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1章

4話 魔物の存在

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森に踏み入って暫く経つが、途中危険な生き物に出くわすこともなく、夕方頃には森の中心部の開けた湖にたどり着いた。
眼前には巨大な湖が広がっていた。
湖の水は透明度も高く、試飲してみたが飲料水としても問題なさそうだ。
水源は問題ないようなのでここをとりあえずの拠点にすることにした。
(ほぼ1日歩いてきたがここはこの森の中心あたりかな?)
砂漠を超えてくる際にも自覚はあったが、どうやら向こうの世界よりイザの筋力も体力もかなり向上しているようで、足場の悪い森の中を一日歩いてきても不思議と疲れすらも感じなかった。

「水は飲み水としても問題なさそうだし、ここにとりあえず仮の拠点でも構えるとするか」
「狩りの拠点了解した!」
マティアは涎を垂らしている。
「うん、狩りじゃなくて借りな…?」
(まぁ水場には動物も集まるだろうし間違っても居ないか)


あちらの世界でのゼネコンの経験を活かして周囲の木を使って小屋を建てるのにはそれほど日数はかからなかった。
風魔法で木を伐採して成形、火の魔法で乾燥させ、土魔法で土台をつくり、たった1日で簡単な住居が完成した。
「ちゃんとした工具があるわけでもないし、簡単に組み合わせただけのログハウスってとこだが、野宿よりは遥かにましかな?」

こうしてたまに出現する角の生えたウサギや大きな鶏のような生き物を狩りながら
ここに拠点を構えてしばらくは周辺の探索と魔法の習得と練習に費やすことにした。

たまに小屋に体当たりして襲ってこようとする奴もいるがこの森の木は頑丈なようでびくともしない。
兎が角を突き立ててきても刺さりもしないので物理攻撃に対してはかなり頑丈らしい。
イザが加工できたのは魔法で加工しているおかげみたいだ。
それに気づいてから小屋の周囲に簡単な木の柵も設置した。
イザの背の長け程度に加工した木材を並べてツタで縛った程度の柵だが、動物相手には十分だった。
これで夜中に小屋に体当たりしてくる動物もいないので眠りを妨げられる心配もなくなった。

色々やっているうちにスキルの存在も理解した。
木を切ったり、土を掘ったりしてもスキルが得られるようで、色々とスキルを入手できそうなことは試して見た。
ステータスとかは見れないようだが、スキルを習得した瞬間、頭の中でそれらのスキルイメージが浮かんでくる。
木を伐採加工してると制作(木工)スキル、穴を掘って畑を作ってみると農業スキルのように。

魔法はどうやら組み合わせ次第で色々なことに応用できるそうだ。
例えば火と水の魔法を応用するとお湯を出せたり。土と水の魔法を応用すると植物の成長を促進させることができたり、雷と土の魔法で石や土を別の鉱石に変質させたりと、用途は様々なようだ。
マティア曰く魔法を合成は祖父も使っていたようだ。つまりこの世界の人間は魔法を混ぜて色々な用途にあてることが一般的らしい。

数日森を探索していると自生している果物や野菜も沢山見つけることができた。
これらを持ち帰り大きな畑も作ることにした。

農具などは鉱石魔法で鉄を作り火と土の魔法で成形して作った。
始めはあまりうまくいかなかったが徐々に魔法にも慣れてきてそれなりに使える農具も作れるようになった。

鉄を作れるようになったので簡単な剣や槍も作ってみたが、武器の扱いは、てんで素人なのでうまく扱えなかった。
なのでナイフや包丁、鍋など生活に使えるものを中心に作っていった。
木材の細かい加工をするために工具も作ってみたが、ただの鉄ではこの森の木にはまるで歯が立たないらしく、加工しようとすると工具の方が負けてしまった。
食器なども土魔法で作り出して火の魔法で焼成して作れたので生活は充実していった。
(身体能力自体はあちらに居るときよりも遥かに上昇してる感覚はある。いくら魔法が使える世界といっても自衛のために武器の扱い方もどこかで教わりたいものだな)

近場はある程度探索したのでマティアに拠点の警備を任せて少し遠出して見ることにした。

まずは湖を挟んで森の南側の方に足を運んで見た。
いつもの兎や鶏にも出くわしたが食料の備蓄は十分なので水魔法と土魔法を合成して作ったぬかるみにはめて、スルーした。
探索しているとキノコが群生している場所を発見した。
向こうでも見たことのあるキノコがちらほらある。
「おー!これはしいたけ!ひらたけ!!あ、カエンタケ…っぽい見るからに毒々しいものも…。あ!松茸まで!!」
(キャンプ動画見ていてよかった。キノコは毒性が強いものも多いし、可食かどうか見分けられないと危険だからな)
「あ!こっちにはしめじっぽいものも♪」

キノコに夢中になっていると背後に大きなケモノの気配を感じた。
振り返るとそこには5mはあろうかという巨大な猪の姿があった。
「うわっ!でかっ!?猪…か?」
でも所詮は獣、ぬかるみの魔法で足止めして風と雷の魔法を合成して作った刃で一刀両断。

「これで豚肉…じゃなくて猪肉も確保!キノコも沢山取れたし今日は牡丹鍋だな~!」
(…このデカいのどうやって持って帰ろうか…)

心配はなかったようだ、この世界に来てイザの身体能力はかなり上がっているので、数百キロは在ろうかという猪を運べる力を得ていた。
採取用に持ってきた荷車を猪も運べるように大きくしていざ帰宅。
「まだこの世界の住人には出会ってないから、この世界の基準がわからないけど。これって異世界ものによくあるチート体質だよな…きっと。人に会っても隠せるように練習もしないとだな。」


意気揚々と拠点に戻る途中で銀色の狼の群れにも遭遇
数は20以上いるだろうか。さすがにこの数は厳しそうと判断し、逃げようとすると。
狼がイザに喋りかけてきて驚いた。

「人間!その獲物を置いていけばお前に手は出さないと約束しよう!」
それを聞いてイザは驚いた。
今までに出会ってきた獣とは違い知性を持っているようだ。
だがしかし折角の牡丹鍋を諦めるつもりもなく

「やだねっ!折角の獲物を横取りされてたまるか!」
「横取りは貴様の方だろう?見たところ冒険者ではないようだな?」
「横取り?冒険者?俺は一般人だ」
(この世界はファンタジーの定番、冒険者って職業があるのか~。あこがれるなぁ)

「冒険者ではないのだな…?人間が!死の森を縄張りとする我らの交渉に応じなかったことを後悔させてやる!」
そういうと狼たちは一斉に襲い掛かってきた。
動きは目で追えるし避けれないこともなかった。…が、この数に一斉にかかられると無傷というわけにもいかなそうなのでイザは火と水の魔法をつかって霧を発生させた。
(これで見失ってくれれば、面倒だから肉だけ持ってとんずらさせてもらおうかな)

と思っていたが、霧の中を移動しつつ逃げても音と匂いである程度の位置がばれてしまう。さすが狼

仕方がないので逃げるのは諦め風魔法で木の上に隠れそこで打つ手を考えた。
(どうやら狼たちは統率の取れた動きで周囲を囲んでいるようだ。こういう時は統率している奴を叩くと陣形が乱れるっていうよな。よし、あの首に何か下げてる少し大きな個体がボスだな?)
初めに全体に指示を出していた狼に狙いを絞ることにした。

そうしてイザが木の上で作戦を練っていると『アイシクル!』という声とともに尖った氷の塊が飛んできた。
うわっあぶなっ!
イザは慌てて飛びのく。
どうやら狼たちは氷の魔法を使えるようだ。
(でも魔法は詠唱?も必要だったりするのかな?。俺とマティアが無詠唱で出せるのが特別?それか人と獣では違うのか?)

「とりあえずこれはうかうかしてられないな。一気にとどめを刺さないと。」
魔法を使ってくる相手は初めてなので一撃で仕留められないことも考慮して雷の魔法でダメージと痺れを狙ってみるとこにした。

雷の魔法を右拳の一点に集中させて両足と背中には風の魔法を集中させる。
そして風魔法を爆発させ狼に向かって高速で飛びつき殴りかかる。
「なっ!アイシっ…ぐわあああああああ!」
狼のボスは思わぬ一撃に驚き、魔法を発動させる間もなく電撃にやられて地に伏した。

そしてイザの周囲を残りの狼たちが囲う。
(さすがにボスを倒しただけじゃ止まらないか。この数に一斉に魔法を使われるとまずいな。先手必勝で雷の魔法を全方位に広げるか?)
と思い両手に電魔法を広げた瞬間、先ほど倒した狼が声を発し他の狼をけん制した。
「やめろ!我々の負けだ!もう手を出すな全滅するぞ。」
間一髪だった。イザが魔法を放ちかけた瞬間だったので魔法をとめるのは間に合わず、空に向かって巨大な落雷が突き抜けた。
その魔法をみて狼たちは力の差を知ったようで。
全員こうべを垂れた。
どうやら全員負けを認めたらしい。

会話が出来そうなのでそのまま狼たちに猪の肉を拠点まで運んでもらうついでに話を聞いてみることにした。
狼たちはこの森の固有種で銀狼族というそうだ。他に人は居ないか聞いてみたが、中心部付近では人はもう数十年も見ていないらしい。森の南側の入り口付近には数年おきに人が調査に来てるらしい。

狼たちは勘違いしていきなり攻撃したお詫びにイザが森にいる間は周囲を警護してくれるという。
いきなり襲ってきた理由については、本当に獲物を奪われたかと思って襲ってきたそうだ。
(自分たちが追い詰めた獲物を横取りされたと勘違いしたのか、それは怒っても仕方ないか。なんか知らなかったとはいえ、ちょっと悪いことをしたな。)


森の中では銀狼族が最上位の存在のようで狼たちが居たら他の魔物や魔獣はほとんど襲ってこないだろうとの話
個体としては先ほどの猪や大きな熊といった銀狼よりも強い存在はいるらしいが、群れで戦えば多少の被害は出ても負けることはまずないらしい。
なので拠点に一緒に住んでもらうことにした。
銀狼たちを紹介するとマティアは抱き着いて離れなくなった。
毛並みが気に入ったらしい。そこからは常に1匹マティアにつかまっている。
銀狼たちは白銀と黒の綺麗な毛並みでよく見るとなかなか勇ましい見た目をしている。

同居人が増えたので銀狼たちの住居と食料をストックするための小屋も建てることにした。

これが後に世界を変える街の始まりである。


銀狼族は水属性と無属性と闇属性の魔法にある程度の適正があるらしい。中でも得意なのは氷魔法のようで水属性の中でも氷の魔法にはかなり適正があるようだ。
水の属性なのに氷?とイザが不思議に思っていたら説明してくれた。

詳しく聞くと魔法は動の魔法と静の魔法があるらしい。
同じ水魔法でも水は動の魔法で氷は静の魔法。たとえ属性自体に適正があってもこの動と静どちらかしか適正がなかった場合は同じ属性でも使えない魔法もあるようだ。
火の魔法で言えば炎は動、熱を発する魔法が静らしい。
銀狼は水属性の動にも適正がないわけではないが、静程の適正はないので氷の魔法を使っているらしい。

ちなみにマキナは祖父の魔素から作り出された存在なので祖父が持っていた5属性が扱えるようだが銀狼族もマキナも、俺や祖父のように複数の属性の魔法を同時に使うというのは無理なようだ。
(ってことは俺も祖父の血を引いてるから全属性使えるのか。あの適当厨二じいさん案外こっちではすごい人だったのか?感謝しなきゃな。)

ちなみに闇属性というのは基本族とは違い特異属性という分類だそうだ。
基本属性はこの世界で産れた存在なら誰しも必ず最低でも5属性のうち1つの属性の適正を有しているので基本属性と言われるらしい。
特異属性というのは誰しもが持っているわけではなく、銀狼族のように種族による特性だったりするほかに、稀に適正を持つものが合わられる程度で1つの属性だけでも100人に一人程度しか適正を持つものは居ないそうだ。
特異属性は光、闇、空、無が存在していて、その中でも無だけは特殊で、適正を持つものはかなり多いが、適正があっても魔法を使えるとは限らないらしい。
ちなみに彼らの扱える闇の魔法は影を操ったり影にもぐったりできる影魔法らしい。
無属性魔法は無数の魔法が存在していて、それらのどの魔法が自身に適正あるか知らないと扱えないようで、銀狼たちも自分たちに扱える無の魔法がわからないので扱えないようだ。

銀狼族はこの森から離れたことはほとんどないそうなのでそれ以上に魔法について詳しいことはわからないらしい。
これを聞いてイザは自分に他に属性の適正がないのか試してみたところ、光と闇は適正があることが新たに判明した。

そこで先日作った植物の育成を促進する魔法に光の魔法を加えてみたら、更に成長を早めることに成功した。
植物の育成を促進する魔法というのは先日色々試しているときに何となく行けるんじゃないかと思い試してみた魔法がうまくいった偶然の産物だ。

植物に必要なのは肥料と水と思い、土魔法と水魔法を合成して成長を促すイメージをして発芽したての苗に魔力を注いでみたところ数日で成長し収穫を迎えられるようになったのだ。
そこに更に光属性を追加するとなんと一日で実る植物も現れた。そのせいで植えた作物を複合魔法で一気に成長させていると銀狼たちに、新手の植物型モンスター!?と始めはかなり気味悪がられた。
マティアはおいしいものが食べられるなら何でもいいらしい。最近のブームはトマトのようだ。

暫く過ごしていると呼び名がないのも不便なので狼の長だけには名前を付けることにしたら驚かれた。
名前を付けると言ったら銀狼達は皆大はしゃぎ。

銀狼の長には安直だが銀牙と名付けた。
名づけを済ませてよくよく話を聞くと魔物は主従の関係を結んだ相手と契約して名づけをされることで主の能力の一部を授かって強くなるようだ。
これを契約によるギフトというらしい。
主が強ければ強いほどに受け取る能力も高くなり希少な例だが進化も可能とのことらしい。
(というかお前ら魔物だったのか…いや確かに喋ってるし普通の獣とは違うと思ってたけどさ…)

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