい、身に余る光栄です」

「アルちゃんも、おいしい?」

「ん?ああ、おいしいよ」

「おいしくて当たり前だったわね。二人がつくったんですもの」

ふふふ、と芝居ががった口調でティアが笑う。
イーリスが無言で、だが深く首を縦に沈ませる。

「あぅ……」とノエルが顔を赤くして呟きつつも、わずかに頷いていた。

「二人がつくったのはどれだったかしら?」

「……これ」

イーリスが料理を持ちアルテアの目の前にそっと差し出した。
雲のようにふわふわでこんもりと盛りがったオムレツだ。
表面に少しだけついた焦げ目が視覚的なアクセントになり食欲をそそる。

「わたしはこれだよっ」

左からノエルの手がけた料理の皿がずいっと置かれる。
キノコたっぷりと使ったグラタンだった。
チーズがトロトロに溶けて芳醇で奥深い香りが立ち上り、いかにもおいしそうだった。

「……どちらも美味しそうだね」

二つ料理を見ながらごくりとアルテアの喉が鳴った。
言葉に嘘はなかった。
が、アルテアが喉を鳴らしたのはごちそうを前にしたからという理由だけではない。
左右から妙な圧力を感じていた。
いったいどちらから先に手をつけるのが正解なのか、
脳をフル回転させるが答えは見つからない。
仕方がないので冷めれば味が格段に落ちそうなグラタンから食べる始めた。

「やった……」

「ぬ……」

ノエルが小さく喜びを漏らした。イーリスの顔はあえて見ない。
濃厚なチーズが口の中でとろけ、
その中に隠れたキノコのこりこりとした食感が心地よい。
素材の味が活かされた実においしいグラタンだった。

「うん、うまいな。ノエルがこんなに料理上手だとは思わなかった」

無論ターニャの指導があってのものだろうが野暮なことは言わない。

「喜んでもらえてうれしいなっ!」

ノエルは花が咲いたような満面の笑顔で言う。
彼女の喜ぶ顔を見て安堵しながらグラタンを完食して、次にオムレツに手を伸ばした。

「なつかしい味がするな」

オムレツにソースの類はかかっていなかったがしっかりと味つけがしてあった。
ふわふわの雲にくるまれるように、ほのかな甘みが優しく包み込んでくれる。
いわゆる母の味というやつだった。

アルテアがちらりと母へ目線をやる。
ティアはニコニコと嬉しそうに笑っていた。

「練習した」

確かな手応えを感じたようで、イーリスが自信をもって言う。
彼女の表情に変化はないが、喜んでいることはわかった。
きっと王都へ帰ってからも彼女は何回も練習したのだろうと察する。

「……ありがとな。嬉しいよ」

感謝と素直な気持ちを伝えた。

「ん」

彼女は満足そうに小さく、だが力強く頷いた。

「どちらもとても美味しかったよ。二人とも俺のためにありがとう」

アルテアがそう言うと、少女たちは嬉しそうに目を細めた。
ティアはそんな子供たちを眺めて安らかに微笑んでいた。
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