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第二話
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今日は仕事が休みの日であったが、この後に自分が受け持つ新商品についての準備をするつもりであった雄造は、カジュアルなシャツとチノパンに着替えて、昨日コンビニエンスストアで買っておいたあんパンとコップ一杯のミルクで朝ごはんを手短に済ませようと思った。
あのでっぷりとした男のことが、食べている間も頭からなかなか離れることはなかった。とにかく食べることに集中しようとするが、気になってあんパンのひとつもゆっくり食べていられないのだ。
突然の出現で、あっけにとられているところで、言うことだけ言ってすぐ消えていなくなってしまった男。
(なんだかなぁ・・・・・・)
と思いながら、雄造はゆっくり食べていられないあんパンを無理やり口に押し込んで、カバンの中から必要な書類やパソコンを取り出した。
今日は何としても商品販売に関する企画書の作成を仕上げなければならない。いい企画が思い浮かぶようなこともなかったが、今日中に目途をつけて、明日、上司に説明しなければならなかった。
そのことで頭がいっぱいだった雄造はあの男の言うことはいつまでも気にしているわけにはいかない。歯磨きに集中していると、身勝手に振る舞うかのごとく頭のなかで再びあの男の声がとどろいてくる。
「あんた、最近身だしなみがしっかりしているなぁ、髪もちゃんと整っているし。今まではそんなことはなかっただろう? どういう風の吹き回しだい? よしよし、その調子で今日一日せいぜい気を抜かないでがんばるんだなん」
雄造は髪の毛を掻きむしって、歯ブラシを思わず放り投げてしまった。出掛けの前にあれこれと雄造をかまいたがるでっぷり男。
激励のような一言が脳裏を突き抜けると首を左右に振って何かの妄想だと自分の精神を疑いたくなった。すると、
「今日は自分をよく戒めるんだ。気を付けないと散々な目に会うことになる。今日はまれにない大凶だ。ただし慎重に物事を進めれば、その先は道が拓けるぞ」
頭に今もなお響き渡る男の声に気の小さな雄造は目の前が真っ暗になって、気持ちが沈んでしまった。
早く忘れようと、ひと呼吸置いて机に向かって今日の予定の企画案の作成に取りかかり始めた。雄造はアイデア商品の開発部門に配属されていて、この一週間は夏に向けた新しい生活新商品の企画に全精力を傾けていたのである。
あの男のことは何かの間違いだ。気にしないようにしようと雄造は何度も自分に言い聞かせて仕事に集中しようとした。ともかく、さっきの事は雄造にとって蚊帳の外であってほしいと願った。
日頃からパソコンにデータとして溜めていたアイデアに眼を通したが、頭の中ではまだ何も新商品の構想が固まってはいなかった。けれども、食生活で役に立つグッズを早く具現化したいと思っていた。
手短かに終わらせて、早くいつもの隣町のパチンコ店でリフレッシュがしたいと思うほうがどうしても先行してしまう。そう感じながらパソコンの電源を入れると…
「うわぁ」
いきなり、パソコンがウンウンとうなり出したかと思うと、いつもと違う画面が次々に展開し始めたではないか。いったい何が起こったのか雄造には理解ができなかった。
間もなくパソコンの画面も正常に戻ると、またしてもあの男が画面に現れた。雄造は目玉が飛び出るほどギョっとした表情を見せた。
「へっへっへ、今日一日、あんたの後ろについておいてやるよん。大船に乗ったつもりでいたらいい」
「なんで、また・・・・・・」
「あんたが今日死ぬほどいやな思いをするんじゃないかと思ったからね。お気の毒だもんね」
「いい加減にしてくれよ、そんな予言は信じないぞ」
「信じようが信じまいがあんたの勝手だけどさ、身の危険を案じてのことだ。一日背後で厄除けのおまじないを唱えさせてもらうからよん」
その途端、パソコンの動画が一瞬のうちに落ちたかと思うと、辺りは急に静かになった。
聞こえてくるのは外の自動車の行き交う通過音だけであった。薄気味悪さを感じながらも、あの男の予言は絶対に信じようと思わなかった。
以前、雄造は悪質な霊感商法に絡まれてさんざんな目にあったことがあったからである。それ以来、見ず知らずの占いのようなものに関わることは避けてきたのだ。
どうもここでは落ち着いて仕事にとりかかれないので、雄造は気をまぎらすために外出することにした。
あのでっぷりとした男のことが、食べている間も頭からなかなか離れることはなかった。とにかく食べることに集中しようとするが、気になってあんパンのひとつもゆっくり食べていられないのだ。
突然の出現で、あっけにとられているところで、言うことだけ言ってすぐ消えていなくなってしまった男。
(なんだかなぁ・・・・・・)
と思いながら、雄造はゆっくり食べていられないあんパンを無理やり口に押し込んで、カバンの中から必要な書類やパソコンを取り出した。
今日は何としても商品販売に関する企画書の作成を仕上げなければならない。いい企画が思い浮かぶようなこともなかったが、今日中に目途をつけて、明日、上司に説明しなければならなかった。
そのことで頭がいっぱいだった雄造はあの男の言うことはいつまでも気にしているわけにはいかない。歯磨きに集中していると、身勝手に振る舞うかのごとく頭のなかで再びあの男の声がとどろいてくる。
「あんた、最近身だしなみがしっかりしているなぁ、髪もちゃんと整っているし。今まではそんなことはなかっただろう? どういう風の吹き回しだい? よしよし、その調子で今日一日せいぜい気を抜かないでがんばるんだなん」
雄造は髪の毛を掻きむしって、歯ブラシを思わず放り投げてしまった。出掛けの前にあれこれと雄造をかまいたがるでっぷり男。
激励のような一言が脳裏を突き抜けると首を左右に振って何かの妄想だと自分の精神を疑いたくなった。すると、
「今日は自分をよく戒めるんだ。気を付けないと散々な目に会うことになる。今日はまれにない大凶だ。ただし慎重に物事を進めれば、その先は道が拓けるぞ」
頭に今もなお響き渡る男の声に気の小さな雄造は目の前が真っ暗になって、気持ちが沈んでしまった。
早く忘れようと、ひと呼吸置いて机に向かって今日の予定の企画案の作成に取りかかり始めた。雄造はアイデア商品の開発部門に配属されていて、この一週間は夏に向けた新しい生活新商品の企画に全精力を傾けていたのである。
あの男のことは何かの間違いだ。気にしないようにしようと雄造は何度も自分に言い聞かせて仕事に集中しようとした。ともかく、さっきの事は雄造にとって蚊帳の外であってほしいと願った。
日頃からパソコンにデータとして溜めていたアイデアに眼を通したが、頭の中ではまだ何も新商品の構想が固まってはいなかった。けれども、食生活で役に立つグッズを早く具現化したいと思っていた。
手短かに終わらせて、早くいつもの隣町のパチンコ店でリフレッシュがしたいと思うほうがどうしても先行してしまう。そう感じながらパソコンの電源を入れると…
「うわぁ」
いきなり、パソコンがウンウンとうなり出したかと思うと、いつもと違う画面が次々に展開し始めたではないか。いったい何が起こったのか雄造には理解ができなかった。
間もなくパソコンの画面も正常に戻ると、またしてもあの男が画面に現れた。雄造は目玉が飛び出るほどギョっとした表情を見せた。
「へっへっへ、今日一日、あんたの後ろについておいてやるよん。大船に乗ったつもりでいたらいい」
「なんで、また・・・・・・」
「あんたが今日死ぬほどいやな思いをするんじゃないかと思ったからね。お気の毒だもんね」
「いい加減にしてくれよ、そんな予言は信じないぞ」
「信じようが信じまいがあんたの勝手だけどさ、身の危険を案じてのことだ。一日背後で厄除けのおまじないを唱えさせてもらうからよん」
その途端、パソコンの動画が一瞬のうちに落ちたかと思うと、辺りは急に静かになった。
聞こえてくるのは外の自動車の行き交う通過音だけであった。薄気味悪さを感じながらも、あの男の予言は絶対に信じようと思わなかった。
以前、雄造は悪質な霊感商法に絡まれてさんざんな目にあったことがあったからである。それ以来、見ず知らずの占いのようなものに関わることは避けてきたのだ。
どうもここでは落ち着いて仕事にとりかかれないので、雄造は気をまぎらすために外出することにした。
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