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第43話 くそう、デンめ(ホロ視点)

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 夕方6時、幸太郎はキッチンで夕食作り。

 普通の猫達なら食事を催促しに行く所だろうが俺は違うぞ?

 ちゃんとお利口に待つことが出来るのだ。


 ちょっと前におやつをもらっただろう? なんて言わないでくれ。
 えっ、誰も言ってないって?


 ちょっと太ってきただろうか?

 俺は成長しているともいうが、ちょっぴりふっくらしてきたことを気にしながら、出窓のスペースのクッションの上で毛繕いをしながらくつろいでいた。

 少し月が見えてきたかな?
 星も出てきたな、綺麗だな……。

 月と言えば思い出すのだが、雪と手を繋いでコンビニから家まで歩いた時、見た月も綺麗だったな……。


 この幸せが、ずっと続くといいのに……。

 俺がこの小さくて柔らかい手を守るんだ。

 そう思っていたのに。
 ……。

 空を見上げていた視線を道路に戻したその時、

 俺の居るマンションの部屋の窓の下から、こちらを見上げている人物に気がついた。

 少し目を細めその人物に焦点を合わせた。


 雪????



 俺は幻覚まで見える様になってしまったのか?


 じっとこちらを見上げている女性。

 見間違いようがない。雪だ。


 俺は出窓の鍵を開けようと二本足で立ち、鍵に向かって爪を立て開けようと前足を動かした。

 ガタガタし始める音に幸太郎が何か言っている気がしたが構うものか。

 雪が、雪があそこに居るんだ。



 俺は前足で少しづつ鍵を開けようと試みるが、開かない。

 俺が鍵を咥えようとしたその時、いつの間に来たのかデンが出窓の縁に前足をかけ、背中から俺を咥えた。
 そして俺は床に下ろされてしまった。


 幸太郎はほっとしたように俺の頭を撫でてデンの頭も撫でている。

 プディはびっくりしたように目を丸くしている。



 雪?  

 雪?


 こっち、見てたよな?


 いや猫が居るなーって見ていただけか?



 だけど、雪……。



 もうちょっとだったのに……。



 くそう、デンめ。

 暢気に欠伸をしてやがる。
 俺の背中はデンの涎《よだれ》でベショベショだ。

 涎《よだれ》はそのまま放っておいたらカピカピになって固まるんだぞ。


 ……背中は毛繕いしにくい場所なのに。くそう。

 よし、こうなったらデンの上でゴロゴロしてツバをなすりつけてやる。

 雪が居た事で俺の頭の中は混乱しているのに。
 雪に会えたかもしれないのに。
 デン、お前の行動とツバのせいで全て台無しだ。


 くそう。


 幸太郎! メシはまだか!

 やけ食いしてやる!

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