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第四章 消失と執着
30、少し離れてみて(オースティン視点)
しおりを挟む俺はあの日、ブレイク様の言葉に心が冷たくなっていくのを感じた。
俺はブレイク様に冷たくされても、何処かでブレイク様が幸せになれるのを見守る事が出来れば、自分は充分幸せだ。そう自分自身に思いこませていた。
それにアルフォン君と関わる事で知らないうちに傷ついた部分も、俺を肯定して優しくしてくれて、必要としてくれるアルフォン君のおかげで満たされ、ごまかす事が、出来ていた。
だけど、俺の存在が二人の幸せを壊すなんて嫌だ。
それに、今の俺はブレイク様の事も、アルフォン君の事も、どちらもかけがえないくらい、代えがない大事な存在に俺の中で大きくなってしまっていた。
俺は二人が俺の近くで、俺以外の人と幸せになるのを見る事が怖くなった。
俺なんか、前世と同じで、この世界でも幸せになんかなれる訳ないのに、少し希望を見せられたら、少し優しくされたら、自分の欲がどんどん大きくなってしまった。
この世界では、正直、自慰なんてした事が無かった。
もちろんもう成人を迎えて22歳という年、当たり前に精通もしている。
抜かなすぎて、朝、出してしまうなんて恥ずかしい事もたまにあったりもしたけど……それがあの二人に出逢う前の俺の日常だった。
だけどあの二人に出逢って……前世大好きだった推しと、その相手役である主人公と出逢って……。
俺は先日、すごく浅ましい夢を見た。
俺は、今世の素の姿のまま、ブレイク様とアルフォン君二人に愛され、二人に抱きしめられ、甘えさせられ、抱かれる。そんな夢を見た。
あまりに幸せすぎて、俺は夢から覚めたくなかった。
俺は起きた時、なんて厚かましい夢を見てしまったのかと呆然としてしまった。
俺は、前世で健気な主人公が好きだった。
一筋だからより尊い! そう思っていた。
なのに、少し優しくされて、大事にされたからって……俺は、こんな俺は誰からも愛される資格なんてある訳がないのに……。
そして、先日。ブレイク様をまた怒らせてしまった。
本当はこのゲームは、この物語はブレイク様とアルフォン君、二人が幸せになる物語。
俺が侵入した事で、物語にシミが出来た。
物語が歪んでしまった。
だから、ブレイク様が魔力暴走なんて起こしたんだ。
俺はこの物語には、存在してはいけないんだ。
俺は幸せな空間を味わってしまい、欲を持った事で、それを無くしてしまう渇望感が強くなってしまい、ネガティブな思考がどんどん強くなるのを止める事が出来なくなってしまった。
二人から距離を取らなければ……。
そう思い、じいちゃんに嘘をついてまで、あの家を出た。
あの家に居ては、学園に行く口実が出来てしまう。
弱い俺は、二人を求めずにはいられない、そう思ったのだ。
一先ず少しでも遠くに行こうと、乗合馬車に乗り込んだ。
それは例の横暴な貴族のいう事を聞いて俺達平民を置き去りにした例の商会の乗合馬車で、本当はその馬車に乗るのは嫌だったが、それ以外のものは料金がもっとかかり仕方なく俺はその馬車に乗った。
行き先は、いつも行っている場所とは正反対。
距離はなるべく離れたいし、だけどなるべく安全で、程よく田舎で、海に近い街を選んで移動した。
その途中で知っている顔を見つけ、あまりに驚いて声を上げた。
そう、数カ所先の村からの乗合馬車の中でタツさんと再会したのだ。
タツさんは、俺を見かけ驚いたように声をかけてきた。
こんな偶然あるのかと思った。
タツさんの話だと、タツさんはマーガレット・ラドクリフ伯爵令嬢専属の護衛騎士の一人で、リッチモンド伯爵家のご子息との婚約が本決まりになりそうとの事で、近々職を失う可能性があるとの事だった。
実家の村で冒険者をしながら、次に護衛で雇っていただく場所を探すか等の、身の振り方を考えなければならない。よって少し長期の休みをもらったので実家に向かっている所という事だった。
こういう場合、長く勤めたということもあり推薦状を書いていただくことが普通だと思うが、タツさんが平民だという事もあり、それも望めそうになかったらしい。
タツさん程の腕ならラドクリフ伯爵家が手放すとも思えないが、平民はやはり実力では評価され難いものなのか、分からないが、まだあって2度目の俺達。友達になったとはいえそんな事、簡単に尋ねることは難しかった。
だけど話をしているうちに俺が向かっている村がタツさんの実家の隣村だったという事と、俺自身がまだ落ち着き先を決めていなかったということもあり、タツさんの実家で働くことを提案された。
タツさんの実家は普通の古民家だけど宿屋をやっていて、従業員が一人ぐらい増えても大丈夫なのだそう……。
と言ってもタツさんの実家は普通の平民で、裕福なわけではない。
金銭面が苦しい時もあるから、タツさんが騎士として働き、仕送りをしていたみたいだ。
そんなの、俺を雇う余裕なんてないじゃないか……。
そう思い、断ろうとした。
だけどタツさんはやはり平民だけど能力は高く、俺の素の姿が見えている。
変装していたことも知っている。
目立ちたくはないのだろう? と、俺は自分の身の上も話していないのに、俺には以前助けられたから力になりたいとそう言ってくれた。
俺の分の給料を、両親が払えるように自分が冒険者として稼いでくると言ってくれた。
そこまで言ってくれるタツ君は、やはりお人よしだと思った。
それにしてもタツ君の話が本当ならばマーガレット・ラドクリフ伯爵令嬢とブレイク様は婚約し、今後婚姻を結ぶ予定なのだと思った。
胸は痛いが、俺とブレイク様は身分が違う。俺の思いは叶わない。
アルフォン君だって俺がいなくなったとしても、彼を慕う方々は周りに沢山いる。
俺は自分がした行動は正しかったと……タツ君の話を聞いて再認識した。
俺はこれ以上、傷つきたくなかった。
ブレイク様とアルフォン君に幸せになってほしいなんて綺麗事を言いながらも本当は、また、ただ逃げてしまっただけだった。
俺は結局、弱いままで……前世から今までちっとも成長していないと……そう思った。
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