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第二章 少年期編
第十七話 本物の無気力の新たな友人(8)
「おい!そこで何してる!」
明らかに敵意ある呼びかけになんとも言えない気持ちで顔を上げる。
正面から男が五名歩いてきている。
見るからに悪そうな奴………ではなく、制服を纏った騎士達だ。そういえば騎士団が捜索にあたってるって話だったな。
騎士さん達は濃紺のマントを靡かせながらヒーローの如き佇まいで近づいて来る。
互いに顔が見える距離まで来ると、先頭に立っていた男が仁王立ちで止まった。
見覚えのある制服だと思ったらエディがいつも連れてる騎士さんとマントの色以外全く同じだ。
つまりこの人達は全員皇室騎士団所属ということ。皇室騎士団は貴族家が所有する騎士団とはわけが違う。実力は勿論手にしている権限も普通の騎士とは比べ物にならないと聞いたことがある。
だからこの横柄な態度は自身の地位に対する確固たる自信から来るものなのだろう。
男はまず俺を一瞥するとすぐにハクへと視線を移した。
「ははっ、これは驚いた。まさか犯人がこんな子どもだとはな」
犯人?何がどうなってそんな思考に………
俺はここで漸く今の自分の状況を冷静に顧みた。
台車に乗せられ何処かに運ばれていく俺(貴族っぽい服着用)。
貴族の子どもを台車に乗せて運んでいる子ども(平民っぽい服着用)。
やべーめっちゃ誘拐っぽい。
「犯人?犯人が見つかったんですか?」
ハク。俺が君の弟になってからまだ数時間しか経っていないが自分の兄が天然だということは十分理解した。
「つまらない冗談は言わない方がいい」
うちの兄は大真面目です。多分冗談とか言うタイプじゃありません。
「子どもとはいえ容赦はしない」
先頭の男が剣を抜く。それが合図かのように後ろの四人まで剣身を露わにした。
ハクは未だ現状を把握しきれておらずコテンと首を傾げている。
これは本当に駄目な感じだ。喋るの怠いとか思ってる場合じゃない。
「俺誘拐されてない」
わりと頑張って声を張った。覇気はなかったが無事騎士さんの耳には届いたようで視線が俺に戻って来る。
「隊長、たしかにこの子情報にあった容姿と全然違いますよ。別人なんじゃないですか?」
「ふん。だからお前らは三流止まりなんだよ。この子はきっと新たな被害者だ。
君、怖がらなくていいから本当のことを話してごらん?」
一番偉そうな男は一つの部隊の隊長さんだったらしい。
わざわざしゃがみ込むとちょっとだけ癪に障る笑顔で問いかけてきた。
こういう時は面倒くさがらずにはっきり言わないと。
「怖がってない。誘拐されてない。ハクは良い子」
よし、ちゃんと言えたぞ。
「………」
隊長さんは俺の言葉を聞いた後数秒黙る。しかし直ぐに破顔してもう一度ハクの方を向いた。
「なるほどそういうことか!君なかなか卑怯な手を使うなあ」
「………?僕は卑怯な手なんて使ってないですよ」
「嘘をついても無駄だ。この子を見れば一目瞭然だ。友達になるフリをして近づき同意の上で連れて行く。子ども達が自発的に付き人から離れていったのなら不審な目撃証言がないのも頷ける」
不審な目撃証言なかったんだ…。俺真っ昼間から堂々と台車で輸送されてたんだけどな…。
「まったく。平民の餓鬼が使いそうな単純で汚いやり口だよ。同じ人間であることが恥ずかしいな」
「………」
隊長さんは俺のことを被害者だと認識していて一応助けようとしてくれている。
それを知った上でなお思う。俺コイツ嫌いだ。
「………ルシオン?嫌なこと言われましたか?」
ハクは台車から手を放して俺の顔を覗き込んだ。
「平民が気安く貴族に触れるな!」
ビュンッ、と。空を切る音が耳元に走る。
接近した俺とハクの隙間に隊長さんの剣が振り降ろされたのだ。
ハラリ。ハクの毛先が道に落ちた。
無駄に喋るのは疲れるから好きじゃない。話が通じないであろう相手にわざわざ自分の意見をぶつけたって意味はないし面倒なことになるだけだ。
けれど今回ばかりは考えるより先に口に出していた。
「騎士が気安く子どもに剣を向けるな」
「………は?」
「自分より弱い相手に簡単に武力を行使するような奴が同じ人間だなんて恥ずかしいって言ったんだ」
髪を掴もうとしたのか殴ろうとしたのか。男が俺の頭に手を伸ばす。
しかしその手が届くことはなく。
───ガッシャァァアアアアン!!!
家屋が倒壊でもしたのかという程の派手な音とともに隊長さんの身体がすぐ横にあった店に突っ込んだ。
この派手な暴力。リッツェと父様の姿が脳裏を過る。
しかし今目の前に立っているのは頼りになる立派な大人などではなく、まだ成長過程の序盤にいる小さな子どもだった。
「僕の弟に汚い手で触らないでください」
どうやらハクは隊長さんにとって『自分より弱い相手』ではなかったようだ。
明らかに敵意ある呼びかけになんとも言えない気持ちで顔を上げる。
正面から男が五名歩いてきている。
見るからに悪そうな奴………ではなく、制服を纏った騎士達だ。そういえば騎士団が捜索にあたってるって話だったな。
騎士さん達は濃紺のマントを靡かせながらヒーローの如き佇まいで近づいて来る。
互いに顔が見える距離まで来ると、先頭に立っていた男が仁王立ちで止まった。
見覚えのある制服だと思ったらエディがいつも連れてる騎士さんとマントの色以外全く同じだ。
つまりこの人達は全員皇室騎士団所属ということ。皇室騎士団は貴族家が所有する騎士団とはわけが違う。実力は勿論手にしている権限も普通の騎士とは比べ物にならないと聞いたことがある。
だからこの横柄な態度は自身の地位に対する確固たる自信から来るものなのだろう。
男はまず俺を一瞥するとすぐにハクへと視線を移した。
「ははっ、これは驚いた。まさか犯人がこんな子どもだとはな」
犯人?何がどうなってそんな思考に………
俺はここで漸く今の自分の状況を冷静に顧みた。
台車に乗せられ何処かに運ばれていく俺(貴族っぽい服着用)。
貴族の子どもを台車に乗せて運んでいる子ども(平民っぽい服着用)。
やべーめっちゃ誘拐っぽい。
「犯人?犯人が見つかったんですか?」
ハク。俺が君の弟になってからまだ数時間しか経っていないが自分の兄が天然だということは十分理解した。
「つまらない冗談は言わない方がいい」
うちの兄は大真面目です。多分冗談とか言うタイプじゃありません。
「子どもとはいえ容赦はしない」
先頭の男が剣を抜く。それが合図かのように後ろの四人まで剣身を露わにした。
ハクは未だ現状を把握しきれておらずコテンと首を傾げている。
これは本当に駄目な感じだ。喋るの怠いとか思ってる場合じゃない。
「俺誘拐されてない」
わりと頑張って声を張った。覇気はなかったが無事騎士さんの耳には届いたようで視線が俺に戻って来る。
「隊長、たしかにこの子情報にあった容姿と全然違いますよ。別人なんじゃないですか?」
「ふん。だからお前らは三流止まりなんだよ。この子はきっと新たな被害者だ。
君、怖がらなくていいから本当のことを話してごらん?」
一番偉そうな男は一つの部隊の隊長さんだったらしい。
わざわざしゃがみ込むとちょっとだけ癪に障る笑顔で問いかけてきた。
こういう時は面倒くさがらずにはっきり言わないと。
「怖がってない。誘拐されてない。ハクは良い子」
よし、ちゃんと言えたぞ。
「………」
隊長さんは俺の言葉を聞いた後数秒黙る。しかし直ぐに破顔してもう一度ハクの方を向いた。
「なるほどそういうことか!君なかなか卑怯な手を使うなあ」
「………?僕は卑怯な手なんて使ってないですよ」
「嘘をついても無駄だ。この子を見れば一目瞭然だ。友達になるフリをして近づき同意の上で連れて行く。子ども達が自発的に付き人から離れていったのなら不審な目撃証言がないのも頷ける」
不審な目撃証言なかったんだ…。俺真っ昼間から堂々と台車で輸送されてたんだけどな…。
「まったく。平民の餓鬼が使いそうな単純で汚いやり口だよ。同じ人間であることが恥ずかしいな」
「………」
隊長さんは俺のことを被害者だと認識していて一応助けようとしてくれている。
それを知った上でなお思う。俺コイツ嫌いだ。
「………ルシオン?嫌なこと言われましたか?」
ハクは台車から手を放して俺の顔を覗き込んだ。
「平民が気安く貴族に触れるな!」
ビュンッ、と。空を切る音が耳元に走る。
接近した俺とハクの隙間に隊長さんの剣が振り降ろされたのだ。
ハラリ。ハクの毛先が道に落ちた。
無駄に喋るのは疲れるから好きじゃない。話が通じないであろう相手にわざわざ自分の意見をぶつけたって意味はないし面倒なことになるだけだ。
けれど今回ばかりは考えるより先に口に出していた。
「騎士が気安く子どもに剣を向けるな」
「………は?」
「自分より弱い相手に簡単に武力を行使するような奴が同じ人間だなんて恥ずかしいって言ったんだ」
髪を掴もうとしたのか殴ろうとしたのか。男が俺の頭に手を伸ばす。
しかしその手が届くことはなく。
───ガッシャァァアアアアン!!!
家屋が倒壊でもしたのかという程の派手な音とともに隊長さんの身体がすぐ横にあった店に突っ込んだ。
この派手な暴力。リッツェと父様の姿が脳裏を過る。
しかし今目の前に立っているのは頼りになる立派な大人などではなく、まだ成長過程の序盤にいる小さな子どもだった。
「僕の弟に汚い手で触らないでください」
どうやらハクは隊長さんにとって『自分より弱い相手』ではなかったようだ。
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