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ココットとフルオリーニ、それぞれの想い
7.
しおりを挟む場違いな空気に呑まれそうになり、ご主人様の腕を掴む指に力が入る。天井には大きなシャンデリアが幾つもぶら下がっていて、窓の硝子がその光をキラリと反射させる。壁に飾られている大きな鏡は部屋を広く見せるだけでなく、シャンデリアの輝きを反射させる効果もあるよう。
「キラキラして眩しいです」
「ココットもそれに負けず劣らず輝いているぞ」
「冗談言われても今は笑えません」
「本当だ。この銀の髪など星のように美しい」
ご主人様が掬い上げた私の髪は、ララさんのお陰で確かに艶々だけれど。
それは、明らかに誇張しすぎですよ。
「ご主人様……」
「フルオリーニ、だ」
「……はい、フルオリーニ様、なんだか視線が突き刺さるのですが、私やっぱりどこかおかしいのではありませんか?」
広間に入った時から痛いほどに感じる視線。
もしかして、侍女だとバレた?
歩き方? 姿勢? どちらも付け焼き刃、いや、身についているかも怪しい。
「あー、それは俺が夜会にパートナーを連れてきたからだな」
「そういえば、ご、フルオリーニ様、あまり夜会にご出席されませんよね」
どうしても出席しなければいけない時は、クリスティーナ様や半年前にご結婚されたの従姉弟の方と行かれていた。そりゃ、目立ちますね。うっかりしていた。
「帰っていいですか?」
「駄目に決まっているだろう」
「転移したい」
「魔術封じの護符は貼っていないから可能だろうが、ココットが魔法使いだと誰も知らないのだから自重しろ」
「護符、貼ってないのですか? もし魔術で攻撃されたら?」
「皇家に優秀な魔法使いがいるんだよ。そいつが護衛している」
なるほど、その護衛の魔法使いさんが魔術を使えるように護符を貼っていないのですね。つまり魔術で攻撃される危険性を上回るメリットがあるわけで。
「凄い防御魔術か、攻撃魔術、もしくはその両方……」
「興味があるのか?」
「いいえ、全く。逃げるのに特化している私とは違うな、と思っただけです」
転移と擬態、組み合わせれば誰も私を追えない。ふふ、完璧ね。
「確かにそうだが、ココットは反射神経がいいわけではない。突発的なことに対応できないのだからあまり過信するな」
「はーい」
「食い物見ながら適当に返事をしない」
ううっ、だって美味しそうですよ。頑張れば少しは胃に入ると思うんですよ。きっと。
そんな美味しそうなテーブルを横切って向かうのは皇族の方々がいらっしゃる場所。先にご挨拶をすませてしまうらしい。って、このままだと私も一緒に挨拶するっていうこと? どうしよう。そんな心の準備全くしていないよ。
急に足取りが重くなった私に気づいているはずなのに、ご主人様は歩く速さを変えない。私は仕方ないので目線を下にして歩を進め、同じタイミングで立ち止まった。
「サミエル様、本日はお招き頂きありがとうございます。それからクリスティーナ、サミエル様にご迷惑をかけないようにな」
「分かりました。それからココット、とても似合っているわ」
「ありがとうございます」
名前を呼ばれ顔を上げると、華やかな笑顔で私を見るクリスティーナ様。サミエル様とはこの前の観劇以来だけれど、頻繁に公爵邸に来られるので、私の顔は覚えてくださっているらしい。
慣れないカーテシーで挨拶すれば、サッと私を見た後意味ありげにご主人様に目線を移す。
「珍しく強行突破に出たか」
「本意ではありませんが、そんなこと言っていられないので。国皇はどちらに?」
「あの人混みの向こうだ。都合よくコンスタイン卿も一緒だ」
「それは話が早い。ではさっさと済ませてしまうか。行くぞ、ココット」
えっ、という間もなくご主人様は歩き始める。どういうこと、と振り返りクリスティーナ様を見れば、頑張ってというかのように拳を握られた。
国皇の隣には旦那様、近くには数人の貴族の方がいたけれど、ご主人様の姿を見るとサッと道を開けてくれた。
うん? こちらを見た旦那様の銀色の瞳が、意外なものを見たとばかりに見開かれてますが、もしかして私が一緒だとご存知ないのでは?
「国皇陛下、本日はお招き頂きありがとうございます」
「あぁ、君のことはコンスタイン卿からもサミエルからも聞いている。ところで隣の御令嬢は?」
国皇陛下と目が合い、私は慌ててカーテシーをする。柔和な笑みを浮かべているのに存在感と威圧感が半端ない。
「陛下、彼女は我が家で雇って……」
「ココット・アリストン男爵令嬢です。パートナー同伴だと聞きましたので連れてまいりました」
旦那様の言葉を遮るようにご主人様が一歩前に出る。
「フルオリーニ、いったいどういうつもりだ。今宵はナターシャ侯爵令嬢をダンスに誘うよう命じたはずだ」
「はい。ココットとファーストダンスを踊ったあとナターシャ嬢をお誘いします。エスコートまでしろとは仰っていませんでしたので」
右側から冷たい視線を感じると思ったらナターシャ様がじとりとこっちを睨みつけていた。隣には年配の男性、皇弟かな? がエスコートされている。
「自分が何をしているか分かっているんだろうな」
「約束はまだ果たしていませんが、そちらが強硬手段をとるなら俺もそうします。では、失礼致します」
ご主人様は深々と騎士の礼をすると、ナターシャ様の方は見ずにその場を後にされた。そのまま壁際までいくと、悪戯を見つかった子供のようなバツの悪い顔をして私を見下ろしてくる。
「どういうことでしょうか?」
「このままだとナターシャ嬢と婚約させられる」
「知っています。素晴らしいご縁だと申し上げましたよね」
「しかし、まだギリギリ決定はしていない」
「それはお二人が人目のある場所でお会いするのが今日が初めてだからですか?」
「そうだ。ここでファーストダンスを踊れば決定打となるところだった」
多分、公爵邸以外でも、今までお二人は何度か会っていらっしゃたのでしょう。しかし、それは非公式でのこと。
「でも皇命に反しては、これからごフルオリーニ様のお立場が悪くなるのではありませんか?」
「構わぬ。それにはっきり『結婚しろ』と言われていないし、ダンスしろと言われたがファーストダンスと指定されたわけではない」
はっきりと言わずに暗に匂わせるのが貴族のやり方だと思うのですけれど。
それに、先程からやけにファーストダンスにこだわっているけれど何か理由があるのかな。
いや、もう理由があろうが無かろうが、こじつけや苦しい言い訳にしか聞こえない。
「ココット、顔色が悪いぞ」
「本気でここから転移したいです」
いやもう、変な汗で背中びっちょりですよ。
なにとんでもないことに巻き込んでくれてるんですか。
私はご馳走を食べに来たんですよ。それがこんなことになるなんて誰が予想できたか……うん? もしかしてララさんやクリスティーナ様、奥様はご存知? えっ、私嵌められた。
あわあわと唇を震わせていると、トランペットの旋律が響き音楽が流れ始めた。
「では行くぞ」
「~~!!」
ご主人様は容赦なく半泣きの私を連れ歩き始めた。
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