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2章

52話 戦いを終えて

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イザ達は冒険者ギルドがあった場所に集まったころには夜が明けて朝日が射し始めていた。

戦いは終わったが王城は半壊。
街の中心部の建物はかなりひどい有様だ。


「やっと終わったな……」
「ええ……」
イザの言葉にガルは悲しい表情をしながら返事をした。

無理もないゲイルとランディス。二人の兄を一晩のうちに失ったのだから。
二人は敵だったとはいえ割り切れるものではないだろう。

そんなガルにルナ王女が近づいて言った。
「もっと胸を張りなさいガル=ラグナ。そんなことではラグナの名が泣きますよ」
「ラグナの名……か。ふっ。そうだな……。俺が兄たちの分まで頑張るとするよ」

「お疲れ様……ガル」
そういうと泣きながらルナはガルに抱き着いた。
ガルもそれを優しく抱き寄せる。

「バカッ!心配したんだから……」
ルナはガルに抱きしめられながらガルの体を叩いた。
「ごめん……」

暫くそんな二人を皆優しい気持ちで見守った。
今回ばかりはフェルやミーシャも静かに二人を見守っていた。

「こほん。そろそろいいかの?」
バロン王が二人が落ち着いたのを見て話しを始めた。
それに気が付いて二人は我に帰り慌てて離れ、恥ずかしがっている。

「今回の件、私の王としての至らなさも原因の一旦。イザ殿達、ガル、アルマ、ガラテアよ。この国を、民を救ってくれと本当にありがとう」
王は深々と頭を下げた。
それを見てガルとガラテアは慌てていた。
「仮にも王が頭を下げるなんて……!」

「城も玉座もなくなってしまったのだ。今はただの1国民。危機を救ってくれた者に頭を下げて何が悪い。はっはっは」

王は笑った直後真面目な顔をして語り始めた。
「私は王の座は今日限りで退任することにする」


「なっ!今この国には王がまだ必要です!!」
ガルが叫んだ。

「わかっている。だが必要なのは私じゃない。お主だ……ガルよ。今回の件を公表すれば民衆の指示は間違いなくお前に集まる。これからニルンハイムの王としてこの国を守ってやってくれないか?さすがに私の一存だけで決められんので飽くまでも先代王として推薦するだけだがな」

「そんな大役……俺に務まるとはとても思えません……」

「俺にはお前しか適任者は居ないと思うぞ」
「イザさん?何故俺なんです……」
「俺らと一緒に戦い、敵の内通者の一人も見破り、敵の首魁を追い詰めたのはお前だ。今回の一番の功労者はガル。お前だよ」
イザのその言葉に全員頷いた。

「この国はこれから変わる必要がある。ランディスのような者を二度と出さないためにもな。言い方は悪いけど一度壊れたんだ。作り直すにはちょうどいい機会だと思うぞ」

「でも……俺には冒険者って仕事が……」
ガルはナック達の方を見た

ナックはため息を付きながら口を開いた。
「はぁ……。俺らのことは心配いりませんよ。もう敵につかまるなんてへまは二度としません。今以上に強くなって見せます」
「だにゃ!あたしらリーダー越えてSSランクになってやるにゃ♪」
「ふふふ。元リーダーが国を救った英雄で現国王ってなったら自慢できますね♪」

「みんな……」

「心配するな。お前の抜けた穴には俺が入ってやるつもりだ」

「エルロンさんが来てくれるなら100人力だにゃ♪」
「元リーダーよりも頼りになりますね!」
「まぁ!この地区最強の冒険者のエルロンさんが我々のチームにですか!?」

「俺もそろそろ一人に限界を感じていたからな。イザさん達と会ってまだまだ強者が沢山いることも知った。そして今回のイスカリオテの件で、人と協力することの大切さを学んだよ。一人でやれることには限界があるとな」

「いつも高飛車で高慢な貴方がいつになく素直じゃーん」
ミアがにやにやしながらエルロンをからかう

「貴様!今ここで倒してやる!」
「私に勝てると思ってるのか?」
二人がまた決闘を始めてしまった。

街がさらに壊れかねないと、ラナが二人を雷の魔法で一蹴。
二人は黒焦げになりその場に倒れた。

「こんな時に暴れる人には眠ってもらいました♪」
全員ラナの笑顔に恐怖を感じた。


「イザ……様」
そんなとき、弱弱しいアルマの声が聞こえたのでイザは駆け寄った。
アルマはガラテアの膝の上で弱り切っていた。
「アルマさん……」
イザは一目見てアルマがもう長くないのだと悟った。
その理由は分からないがなぜかそう思った。傍に居たマティアも珍しく神妙な雰囲気をしている。

「イザ様に伝えておかなければいけないことがあります……。私はマティアさんと近しい存在ですが、私を造ったのは賢者ヨゼフではありません。私を造った者の名はユダ……。その者もまたマティアさんと同じ賢者の落とし子です」

またでたな、賢者ヨゼフか……じいさんの名前と同じだ。だがどういうことなんだ……なんで何千年も前に……
「賢者の落とし子ってのはエーテロイドのことだよな……。アルマはエーテロイドに作られたエーテロイド?ってことなのか……?」
「はい。私は今から200年ほど前にユダによって造られました。ユダは初めこの国を潰そうとして私を造ったのです」

その言葉に全員衝撃を受けた。

「私はこの国を内部から崩壊させるために100年と少し前に遣わされました。ですが先々代の王……ヘイロン様にあって人の心を頂きました。人を信頼する心。尊ぶ心。愛する心……人の喜びを私に教えてくださいました。そこで誓ったのです。私は人を滅ぼすのではなく人を守るためにこの国に留まると。ですがそれをすぐにユダに感づかれ、ユダは魔界からケルベロスを召喚して私ごとこの国を亡ぼすために差し向けてきたのです。今まで黙っていて申し訳ありません」

「そのユダって奴はそれからどこに行ったんだ?」

「わかりません……近くにいたならケルベロスを私が封印したのを知っているので何か仕掛けてきていたと思いますがこの100年一切動きが無いところを見ると、ケルベロスを召喚したことで魔力が枯渇しかけたのでどこかで身を潜めているのかもしれません」

「なるほど。アルマはユダからエーテロイドについてなにか聞かされてないか?」

「伝説の賢者から作り出された完璧な生命体と聞かされています。老いることもなく、食事も睡眠も不要で、大気中の魔素を吸収して半永久的に活動が可能だと……。私はユダがエーテロイドを真似て作り出した失敗作なんです。私は魔素を取り込むことが出来ません。老いはしませんが体内の魔力は有限なのでマティアさんとは違います」

「アルマはマティアと同じ人間だよ」

「ふふ。ありがとうマティアさん……。ユダから聞いた話では賢者の落とし子は全部で12体。その中で3体だけユダがもらしていたのを覚えております。原初の落とし子シモン。第四の落とし子アンドレアス。第六の落とし子バルトロメオ。彼らをユダは一番敵対視しておりました。もし彼らに会えたらマティアさんとは協力関係になれるかもしれません」

「シモン、アンドレアス、バルトロメオ……か。わかった探して見るよ」

「この国を……救ってくれてありがとうございました……私はもう……思い残すことは在りません」

今にも事切れそうなアルマを見てガラテアの目からは涙があふれだしていた。
そのガラテアの顔にそっとアルマは手を当てた。

「ガラテア……。今まで本当にありがとう。そしてごめんなさい……私の力が足りないばかりに貴方を私の願いに突き合わせてしまったこと……本当に申し訳なく思っています……」
「そんなことはありません!謝らないでください……。私はアルマ様にお仕え出来て本当に楽しかったし、幸せでした……!」
「ふふ、ありがとう。貴方は本当に優しい子ですね……。イザ様……この子のことをどうかよろしくお願いします」
イザは静かに頷いた。

「ガラテア……あなたはこれからは人と関わり……人と共に生きる喜びを知り……いつか私のように人を愛する喜びも……。あり……がとう……私は幸せ……でした――」
ガラテアに最後の言葉を掛けるとアルマは静かに息を引き取った。

アルマの体は徐々に崩れ去って行き、そこには小さな魔核だけがのこった。
ガラテアはその魔核を抱きしめ泣き続けた。

全員アルマを思い目を閉じて黙とうをささげていた。
その時、崩れた城の方から叫び声がする。
生き残った兵士たちが城を確認に行っていたはず。

全員慌てて城の方へ走った。
近くに来たところで兵たちが叫んでいた理由が分かった。
ケルベロスが意識を取り戻して起き上がろうとしていた。
兵たちはケルベロスを取り囲んで武器を構えている。

ランディスの策略で魔力を吸われ小さくなったとはいえ、まだ人の数倍の大きさはある。兵たちの武器を持つ手は震えていた。

兵たちを引かせ、イザとガル、そしてラナが前に出た。
ケルベロスが完全に立ち上がって動き出す前にとどめを刺そうと3人が構えたところでセバスが声を挟んだ。
「その魔獣……敵意が無いように感じられます」
その言葉を聞いてケルベロスをよく観察してみると確かに敵意を感じられない。
そしてケルベロスは立ち上がるとガルの方を向き直すとイザの前に頭を下げひれ伏した。
「これは……!?」

「その魔獣はどうやらイザ様のことを新たな主と認めたようです」

「は?」

「主従の契約を求めているように見えます」

「って言われてもなぁ……城を滅ぼした魔獣だぞ?」
イザは後ろを振り返ってみなの意見を求めた。
「イザさんが従わせるなら暴れる心配もないんじゃないですか?」
ミアはあっけらかんとそう答えた。
「また、何も考え無しに……」
エルロンがミアにそう言うとまた二人は喧嘩を始めた。
だが再度ラナに制止される。

「イザ様がいいと思うならそれでいいのではないでしょうか」

「はぁ……どうなっても知らんぞ」
こうしてイザはケルベロスの額に恐る恐る手をかざし契約を開始した。
するとケルベロスの体から急に薄い紫色の鎖が浮き上がり砕け散り体が光始めた。
「なんだ今のは!?」

光が収まり契約が完了したようだ。
「ありがとうございます」
急に話始めたケルベロスに皆驚いた。

「お、お前喋れたのか……!?」
「はい、今までは闇の呪縛によって意識を操られていたようです。先ほどの者に魔力を吸い取られたときに一緒に呪縛も緩まっていたので貴方の力にすがりました。操られていた時のことははっきりと覚えていませんが、この都市を破壊することしか考えられませんでした」
「これほどの呪縛を強制的に解除するとは……さすがイザ様」

「セバス。何か知っているのか?」
「魔界には契約とも隷属とも違う、魔力による呪縛で敵を従属させる手法が存在します。一度かけてしまえばある方法以外では呪縛を解くことは不可能。それは、術者が施した魔力より遥かに強大な魔力をもって隷属か主従の契約を結ぶという方法です。下位の魔物であれば上書きも可能でしょうが……ケルベロスに呪縛を施せるほどの者の魔力を上回るなんて実質不可能と思っておりました……。流石私が主人に選んだお方です」

「戦いの中で貴方にとてつもないない魔力を感じていたのでもしかすると……と思っていました。我を呪縛から解放していただきありがとうございます」

「別にいいよ。お前を信じていいのか……?これからは絶対に暴れたりしないのか?」
「私は元々魔界の門を守っていた守護者です。無闇な破壊を求めたりはしません」
「そうなのか?」
イザはセバスに確認した。
「はい、その者の言葉は真実です。私が知っている限りケルベロスは魔界の魔獣にあって秩序を司る者でした」
「我を知り……しかもその魔力。貴方はもしや――」
ケルベロスがそう言いかけたところでセバスは口の前に人差し指をたてて見せて黙らせた。

「?」
「いや、何でもありません。イザ様、我を解放していただきありがとうございました。魔界に戻れるその日まで貴方に忠誠を誓います」
魔界か……。なんか面倒な話が増えた気がするけど、こいつをこのままここに放置するわけにはいかないし、呪縛が解けたなら問題ないか。
「よし、これで本当に今回の件は解決かな?」

「ええ、我々で最後です」
城の瓦礫の方から声がした。
そこには大臣を引きずって出てきたララの姿があった。

「ララさん!?」
ララを知っている者達は驚いた。

「金に目をくらまし、事件に加担していたこいつが逃げないように後をつけておりました」
そういえば大臣のこと忘れてた……。

ララは気絶した大臣と手に持った剣をバロン王の前に投げ捨てると膝をいた。
「私は王に使える身でありながら、敵組織に加担しておりました。そこに寝ころぶ大臣と同罪です。その剣で我らの処分をお願いいいたします」

王はだまって剣を拾い上げると静かに返事をした。
「……わかった。その方らを反逆と国家転覆罪の罪で処罰する」

「まって!ララさんは私達が潜入するとき見逃してくれたのよ!きっと何か理由があって――」
リーンの言葉を王は手を広げて制止した。
そして剣を振り上げた。そのまま王は黙って剣を振り落とす。


「……?」
しかし剣はララの頭の前で止まっていた。

「そなたの話はルナに聞いておる。幼い兄弟姉妹を養うために金が必要だったということもな。敵に与していたのもそれが原因なのだろう」
「し、しかし!私が何の罪もない城の兵士たちを攫ったのは事実です……!それに……ファランという賊を城内に手引きしたのも……私です」

「ふむ……。ファランに奪われた物はイザ殿達の働きでもう戻ってきておる。イスカリオテに囚われていた者たちもラナ殿やエルロン殿達の働きでみな無事と聞いておる。お主のしたとこでは一人の犠牲者も出ておらん。ラナ殿達を手引きして組織の壊滅に努めたことで減刑もされよう。罰をというのならこれから新しい王に誠心誠意仕え、国の為に尽くすことをそなたのへの罰とする」

一瞬ヒヤリとしたが王の言葉に皆笑みをこぼした。

「大臣は別だ。今回の件に関わらず、こやつの悪い噂は以前から耳にしておってな。だが尻尾がつかめずにいた。今回の件で目撃者も多い。これでようやく処分を言い渡すことができる。こやつは禁固刑に処す」

王の言葉を聞いて周りに居た兵士たちは大臣拘束すると連れて行った。
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