上 下
32 / 66
2章

31話 宮廷魔術師アルマ

しおりを挟む
王城を出てギルドに向かう頃には日が落ちかけていた。
「もうこんな時間か」
「やっと馬車酔いがさめてきました…」
「マティアお腹すいた」
「はは、みんなと合流したら飯でも食いに行くとするか」

こうしてギルドで無事6人は合流した。
ギルドのホールでテーブルを囲み互いの状況を確認した。

「それで?イザさん達はアルマに会うことは出来ましたか?」
「いや、流石に王城内を自由に見回ることは出来なかったよ。でもアルマと会えるかもしれないきっかけはエルロンが作ってくれた」
イザとエルロンは顔を見合わせて頷いた。

「リーン。そっちはどうだ?何か新しい情報はあったか?」
「いえ、ガルと二人で町中を聞き込んでみましたが、行方不明事件の噂が広まっているくらいでこれといった新しい情報までは…」
「そうか…」


情報もなく手がかりも掴めない、手詰まりの現状にみな焦って見える。

「それにしても…」
「どうしました?」
何やら思慮に耽るイザにリーンは声をかける。

「いやね、腕利きの物ばかりをさらう目的は何だろうと思ってな」
「腕の立つものを集めて良からぬことを立てているんだろうが、所属も種族もバラバラで、無理やり攫って来た者たちを集めたところで言うことを聞くはずがない。一体何を企んでいるのかが読めない」
(そう、エルロンの言う通りだ。この事件は元から何かおかしい。腕が立つものを集める理由はいったいなんだ?)

「それに…ファランを倒したのに、今でも続いているということは奴と同等かそれ以上の使い手が黒幕側にいるってことだ。そこらの冒険者ならともかく、ナック達はランクこそBランクだが、森で戦闘経験も積んでSランク冒険者にも引けを取らない実力のはず。簡単に攫えるとは思えない」
イザの言葉にも皆共感し頷いた。

「敵がいくら強かろうと人目に触れずにあいつら3人を相手に証拠すら残さずに攫って行くなんて、あり得ない!」
ガルは悔しそうにテーブルを叩いた。

「あのー…」
そんなとき後ろから声が聞こえてきた。そこには猫人族の女性が立っていた。

「君は…?確か受付の…?」
「あ、はい!挨拶が遅れました。私はこちらのギルドで受け付け担当をさせていただいているエリスと申します。あなた方はエルロン様御一行ですよね?お取込み中失礼かと思いましたが、王城から使いの者が見えております」
入口の方を見るとララがこちらをみて軽く会釈をした。

「とりあえず今は考えても仕方がない。犯人が動き出すとしたら俺らが狙われる可能性も高い。今後は今以上に十分気を付けて行動しよう」
「そうですね」

一旦話を切り上げてララの話を聞くことにした。
「はじめてお会いする方もいるようですね。私は王城に使えておりますララと申します」
ララはあいさつし軽く会釈をした。

「あたしはリーン!こっちはガル!よろしくね」
「ガル様のことは、以前からよく王城に出入りされていますので存じております」
(そう言えばガルは頻繁に出入りしてるんだったか)

「ララさん。それでアルマさんと会うことは可能なのか?」
「それがですね。アルマ様はかなり高齢のお方です。最近は部屋から出ることもなく側仕えのもの以外はもう数年誰とも会っていないような状態です。そのアルマ様専属の侍女に取り次ぎましたが、やはり面会は断られたそうです」
「そうですか…」
(やっぱすんなり会ってはくれないか…)

「ですが…アルマ様からの手紙を預かってきております」
「手紙?」
ララは机の上に預かってきたという手紙を差し出した。
その手紙を見た瞬間イザとマティアは何かを感じ取った。

「本当にこの手紙はアルマさんから俺達に向けての手紙なのか?」
「そのように承っております。それと一言だけ言伝も。『内容を見て、私を信用できたなら手紙の内容に従うように』と」
意味深な話に一同は戸惑っていた。
(信用?一体どういうことだ?向こうは会ったこともない俺らのことを知っているというのか?)

「では確かに手紙と言伝はお伝えしましたので私はこれで」
そういうとララは軽く会釈をして去って行った。

「何今の言伝!?アルマってほんとに何者なの!?」
「何者かはまだわからないが、おそらく王やララの口ぶりから察するにマティアと同じエーテロイドではないのかもしれない」
「そうなの?」
リーンはなんでわかったの?と言わんばかりの顔をしていた。

「王もララも高齢なのでといっていた。だがマティアはエーテロイドは年を取らないと言っている。そうだな?」
「うん。マティアは成長しない」
「だそうだ。つまり今回はエーテロイドに会うという目的は敵わなかったようだ。…だがたった今一つ気になることもできた。とりあえず今は王からも依頼されている事件の解決を急ごうと思う。ナック、フェル、ミーシャの身も心配だしな」
「頼みます…」
ガルの表情は張りつめていた。

「ひとまず村に戻ってラナたちへの報告を、ついでにこのアルマからの手紙も皆で一緒に確認することにしよう」



――宮廷魔術師アルマの自室
「ごほっ!ごほっ!」
「アルマ様っ!」
侍女は倒れ込むアルマの体を支えた。
「ありがとう。ガラテア。もう大丈夫です。手紙と言伝は届けてくれましたか?」
「はい。ララに頼みましたので彼らの元へ確実に届けてくれると思います」

「そう…ララにですか。では彼らに期待するとしましょう…」
「…はい…」
アルマは何かを悟ったような顔をしている。
そんなアルマを見てガラテアはアルマの手を強く握りながら少し悲しい顔をしていた。

しおりを挟む

処理中です...