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第40話 辰也さん何処にいるの? (辰也に似ているクマのぬいぐるみ視点)

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<辰也に似ているクマのぬいぐるみ視点>


 僕の名前は辰吉。

 クマのぬいぐるみさんなのだ。

 僕はいつもベッドの隅に大人しく座ってるんだ。


 動けないけど、僕の持ち主は僕をとてもとても大事にしてくれているから、何もできなくても幸せなのだ。



 だけど時折、とてもやるせないくらい辛い時があるんだ……。


「辰吉? 聞いてくれる? 今日も仕事中、失敗しちゃってね」

 一方的に僕を撫でながら時おり悲しそうに抱きしめる雪さん。


 僕の持ち主は、本来、二人だったんだ。

 一人は僕の目の前で情けない顔をしながらのんびりとした口調で話しかけている。

 色が白い丸顔、名前は雪さん。


 もう一人は……。

 棚の上に飾られている写真立てに目線を移した僕。

 そこにはダラシナイ顔で照れたように笑う男性の写真。


 名前は確か辰也さんだったかな?
 僕の名前はそこからきているんだよね。


 僕と二人との出会いはゲームセンターだったんだ。


 僕は他のぬいぐるみさん、牛さんや犬さん、羊さんに埋もれて透明な箱の中にいた。


 しょっちゅう頭上に機械のようなモノがやってきては僕達をほじくり返し頭や体などをかすめるんだ。

 時折、僕の周りの羊さんや犬さんは足だけ持ち上げられそうになったり、腕だけひっかけられたり……。
 中にはそのまま釣り上げられ嬉しそうな顔で横にある丸い落とし穴のような所に落ちていき、外で見ていた人間に抱きかかえられ消えていくものもいた。

 僕は箱の中からそれを羨ましく思い見送る日々を延々と過ごしていたんだけど……。


 僕を見つけてくれたのは雪さんだ。

 辰也さんに似ているという僕をどうしても持って帰りたいという雪さん。

 僕達が居た透明な箱は『ゆーふぉーきゃっーちゃー』と言うらしいのだが、

 辰也さんが何度も機械を俺の頭上に操り、しかし頭だけ少し掴まれたり、しっぽだけ掴まれたり、何度も何度も繰り返し、作業は続いた。

 僕に焦点をしぼっているんだ。


 今まで人気がなかった僕にだよ?


 そして、とうとう僕のオーバーオールの服に引っかかる形で釣り上げられた。


 僕が夢にまで見た外の世界に出た瞬間だ。


 そんな経緯で二人の元に来た僕。


 僕は二人の生活を見守っていたんだ。

 二人のほのぼのとした優しい空気感を僕はとても気に入っていたんだ。






 だけど……。


 ある日を境に辰也さんを見る事が無くなったんだ。


 しばらくして、段ボール箱の中に入れられ、長い時間真っ暗だったと思ったら、箱から出され眩しい光と共に、風が良く通って気持ちが良い光が入るんだけどすごく狭い部屋に僕は居た。



 箱から開けられたと同時に雪さんの白くて丸いほのぼのとした顔が見えて安心したんだ。



 だけど……。


 辰也さんはいつまでたっても現れない。



 辰也さん。


 雪さんは、今日も我慢しているよ?


 辰也さん?


 何処に居るの?



 雪さんには俺だけじゃダメなんだよ?


 辰也さん何処に行っちゃったの?

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