無気力系主人公の総受け小説のモブに本物の無気力人間が転生したら

7瀬

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第二章 少年期編

第四十九話 本物の無気力はラスボスと対峙する(3)


「何か話した?どんな感じだった?見た目は?性格は?」

 アイドルの裏の顔を探るファンの如く怒濤の質問攻撃を投げかけてくる。

「ついんてーる」
「ついんてえる?何それ」
「髪の毛ニ本」
「ええ!?神様髪の毛二本しかないの!?」
「ん」

 寝転がって目を閉じたままでも返事さえしておけば怒りには触れないらしい。

「まあ神様も年齢的におばあちゃんだもんね…」

 こうして喋っているだけならただの好奇心旺盛な子どもだ。

 ヨルは理性とか倫理観とかがぶち壊れているだけで悪意を持って殺しているわけではない。そこが怖いんだけど。
 『殺した方が良い』と思わせない限り殺意を向けてくることはないはずだ。多分。

「神子様は神様と会ってどう思った?」
「………」
「仕方ない丸焼きに……」
「別に何も」

 コイツすぐ燃やそうとしてくるじゃん。
 怖い。帰りたい。

 ヨル怒らせたくはない。同時に時間稼ぎもしたい。
 今俺が生かされているのはラスボス様の曲がりに曲がった末に一周していっそ純粋に思えてくる好奇心のおかげだ。

 質問に答え続ければいずれ興味は失せてしまう。

 そうならないためにもなるべく話さないようにしているのだがなんの意味もなさそう。

 かといって俺に上手く躱したり引き延ばしたりできるほどの対話技術はないのでやはり小さな抵抗を続ける他ないのだ。

「なんか思ってたのと違うね。神子に選ばれるくらいだから熱心な信仰者かと思ったんだけど。神子様は神様好きじゃないの?」
「………」
「はぁ。こうなったら消し炭に……」
「信者ではないけど普通に好きだよ」
「へぇ………信者じゃないんだ」

 ヨルの質問攻撃が止まった。

 その隙にゴロンと寝返りを打つ。
 石造りの床は固すぎて長時間同じ体勢だと辛い。

 眠れさえすればこんなの気にならないのに二言目には炙ろうとしてくるのでさすがの俺も寝付けない。

 あれ。でもなんか急に喋らなくなったな。

 気付けば辺りが静まり返っていた。自分の呼吸音すら聞こえてきそうな静寂に目を開けるか数秒悩んで即却下した。

 こういう時に目を開けると大抵悪い景色が広がっているものだ。だったらいっそ何も気づかないまま夢の中へ旅立った方がいい。

「なら、俺を君の神様にしてよ」
「ひっ」

 ゾワリと身体が震えた。
 静寂を打ち破った囁きは予想外にも直接耳を擽って反射的に目を開けてしまう。

 ああほら、やっぱり見なければよかった。

 横向きに寝ていた俺の上にヨルが覆い被さっている。

 とにかく絶対に視線だけは合わせまいと頑なに身体を横に向けたままもう一度固く瞼を閉じた。
 当然そんなものはなんの意味も成さず、肩を押さえつけられたら俺の貧弱な身体は簡単に仰向けになるし、「目を開けないと目玉焼きにする」なんて言われたら小心者の俺はパッチリ開けてしまうのだ。無念。

「神様とか、俺には必要ない」
「どうして?なんでも叶えてあげるよ?欲しいものは奪ってあげるし邪魔な奴は殺してあげる」

 願いのレパートリーが凶悪すぎるだろ。もっと可愛い感じのでいいじゃん。縁結びとかさ。俺とは無縁だけど。

「だから今日からルシオンは俺の信者だ」
「まじでいらない。面倒くさい」
「何が面倒なの?寧ろ神様がいたら楽に生きられるじゃん」
「祈りとか捧げるの怠いし。眠くなるし。俺が欲しいのは神様じゃなくてニート生活だから」
「にいと?何それ」
「分からないなら俺の神様にはなれない。てかなんでそんなに信者にしようとしてくるんだ」

 しまった。気づいた時には口から出た後だった。

 関わりたくない相手に気軽にしてはいけないこと。質問だ。
 質問するイコール興味を持っている。という根拠のない方程式により相手は嬉々として語り始める。
 そのくせこちらから聞いた手前無視するわけにもいかないという大変面倒な事態に繋がりかねない。

「やっぱ今のなしで………」
「だって本物の神様にも靡かないルシオンが俺のものになったら俺は神様以上の存在ってことになるでしょ。
 それに俺さ、神様がどうして魔力も神聖力もない餓鬼に神子の力を与えたのかずっと不思議だったんだ。でも今分かった」

 ヨルが俺の襟元に手を当てる。瞬く間に黒炎が広がって首周りだけ服が燃える。

「たしかにこれは、自分のモノにしたくなる」

 何が起きたのか分からなかった。
 突然の炎に気を取られている間に腕を床に押さえつけられて、気づいた時には剝き出しになった首筋にヨルの顔が埋まっていた。

「何して………」

 皮膚に当たる冷たい感触に背筋が凍る。
 コイツまさか………

 慌ててジタバタ藻掻いてもヨルの身体はピクリともしなかった。

 ───ガリッ

「いっ、」

 当てられていた歯はいとも容易く薄い皮膚を突き破り、同時に何かが体内に流れ込んでくる。

「な、だよこれ、熱いっ」

 まるで体内を丸ごと焼かれているようだった。
 そんな経験ないから分かんないけど。
 ただとにかく体の中が燃えるように熱い。

「ふっ、うぅ………っ」

 熱さと痛みで勝手に涙腺が緩む。
 溜まった涙がこめかみを伝って流れ落ちた頃、ヨルが漸く顔を離した。

 口元に付いた血を拭いながら浮かべられた狂気的な笑みを俺は一生忘れられないだろう。
 絶対当分夢に出る…最悪…。


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