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「あなた、誘拐犯ね!」
石亀永江が立ち上がり、オッサンを指さした。
彼女はクラスの【委員長】。
生真面目が服を着て歩いているような女子で、いつも少し不機嫌な表情だ。
厳しい性格なので特別好かれているわけではない。
けれど、彼女がいるおかげでクラスは一致団結している。
委員長というむずかしい役割を引き受けてくれている彼女に、誰もが感謝していた。
「誘拐犯だと?」
脂っこいオッサンが興奮して声を荒げた。
耳障りな声が俺の心をかき乱す。
ヤツの服装は三流のドラマから抜け出してきたようなチープさだ。
まるで異国でおこなわれる仮装パーティー。
こんなヤツを町で見かけたら、間違いなく通報される。
だけど、ここは俺が知ってる場所じゃない。
ネズミ色の石室には、窓もなければ、風の通り道もない。
閉塞感で息苦しい。
壁のくぼみには、ロウソクが一筋の光を投げかけている。
それだけじゃ、部屋の薄暗さを晴らすには不足していた。
床には、大きな魔法陣が描かれている。
似たようなシーンを映画で観たことがあるのを思いだした。
不気味な儀式の映像が記憶からよみがえり、背筋が凍る。
俺の周りにはクラスメイトがいた。
彼らは整然と、教室の席順のまま、床に腰を下ろしている。
恐怖と混乱で顔をひきつらせ、いまの状況を理解しようとしているのだろう。
ついさっきまで俺たちは授業中だった。
いきなり背後から椅子を引き抜かれるような衝撃を受け、気がつけば、体が宙に浮く感覚。
そして、尻もちをついた次の瞬間、ここにいたんだ。
「同意をえず、無断でこんな場所に連れてきた。誘拐でないのならなんだというの」
彼女は語尾を強く発音するクセがある。
相手を圧倒して、自分のいうことを聞かせるための手段だ。
なぜ威圧するクセが身についたのかは、俺にはわからない。
たぶんプライベートに余裕がないんだろうな。
「事情があるのだ」
「どのような事情があるにせよ、誘拐した事実はかわらない、そうよね」
なぜ初対面のオッサンに怯むことなく、高圧的に振る舞えるのか、俺にはさっぱりわからない。
頼むから周りに目を向けてくれ。
壁際には甲冑を身にまとった兵士たちが並んでいる。
彼らの手には槍が握られていた。
いまのところ穂先は天を突くように上向きなので戦意はなさそうだ。
頼むからコイツらを刺激するのは避けてくれ。
オッサンは困った顔で汗を流している。
どうやら彼女の態度は予想外らしい。
「わが国の問題にキミたちを巻き込んでしまった件については謝罪する」
「もとの場所に帰してくれるのなら謝罪は不要」
「それには準備が必要なのだ」
「どの程度待てばいいのか具体的な日数を聞かせて」
「まずは国王様にお伺いをせねばならぬのだ」
「うやむやにする気じゃないでしょうね」
「調整後に必ず教えると約束しよう」
オッサンの言葉に、食い気味に反応する。
石亀永江は頭の回転が速い。
たぶん、彼女と交際する男性は苦労するだろう。
ケンカすれば弾丸のような言葉に責められるのだから。
彼女が諦めた表情をしながら大きな溜息をついた。
「いいでしょう。けれど、帰りの算段がつかないうちはあなたの話を聞く気はありません」
オッサン相手でも一歩も引かない度胸は尊敬に値する。
クチうるさいヤツだが、いまのような状況では心強い。
「勝手に話を進めるなよ」
野吾剛士が立ち上がった。
あいつは、まあ【不良】ってやつだ。
クラスのなかでも一匹狼を気取り、誰とも話さない。
去年、他校のヤツらと揉めて、結局ケンカになって停学食らったことがある。
できることなら一生ヤツとは関わり合いたくない。
「わたしはクラス委員長として話をしています」
「ここは学校じゃねーんだ、大きな顔すんじゃねーよ。おいオマエ、この加護ってなんだ」
野吾剛士はアゴでオッサンを指名した。
コイツには、初対面の大人にたいする礼儀なんてものは皆無。
きっと世界は自分を中心に回っていると勘違いしている。
片眉を上げて、オッサンを鋭い眼差しで睨みつけた。
首を斜めに傾ける様子は、明らかに威嚇している。
――まるでヤクザだな。
「世界を超えし者は神様から加護を賜るのだ。その力は特殊で、我々には想像も及ばない。むしろ力については本人が一番理解しているはずなのだ」
オッサンが説明したのは、俺の目の前に浮かぶ緑色の文字だろう。
しかも、この文字は他人に見えないらしい。
レベル:1
経験値:0
加護:NTR
――エヌティーアールってなんだよ?
疑問に応えるかのように新たな文字が浮かび上がる。
【NTR】
ネトラレの略称。
好意を寄せている者が他者に寝取られることで興奮を覚える体質。
寝取られているあいだ経験値が増加する。
好意を寄せている者への思いが深いほど効果が高い。
ただしネトラレ以外では経験値を取得できない。
――は? 俺がネトラレ体質だと? バカげている。本人が一番理解? ネトラレなんて知らんが?! むしろ認めたくないのだが!
いや、言い切れないのかもしれない。
いままで彼女ができたことがないのだ。
好きな子はいる。しかし告白する勇気はない。
かりに、ネトラレ体質だとしても、いままで認知できる環境じゃあなかったんだ。
まさか、俺が?
考えごとをしている間に、野吾剛士は石亀永江の背後に移動していた。
ヤツはケンカに負けないように体を鍛えているのだろう。
部活にも入ってないのに、逞しい体をしてる。
「へぇ~、使いかたは自分で考えろってか」
ヤツは、いきなり彼女を背後から襲ったのだ。
右手で彼女の左胸を鷲掴みした。
「いやっ!」
両手でヤツの手を剥がそうと抵抗するが女子の力では無駄のようだ。
左手首を掴まれ、ぐいっと上へ引き上げられた。
小柄な彼女は、まるで人形のように軽々と扱われる。
片足は宙に浮き、残る片足もつま先立ちになった。
「俺の加護は鬼畜だとよ。ケッ、笑えるぜ。道徳に反すると強くなるらしいが」
自慢げに加護を説明しているあいだ、ヤツの手は彼女の胸をもてあそぶ。
「たしかに力が湧いてくる。いまならどんなヤツでも倒せるぜ」
ヤツはゲスな笑みを浮かべた。
彼女は目に涙を浮かべながら必死に抵抗する。
いつも不機嫌そうにつりあがっていた眉毛は、いまは八の字の困り眉毛だ。
クラスの女子が俺の目の前で犯されている。
目の前の光景はアダルトビデオよりも刺激的だ。
裸の女性よりも、セーラー服を着たクラスメイトのほうが興奮するなんて思ってもみなかった。
きっと、ふだんの凛とした彼女とのギャップが新鮮なのだろう。
俺は勃起しているのをクラスメイトに悟られないように腕で隠した。
たぶん他の男子たちも同じ感情なのだろう。
彼らの視線は彼女の胸に集中していた。
ふと、自分の加護を思い出した。
ネトラレ――。
いまの状況はまさにネトラレではないだろうか。
いや、説明には好意を寄せている者と書いてある。
俺は彼女に恋愛的な感情を抱いてはいない。
むしろ苦手な部類だ。
それはそうと、加護にはスキルが付随するらしい。
【恋愛対象】
加護を得るための対象を指名可能。
指名された者は、どのような責め苦にも耐えられるよう不死再生の恩恵が与えられる。
俺が経験値を稼ぐためには、【恋愛対象】に誰かを指名しなければならない。
好きな相手を指名するのがセオリーだろうが、まずは石亀永江で試してみても良いだろう。
そう思っただけで【恋愛対象】の欄に彼女の名前が表示された。
恋愛対象:石亀永江
すると、表示されている【経験値】が増加した。
しかし、ゆっくり、とてもゆっくりと『0』下がり、上から『1』がゆっくりと見えてくる。
まるでスロットマシンのリールのように回転しているのだ。
しかし遅い。もの凄く遅い。【経験値】が溜まるのが非常に遅い。
おそらく彼女にたいして好意を抱いていないのが原因だろう。
だか経験値を稼ぐ方法は判明した。
もしかするとラッキーかもしれない。
戦闘することなく経験値を稼ぐことができるのだ。
ただし、好きな相手がネトラレないと発動しないのが難点だが。
「いい加減にしろ!」
俺のことかと思い、おもわずビクッと体が反応してしまう。
だけど違ったようだ
立ち上がったのは才原優斗。
サッカー部のエースで超絶【イケメン】だ。
バレンタインでは紙袋二つ分のチョコをもらうほどのモテ男。
なのに彼女はいないらしい。
だから、みんなの才原君と女子に噂されている。
呪い殺せるほど羨ましい存在だ。
「黙れよ才原。前々からオマエが気に入らなかったんだよ」
「気に入られようとは思っていないから安心しろ。無駄話はいらない。まずはその手を離せ」
「力づくでこいよ、テメエがどんな加護を手に入れたのか知らないがなぁ」
ヤツは不敵な笑みを浮かべた。
まるで古い映画に出てくる不良のように『喧嘩上等』とか言い出しそうだ。
「俺の加護は護衛。困っている者を助ける行動に効果を発揮するらしいぞ」
「ハッタリだな」
「試してみるか?」
才原優斗はゆっくりと野吾剛士に近づいた。
踏み込めば拳の当たる距離。
部屋は痛いほどの緊張感に包まれる。
クラスメイトは息をのみ、二人に注目していた。
女子たちは才原優斗の雄姿に感動し、目をハートのかたちにしている。
男子たちは石亀永江の胸に注目していたが、野吾剛士の手は止まっていた。
もっとイヤラシく手を動かせよ!
制服を脱がせてもいいんだぞ!
生でいけ、生で!!
俺は、そんな不謹慎な期待をしていたようだ。
もちろん男子たちも同じ意見のはず。
俺だけじゃないよな?
「お二人ともおやめください」
オッサンの声で二人の集中力が切れたようだ。
野吾剛士が腕の力を抜くと石亀永江は解放され、糸の切れた操り人形のように座り込んでしまう。
彼女は床を睨みながら声を出さずに涙を流している。
ふつうなら泣き崩れてもおかしくない状況なのに強い子だ。
「シラケた」
野吾剛士はつまらなそうにそっぽをむいている。
「なれない世界に来られて興奮されているご様子。部屋をご用意しますので、まずは休憩なされてはいかがでしょうか」
俺たちはオッサンの部下に案内され、個室へと移動したのだった。
石亀永江が立ち上がり、オッサンを指さした。
彼女はクラスの【委員長】。
生真面目が服を着て歩いているような女子で、いつも少し不機嫌な表情だ。
厳しい性格なので特別好かれているわけではない。
けれど、彼女がいるおかげでクラスは一致団結している。
委員長というむずかしい役割を引き受けてくれている彼女に、誰もが感謝していた。
「誘拐犯だと?」
脂っこいオッサンが興奮して声を荒げた。
耳障りな声が俺の心をかき乱す。
ヤツの服装は三流のドラマから抜け出してきたようなチープさだ。
まるで異国でおこなわれる仮装パーティー。
こんなヤツを町で見かけたら、間違いなく通報される。
だけど、ここは俺が知ってる場所じゃない。
ネズミ色の石室には、窓もなければ、風の通り道もない。
閉塞感で息苦しい。
壁のくぼみには、ロウソクが一筋の光を投げかけている。
それだけじゃ、部屋の薄暗さを晴らすには不足していた。
床には、大きな魔法陣が描かれている。
似たようなシーンを映画で観たことがあるのを思いだした。
不気味な儀式の映像が記憶からよみがえり、背筋が凍る。
俺の周りにはクラスメイトがいた。
彼らは整然と、教室の席順のまま、床に腰を下ろしている。
恐怖と混乱で顔をひきつらせ、いまの状況を理解しようとしているのだろう。
ついさっきまで俺たちは授業中だった。
いきなり背後から椅子を引き抜かれるような衝撃を受け、気がつけば、体が宙に浮く感覚。
そして、尻もちをついた次の瞬間、ここにいたんだ。
「同意をえず、無断でこんな場所に連れてきた。誘拐でないのならなんだというの」
彼女は語尾を強く発音するクセがある。
相手を圧倒して、自分のいうことを聞かせるための手段だ。
なぜ威圧するクセが身についたのかは、俺にはわからない。
たぶんプライベートに余裕がないんだろうな。
「事情があるのだ」
「どのような事情があるにせよ、誘拐した事実はかわらない、そうよね」
なぜ初対面のオッサンに怯むことなく、高圧的に振る舞えるのか、俺にはさっぱりわからない。
頼むから周りに目を向けてくれ。
壁際には甲冑を身にまとった兵士たちが並んでいる。
彼らの手には槍が握られていた。
いまのところ穂先は天を突くように上向きなので戦意はなさそうだ。
頼むからコイツらを刺激するのは避けてくれ。
オッサンは困った顔で汗を流している。
どうやら彼女の態度は予想外らしい。
「わが国の問題にキミたちを巻き込んでしまった件については謝罪する」
「もとの場所に帰してくれるのなら謝罪は不要」
「それには準備が必要なのだ」
「どの程度待てばいいのか具体的な日数を聞かせて」
「まずは国王様にお伺いをせねばならぬのだ」
「うやむやにする気じゃないでしょうね」
「調整後に必ず教えると約束しよう」
オッサンの言葉に、食い気味に反応する。
石亀永江は頭の回転が速い。
たぶん、彼女と交際する男性は苦労するだろう。
ケンカすれば弾丸のような言葉に責められるのだから。
彼女が諦めた表情をしながら大きな溜息をついた。
「いいでしょう。けれど、帰りの算段がつかないうちはあなたの話を聞く気はありません」
オッサン相手でも一歩も引かない度胸は尊敬に値する。
クチうるさいヤツだが、いまのような状況では心強い。
「勝手に話を進めるなよ」
野吾剛士が立ち上がった。
あいつは、まあ【不良】ってやつだ。
クラスのなかでも一匹狼を気取り、誰とも話さない。
去年、他校のヤツらと揉めて、結局ケンカになって停学食らったことがある。
できることなら一生ヤツとは関わり合いたくない。
「わたしはクラス委員長として話をしています」
「ここは学校じゃねーんだ、大きな顔すんじゃねーよ。おいオマエ、この加護ってなんだ」
野吾剛士はアゴでオッサンを指名した。
コイツには、初対面の大人にたいする礼儀なんてものは皆無。
きっと世界は自分を中心に回っていると勘違いしている。
片眉を上げて、オッサンを鋭い眼差しで睨みつけた。
首を斜めに傾ける様子は、明らかに威嚇している。
――まるでヤクザだな。
「世界を超えし者は神様から加護を賜るのだ。その力は特殊で、我々には想像も及ばない。むしろ力については本人が一番理解しているはずなのだ」
オッサンが説明したのは、俺の目の前に浮かぶ緑色の文字だろう。
しかも、この文字は他人に見えないらしい。
レベル:1
経験値:0
加護:NTR
――エヌティーアールってなんだよ?
疑問に応えるかのように新たな文字が浮かび上がる。
【NTR】
ネトラレの略称。
好意を寄せている者が他者に寝取られることで興奮を覚える体質。
寝取られているあいだ経験値が増加する。
好意を寄せている者への思いが深いほど効果が高い。
ただしネトラレ以外では経験値を取得できない。
――は? 俺がネトラレ体質だと? バカげている。本人が一番理解? ネトラレなんて知らんが?! むしろ認めたくないのだが!
いや、言い切れないのかもしれない。
いままで彼女ができたことがないのだ。
好きな子はいる。しかし告白する勇気はない。
かりに、ネトラレ体質だとしても、いままで認知できる環境じゃあなかったんだ。
まさか、俺が?
考えごとをしている間に、野吾剛士は石亀永江の背後に移動していた。
ヤツはケンカに負けないように体を鍛えているのだろう。
部活にも入ってないのに、逞しい体をしてる。
「へぇ~、使いかたは自分で考えろってか」
ヤツは、いきなり彼女を背後から襲ったのだ。
右手で彼女の左胸を鷲掴みした。
「いやっ!」
両手でヤツの手を剥がそうと抵抗するが女子の力では無駄のようだ。
左手首を掴まれ、ぐいっと上へ引き上げられた。
小柄な彼女は、まるで人形のように軽々と扱われる。
片足は宙に浮き、残る片足もつま先立ちになった。
「俺の加護は鬼畜だとよ。ケッ、笑えるぜ。道徳に反すると強くなるらしいが」
自慢げに加護を説明しているあいだ、ヤツの手は彼女の胸をもてあそぶ。
「たしかに力が湧いてくる。いまならどんなヤツでも倒せるぜ」
ヤツはゲスな笑みを浮かべた。
彼女は目に涙を浮かべながら必死に抵抗する。
いつも不機嫌そうにつりあがっていた眉毛は、いまは八の字の困り眉毛だ。
クラスの女子が俺の目の前で犯されている。
目の前の光景はアダルトビデオよりも刺激的だ。
裸の女性よりも、セーラー服を着たクラスメイトのほうが興奮するなんて思ってもみなかった。
きっと、ふだんの凛とした彼女とのギャップが新鮮なのだろう。
俺は勃起しているのをクラスメイトに悟られないように腕で隠した。
たぶん他の男子たちも同じ感情なのだろう。
彼らの視線は彼女の胸に集中していた。
ふと、自分の加護を思い出した。
ネトラレ――。
いまの状況はまさにネトラレではないだろうか。
いや、説明には好意を寄せている者と書いてある。
俺は彼女に恋愛的な感情を抱いてはいない。
むしろ苦手な部類だ。
それはそうと、加護にはスキルが付随するらしい。
【恋愛対象】
加護を得るための対象を指名可能。
指名された者は、どのような責め苦にも耐えられるよう不死再生の恩恵が与えられる。
俺が経験値を稼ぐためには、【恋愛対象】に誰かを指名しなければならない。
好きな相手を指名するのがセオリーだろうが、まずは石亀永江で試してみても良いだろう。
そう思っただけで【恋愛対象】の欄に彼女の名前が表示された。
恋愛対象:石亀永江
すると、表示されている【経験値】が増加した。
しかし、ゆっくり、とてもゆっくりと『0』下がり、上から『1』がゆっくりと見えてくる。
まるでスロットマシンのリールのように回転しているのだ。
しかし遅い。もの凄く遅い。【経験値】が溜まるのが非常に遅い。
おそらく彼女にたいして好意を抱いていないのが原因だろう。
だか経験値を稼ぐ方法は判明した。
もしかするとラッキーかもしれない。
戦闘することなく経験値を稼ぐことができるのだ。
ただし、好きな相手がネトラレないと発動しないのが難点だが。
「いい加減にしろ!」
俺のことかと思い、おもわずビクッと体が反応してしまう。
だけど違ったようだ
立ち上がったのは才原優斗。
サッカー部のエースで超絶【イケメン】だ。
バレンタインでは紙袋二つ分のチョコをもらうほどのモテ男。
なのに彼女はいないらしい。
だから、みんなの才原君と女子に噂されている。
呪い殺せるほど羨ましい存在だ。
「黙れよ才原。前々からオマエが気に入らなかったんだよ」
「気に入られようとは思っていないから安心しろ。無駄話はいらない。まずはその手を離せ」
「力づくでこいよ、テメエがどんな加護を手に入れたのか知らないがなぁ」
ヤツは不敵な笑みを浮かべた。
まるで古い映画に出てくる不良のように『喧嘩上等』とか言い出しそうだ。
「俺の加護は護衛。困っている者を助ける行動に効果を発揮するらしいぞ」
「ハッタリだな」
「試してみるか?」
才原優斗はゆっくりと野吾剛士に近づいた。
踏み込めば拳の当たる距離。
部屋は痛いほどの緊張感に包まれる。
クラスメイトは息をのみ、二人に注目していた。
女子たちは才原優斗の雄姿に感動し、目をハートのかたちにしている。
男子たちは石亀永江の胸に注目していたが、野吾剛士の手は止まっていた。
もっとイヤラシく手を動かせよ!
制服を脱がせてもいいんだぞ!
生でいけ、生で!!
俺は、そんな不謹慎な期待をしていたようだ。
もちろん男子たちも同じ意見のはず。
俺だけじゃないよな?
「お二人ともおやめください」
オッサンの声で二人の集中力が切れたようだ。
野吾剛士が腕の力を抜くと石亀永江は解放され、糸の切れた操り人形のように座り込んでしまう。
彼女は床を睨みながら声を出さずに涙を流している。
ふつうなら泣き崩れてもおかしくない状況なのに強い子だ。
「シラケた」
野吾剛士はつまらなそうにそっぽをむいている。
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