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第102話 雪? 俺の言葉、分かっていないよな?(ホロ視点)

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「ピン、ポーン」

 控えめなチャイムの音が部屋の中に響いた。
 雪が来たみたいだ。

 トクントクンと鳴る動悸を胸に感じながら幸太郎の後ろから着いて行こうと、さりげなく歩きだした俺だったが......。

 そんな俺の様子に気づいた幸太郎が、インターフォンに向かって「ちょっと待って下さい」そう言った後、俺の側まで戻ってきた。

 ちょっとだけ抵抗しようとも思ったが、幸太郎は優しい表情、柔らかい手つきで俺をそうっと持ち上げる。
 
 そしてケージに俺と俺のご飯皿を入れて鍵を締め、再び玄関に向かって歩いて行ってしまった。


 デンがケージの前で俺を見ている。

 デンは大きいので、ケージの前にいるだけで影が出来、日の光も少し遮られる。

 目をこらしても、目の前には壁の様にデンの身体がある。


 雪達が入ってくる様子も見え辛い......。

 デン......。

 ハッハッハッハッ。
 そう息継ぎをしているデンは今日も呑気に俺を見ている。

 俺は軽く右前足を舐めた後、少しだけ自分のご飯皿に残っていたキャットフードを食べながら雪達が入ってくるのを待った。


 幸太郎は本当に俺に過保護になったよな......。
 俺が扉が開いたすきに飛び出すとでも思っているんだろうか?


 そんな事を考えていたら、賑やかな声が聞こえてきた。

 んっ? あの声、雪の他に比奈の声も聞こえてきたぞ?

 
 どういう事だ?

 確か......。

 幸太郎のメールを盗み見た時、一緒に来るのは同僚と書いてあった様な気がしたが......。

 同僚さんとやらはいないみたいだな?
 事情が変わったのか?
 

 まあ、いい。
 
 だが、雪と比奈か......、またあの緊迫した空気か.....。

 と先日のギスギスしたちょっとだけ嫌な空間を思い出しそうになった俺だったが、雪と比奈の表情がかなり柔らかい事に気がついた。


 比奈は何故だか少し緊張して顔が強張っている様にも感じたが、雪と喋っている口調は安心している様な柔らかい感じにも聞こえる。


 あの二人、いつのまに仲良くなったんだ?

「にゃあ、ニュンニャーニャン(デン、おい、デンそこにいたらよく見えない)」

「ワン? ワン? ワオーン? (何? ホロちゃん、遊ぶ? 遊ぶ?)」

 デンはケージの向こうで俺の前に立ちふさがり不思議そうに見ているがノンビリした口調で天然な感じはいつも通りだ。

 俺はデンに言うのは諦めて、ケージに身体を押しつけながら雪達の話に耳をすました。

 
 そんな風にケージの中で、もがいている俺だったが、その時、勢いよくデンの後ろから比奈が顔を出した。


「ホロちゃん、デンちゃん。久しぶり、ほらプディだよ」

 そう言いながら比奈が俺の側に籠バックから出したプディを近づけた。

 比奈の勢いにデンも少しだけ横に避けた。
 
 視界が急に明るくなり、俺は目を細めた。

 俺達を見たからか分からないが比奈の強張っていた表情も柔らかくなり、いつもの明るい笑顔になっていた。

 そんな比奈の様子を見ながら、何故だかちょっとだけ強張っていた幸太郎の顔も緩み、俺のケージまで近寄り、鍵を開けてくれた。

 雪も俺の事を幸太郎の少し後ろの方から覗き込んでいる。

 俺の周りに皆が勢揃いだ。



 俺は開いたケージからゆっくり外に出た。

 本音は雪の膝に一直線で走りたかったが、俺のすぐ側にはプディが寄ってきた。

「ニャン。ニャンニャ?シャーナンニャーオォ(久しぶりね。そう言えば、私、すっかり貴方の事、ほったらかしだったけど、大丈夫? パワーが前より貯まっている様に見えるから上手くいったのね?)」

 そうプディが妖艶に笑った様に見えた。

 猫の見た目だから、ただニャーと鳴いている様にしか聞こえないだろうがプディは俺から見ると妖しすぎる綺麗さがある様に見える。

「ニャンコニャーアニィアン(ああ、何とか上手くいったよ)」

 始めプディが何の事を言っているのか分からなかったがミーちゃん達の事を言っていると分かり、そう答えた。

 一瞬、雪の目が、冷めた様に冷たくなった気がしたが、気のせいだよな?

 俺は昨日の夜の不思議な出来事を思い出して、雪がもし、俺達の言葉が分かっているのかもと、少し背筋が冷えた気がした。


 俺の言葉、分かっていないよな?



 ゆ、雪? う、浮気じゃないぞ?

 

 いつのまにが真横に来ていたデンに頬をペロっ舐められて、俺はブルッと身体を震わせた。


 

 
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