無気力系主人公の総受け小説のモブに本物の無気力人間が転生したら

7瀬

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第二章 少年期編

第四十二話 本物の無気力は誘拐される(8)



 騎士から全てを聞き出した後、四人は立ったまま円になって会話する。

「俺が一人で乗り込む」

 ゼオンの提案に首を振る者は誰もいなかった。

「たしかにそれが一番妥当だろうな。辺境で騒ぎが起きていることを悟られたくない。ただでさえ最近ヴァイツェルン王国の雲行きが怪しい」
「でも問題は行き方だよね。馬を走らせても着くのは一か月後だ」
「伯爵なら走った方が速いだろうけどそれでも大して変わらないだろうしねぇ」

 皆が辺境へ向かう手段を話し合う中ゼオンは黙って考え込む。

(アイツさえいれば………)

「先に魔塔へ協力を要請しておいて正解だな。アーティファクトなら最速で五日でできる。
 ところで一つ確認しておきたいんだが………」

 皇帝はゼオンに目を向けた。

「リッツェはどこにいる?今回の件、正直アイツさえいればとっくに丸く納まっていただろう」
「………」

 ゼオンは何も応えない。

「そうか死んだか。アイツ生き急いでたからな」
「陛下!人の心がないんですか!」
「そうだよ!リッツェちゃんはそんなやわじゃないし!」
「なら裏切ったんだな」
 ───「それはない」

 ゼオンがあまりに強く言い切るので三人とも驚いて言葉も出ない。
 一番最初に動いたのはやはり皇帝でゼオンの頬を思い切り引っ張った。

「なんだ」
「いや。お前ほんとにゼオンか?中に悪魔がいるんじゃないだろうな」
「俺の中に悪魔がいたら帝国はとっくに滅んでいるだろうな」

 シーン。
 考えたくもない事態に部屋には再び沈黙が流れる。

 そしてまたまた最初に動き出した皇帝は未だ縛られたままの騎士に目を向けた。

「アイツに勝てる奴がいるとは思えないが一応聞いておこう。まさか君達がリッツェに何かしたのか?」
「………」

 騎士は黙って俯いたままだ。

「はあ。魔力が枯れてしまいそうだ」

 皇帝が文句を言いつつももう一度桃惑香を使おうとした時、人の気配を感じて全員が口を噤んだ。

 先の騒ぎでゲイレンを含め神官達は皆神聖力を使い切っている。
 地下への入口に騎士が待機しているだけで結界もないため侵入者が現れてもおかしくない。

 ゼオンとゲイレンが皇帝と皇后を庇うように立つ。
 しかし皇帝と皇后は足音で正体に勘づいたらしく皇帝は目を輝かせた。

「失礼いたします」

 入って来たのはエイデンだった。

「エイデン!どうしたんだ!寂しくなったのか!」
「陛下、お願いですからちょっと黙って」

 皇后に注意されて皇帝が渋々口を閉じる。

「これ、使えますか?」

 エイデンは持っていた水晶玉をゼオンに差し出した。

「これは………」
「リシュレン領に座標を合わせた転移用アーティファクトです」
「エイデン、どうしてそんな物を持っているんだい?」

 皇后の問いかけにエイデンは悪びれもせず躊躇なく答えた。

「アーティファクトについて勉強したくなって魔塔に依頼しておいたんです。座標を何処にすべきか悩んだんですが取り敢えず帝都から一番離れた場所にしてみました」

 絶対に嘘である。
 祭典の騒ぎにいち早く気づいたのはエイデンの騎士だったし、エイデンが一人で姿を消したことも皆知っている。
 そして丁度六日前にエイデンはルシオンに会いに来た。
 あの日にアーティファクトの製作を依頼すればギリギリ今日に間に合う。

 ついでにエイデンがルシオンの名を出したがらない理由もなんとなく理解できた。
 ルシオンの性格はこの場の面々には既に衆知されていて彼が無駄に目立つのを好まないことも分かっている。

 大人四人は子どもの可愛らしい嘘を見逃すことにしてゼオンはそのアーティファクトを受け取った。

「エイデン殿下。本当にありがとうございます」

 深く頭を下げたゼオンにエイデンは驚きを隠せない。
 ルシオンに近づこうとする自分をゼオンがよく思っていないことを知っていたからだ。

 エイデンが戸惑っていると息を吐く間もなく扉の向こうにまた別の客が現れた。

「大神官様!ちょっとやばいです!結構危険な状態です!」
「ん?リトちゃん?」

 リトは大神官の補佐官として顔が割れているし騎士が中へ通してもおかしくはない。

「なんで入って来ないのさ。ていうかノックは?君あれでしょ、リトちゃんの皮被った悪魔ちゃんでしょ!」
「今そんな冗談言ってる場合じゃないですから!このままじゃほんとにリッツェさん死んじゃいますよ!!」

 バンッ。扉が外れる勢いで開いた。
 開けたのはゼオンだ。

「リッツェ!!」
「うわあ血塗れの騎士!!」
「リッツェを運んでくれたのか助かったありがとう!!」
「ひぃ優しい!」

 扉の向こうではリトがリッツェを背負って立っていた。
 背の高いリッツェを背負ってきたからか顔が真っ赤だ。たしかにこの状態ではノックもできない。

「ちょっとリトちゃんどゆこと?リッツェちゃん隠してたの?なんで言わないの!」

 リッツェは右上半身にひどい火傷を負っていてその部分の執事服も燃えて無くなっていた。
 その上火傷の中心である右脇腹には深い刺し傷まである。呼吸も相当浅い。

「隠してませんよ!祈念場で急患がいるから来て欲しいって伝えたのに魔力残ってないから何とかしといてって言ったの貴方ですよね!?」
「患者がリッツェちゃんって言ってよー!」
「大神官が人選んで治癒すんな!ていうか言おうとしたのに四人で怖い顔してさっさと地下に入ってっちゃったんじゃないですか!付いてこうとしたら血塗れの騎士に睨まれるし………」
「すまない。あの時は余裕がなく………いや今も余裕はないんだが………」
「やだ良い人!」

 騒ぎながらも動きは迅速で慎重にリッツェを床に寝かした。
 ゲイレンが側に膝を付いて腕まくりする。

「大神官様、魔力は?」
「まだ全然回復してない。でも絞り出すよ。死なせない」

 とはいえ気合でどうにかなるほど甘い状態ではなかった。
 今の魔力では本当に死なせないので精一杯だ。
 リトもここに至るまでに神聖力を使い切っていてただ見守ることしかできない。

「リトと言ったか?何があった」

 皇帝が問いかけるとリトは首を横に振った。

「私も詳しいことは………。祭典の途中、なんだか上が騒がしくなったので地上に出たんです。そしたら座り込んだリッツェさんに向かって少年がナイフを振り上げていて………。とっさに結界を張って防いだんですがその前に既にこの状態でした。
 しかも少年が使う黒い炎、結界を溶かすんです」
「結界を?」

 皇帝が訝し気に呟く。

「はい。それで何度も張り直していたのでかなりの神聖力を消耗してしまいまともに治癒できませんでした。
 幸い少年もあまり魔法を使いたくない様子で途中で諦めて去っていったんです。
 直ぐに会場に行ったんですが祈念場もなんか大変なことになってるし………転ぶし………起き上がってる間に皆さん出口から地下に入っていくし………」
「可哀想に。君が無事でよかった」

 段々暗くなっていくリトに皇后が優しく微笑みかけた。

「陛下………っ」

 リトが感極まって涙を浮かべる。

「よかったなぁ。私の后に同情してもらえて」

 皇帝が氷のような目をリトに向ける。
 リトの涙は綺麗に引っ込んだ。


「………ゲイレン、後は頼んでもいいか?ルシオンの元に行きたい」

 ゼオンが神聖魔法を使い続けているゲイレンの肩に手を置く。
 神官嫌いのゼオンがこんな風に頼み込むなんてよっぽど弱っているらしい。

 ゲイレンは迷わず頷いた。
 本当は魔力は既に底をつこうとしていて体力的にも精神的にも限界は近い。
 それでもここで首を振るわけにはいかなかった。
 祭典で起こったことの責任は主催者であるゲイレンにあるからだ。

「ありがとう」

 すぐにアーティファクトを使おうとしたゼオンのズボンの裾を弱い力で掴まれる。

「………って、」
「リッツェ!?大丈夫か、何が………」
「まって、ください」

 蚊の鳴くような声でリッツェは必死に訴えた。

 ゼオンは一言一句聞き逃さないようリッツェの口元に耳を近づける。

「主が………ヨル様が、坊ちゃまを狙って………」
「ヨルだと?」

 リッツェの言葉をゼオンが反芻した。
 皆の耳にその名前が届いた瞬間部屋の空気が一変する。

 エイデン以外誰もがその名を知っているようだ。

「ヨルって随分前に亡くなった元魔塔主候補ですよね?」
「ああ。たった一人で魔塔を壊滅寸前まで追い込んだ………まごうことなき化け物だ」

 漸く全てのピースが出揃った。
 完成したのは想像するのも嫌になるほど最悪な現実だ。

「悪魔の正体はあの化け物だったわけか。もしアイツが辺境にいるならお前一人では到底………人の話を聞かないやつだな」

 皇帝が作戦の変更を告げる前にゼオンは姿を消していた。


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