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第一章 回り出す運命の歯車
第2話 拾いモノ? (ショウ視点)
しおりを挟むもう俺も18歳になった。
一人で過ごすのにも慣れた。
8年も経つのに俺の顔すらこの街の人には覚えられていないだろうに、髪色の所為で未だに俺は嫌われていた。
なるべく目立たないように頭を布で隠したりしているし、空気みたいな存在になれる様に心がけているつもりではいる。
俺は嫌われていると言っても黒髪と魔力なしという事がバレなければ周りの人にも意識されないから……。
しかし、先ほど転んだ事で、この黒髪も見られてしまった。
俺は外れていた頭の布を巻き直し、周りの人達の会話が耳に入らない様に住処である洞窟までの足を早めた。
出てくる時は青空が広がっていたのに今は薄暗い雲に覆われている。
冷たい。
肩や顔に2、3滴、水滴があたる。
しまった、雨が降り出したか……。
俺は再び荷物を背負い直し、洞窟に向かって走り出した。
街を抜け、小さな森の奥に俺の住まいである洞窟がある。
この洞窟は街中よりは夜は冷えるし、雨は凌げても体調を壊す事もよくある。
だけど住めば都とでもいう様に、ココでは俺の事を嫌な目で見るものもいない。
一人で寂しくても俺が俺のままでココにいて良いとそう言ってもらえる、俺の唯一の居場所だった。
もう少しで住処である洞窟に着く。
ポツポツと振り出していた雨はいつのまにか身体全体を濡らしてしまう程、激しくなっていた。
薄手の布で出来た衣服が濡れて身体に引っ付いて気持ちが悪い。
抜かるんだ土が足を取り、走る事を阻む。
一気に洞窟まで走ってしまいたかったが、息が切れて、一旦立ち止まり、木に寄りかかり息を整えた。
その時にも雨は激しく俺の身体を打ち付けていた。
雨は降ってはいるが、木々の葉達が少しだけ雨を防いでくれている気がした。
だけど、やはり雨は降り続く。頭に巻いていた布も緩んできてしまっている。
その布からも雫が垂れてきていて、視界を阻む。
このままじゃ、風邪を引いてしまう。
早く、洞窟に戻ろう。
息を大きく吐き、走り出そうとした時、洞窟の前に何かが倒れている事に気がついた。
それは毛で覆われていて、熊よりも小さく大型犬よりも大きい。
口元には大きな牙が見える。
脇腹付近に大きく切られた跡があり、その傷からは赤と緑が入り混じった様な血液が流れていた。
苦しそうに時おり息を吐く様な声をあげていた。
アレは魔物、なのか?
俺は野生動物はよく見かけてはいたが、運良く魔物は見た事がなかった。
だけど、弱っている魔物らしき物を見て、恐怖よりも、違うモノが俺の中で芽生えた。
なんだか、雨に打ち付けられ今にも死んでしまいそうになっている魔物の姿が、惨めな自分の姿と重なった。
恐る恐ると魔物に近寄る。
目を硬く瞑っていて、眉間には大きく皺がよっている魔物は目が見えていない様だった。
顔も全て毛で覆い尽くされてはいるが、目鼻立ちは人に似ており、整っている様にも見えた。
獣人? とも違うか?
獣人というモノの事も幼い頃に話を聞いた事がある程度で、実際には見た事がない。
街でも見かけた事もないから判断は難しい。
俺が魔物の様な、獣人の様なモノの肩付近に触れた時、ビクッとそのモノが大きくよじったがもう力が余り残っていないのか次第に大人しくなった。
魔物モドキは覚悟を決めたかの様に大きく息を吐く。
俺はコイツに危害を与えるつもりはない。
安心してもらう為、俺はソイツの大きな背中を、雨に濡れて毛が硬くなった背中を優しく数回撫でた。
撫でた時、ピクっと静電気が走った様にソイツの身体が跳ねた気がした。
不思議に思いつつもソッと優しくそいつの背中を数回撫でた瞬間、一瞬俺の掌が熱くなり小さな光を放った気がした。
今の光はなんだったんだろう?
俺の気の所為だろうか?
その時、顔を緩めたソイツが身体の力を抜いた。
撫でたことで敵ではないと安心してくれたのだろうか?
ひとまず良かった。抵抗されたら傷の手当てだってできないしな。
未だ痛々しく傷口から血液が出ている。
早く、流れ出ている血液を止めなければ。
俺は昨日つんでおいた薬草を取り出し傷口付近に塗り込んだ。
コイツにも効くのか分からなかったが、なんとか効いた様だ。
出血は無事止まり、ゆっくりだが傷口が塞がり出したようだ。俺はカバンから取り出した清潔な布を傷口に巻き付けた。
俺よりもかなり大きなコイツの身体を洞窟まで運ぶには骨が折れたが時間はかかったもののなんとか、入り口付近まで運ぶ事ができた。
魔物モドキはまだ苦しげに顔を歪めてはいるが、息を切らしている俺の方がよっぽど酷い顔をしているのかもしれない。
俺はこうして洞窟で一人暮らしをする前、勇者になる前のアイツとずっと過ごしていた時、本を読むのが好きだった。
と言っても、余り頭が良くなかった俺は図鑑を読むのが好きだった。だから、傷によく効く植物を知る事ができた。
あの時はこんな風に一人で孤独に過ごす未来が待っているとは思わなかったが、この知識を身につけておけて良かったと今は思う。
先程は慌てていたので手元にあった物で応急処置をしたが、まだ魔物は苦しそうだし、体温も高い。
もがいてはいるが、こちらには意識は向いていない様だった。
俺は自分の寝床まで行き、布団と毛布を持ってきた。
この布団と毛布は、8年前から使っている。
この魔物には小さいし、あまり意味がないかもしれないが……。
タオル代わりにしている布で魔物の毛の水滴を拭う。
毛はぐっしょりと濡れていたからタオル代わりとして使った布もすぐにぐっしょりと濡れてしまった。
なんとか水滴を拭き終えて先程持ってきていた布団と毛布を魔物モドキにかけた。
ソコで俺の限界が来たのかその魔物の様な獣人の様な物の胸元付近に上半身だけかぶさる様に倒れ込んでしまった。
この時この出会いによって俺の今まで止まっていた運命の歯車がようやく動き出したことを意識を失い倒れ込んでしまった俺は知らなかった。
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