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7話
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森で戦闘訓練を行なう。
朝食の席で石亀永江がクラスメイトにそう伝えてきた。
才原優斗と瀧田賢は目配せをしている。
たぶん『計画通り』とか思っているのだろう。
違うぞ、たんなる偶然。さらに宰相の企みつきだ。
俺は、昨夜の出来事を誰にも教えていない。
情報を知り得た経緯を聞かれると答えられないからだ。
嘘を言えば瀧田賢に看破される。
なので迂闊な発言は控えたほうがいい。
森に入るのは昨日のメンバーに加え、女子が二人増えた。
ひとりは石亀永江だ。
もうひとりは弓道部の由良麻美。
この国には和弓はないが、ショートボウやクロスボウならあるとのことだ。
生きた獲物を撃つことに興奮を覚えるから参加するらしい。
ちなみに俺は、彼女と話をしたことがない。
理由は、派手な印象を与える女子グループに所属しているからだ。
正直いって近寄りたくない。
情報収集班は図書館で行動を始めている。
残りのクラスメイトは森に入るメンバーのお見送りだ。
訓練場近くの広場に馬車と兵士が集まっている。
「優斗~、がんばって~、怪我しないでね~」
女子の声援に才原優斗は笑顔で手をふっている。
緊張感が足りない、大丈夫か?
まさか、クラスメイトを不安にさせないためのパフォーマンス?
考えすぎか……。
彼は大きめの盾をもっている。
練習で使用した木の盾じゃない。本物の金属製だ。
腰のベルトには金属製の剣が下がっている。
男子としては剣をもつのに憧れがある。正直に言うと羨ましいのだ。
京都の修学旅行で買うような模造刀ではない。
刃のある本物。
羨ましい、めちゃくちゃ羨ましい!!
連城敏昭は盾をもっていない代わりに、鬼の金棒のような鈍器をかついでいる。
バットのつもりか?
木製の太い棍棒に鉄のイガイガが埋め込まれている。
殴られると凄い痛そうだ。
「才原君、よろしくね」
「由良さんは森が怖くないの?」
「みんないるし、大丈夫でしょ」
「勇気があるね」
「えへへ」
由良麻美は彼が好きだという噂がある。
いままでも彼が活躍すると、彼女は黄色い声を上げていた。
もしかしたら彼女の参加理由は、彼といっしょに行動したいという乙女心かもしれない。
命の危険よりも恋愛を選ぶなんて、まさに恋愛脳。
なので俺は、彼女のあだ名を熱狂的な【ファン】とした。
もちろんそう呼ぶのは俺の脳内だけだ。
「出発するぞ!」
彼らには第三騎士団が同行する。
第二騎士団は団長のロベルトが復帰するまで稼働できないだろう。
雷に撃たれ、瀕死の重傷らしい。
ちなみに、団長の噂を聞いた良知智晃は、まったく表情を変えず平然としていたらしい。
さて、森までは馬車で移動するようだ。
物資などの運搬を含め、八台の馬車が並んでる。
兵士を含めると総勢三十名ほど集まっている。
見たことはないが、戦争の準備をしているようで、なんだか心がざわついた。
才原優斗たちが馬車に乗り込むと、ゆっくりと動きだす。
無事に帰ってきて欲しいものだ。
残った人たちは町での情報収集をお願いされている。
何組かのグループにわかれて行動する予定だ。
宰相には、町を見学したいという理由で許可はとってある。
たぶん監視はついているだろう。
俺の隣にはいつものごとく儀保裕之がいる。
女子二人が近づいてきた。
ひとりは、バレー部の牧瀬遙。
太陽のように明るく、いつも元気いっぱいの女子だ。
彼女と儀保裕之の家は商店街にある。
要するに二人は幼馴染というやつだ。
軽音部のコイツを追っかけしているので脳内では【ミーハー】と呼んでいる。
才原優斗が好きな由良麻美と同じく派手な女子グループに所属している。
なので俺は彼女も苦手だ。
コイツの知り合いじゃなければいっしょに行動しない。
ちなみに、彼女の家はペットショップなので加護は動物に関連してるだろう。
二人目は、書道部の城野詩織。俺の幼馴染だ。
隣の家に住んでいるが、漫画のように窓越しで会話できる間取りではない。
とても内向的で自分から誰かに話しかけたりしない。
俺たち三人がいっしょにいると牧瀬遙が後から加わる。
要するに女子たちが友達というよりは、儀保裕之の近くにいるから話す関係だ。
なので、幼馴染は派手な女子グループに入っていない。
牧瀬遙が儀保裕之の肩をポンとたたく。
「よっ! 裕之」
「おう、来たな。四人そろったし町へくりだしますか!」
「そだね!」
幼馴染は俺と目があうと無言でコクリとうなづいた。
いつものことなのでとくに気にしない。
もとの世界でも四人で出かけたことがある。
儀保裕之と牧瀬遙がぐいぐいと進み、うしろから俺と幼馴染がついていく。
近いけど遠い存在なのだ。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
首都なだけに、城下町はとても華やかだった。
全体的な印象は茶色だが、壁の色が白色、クリーム色、こげ茶色と、とてもカラフル。
灰色の石畳とのコントラストも落ち着いた雰囲気を醸しだしていた。
町には四つの噴水広場があると聞いている。
そこではつねに露店が並び、新鮮な食材が売られているらしい。
俺たちの目的は情報収集。
遊びにきたわけじゃない。
だが、儀保裕之と牧瀬遙の手には、串焼きやチュロスのような細いパン、よくわからない果物などが握られていた。
「オマエたち……」
「真面目だな翔矢は」
「そうだぞ翔矢」
二人の息はぴったりだ。
「翔君も食べる?」
幼馴染が串焼きの先端を俺のクチに近づけてくる。
いつものことだし断る理由はない。塊のひとつに食らいついた。
「まずいな」
「だよね~」
「それに、血生臭い」
「わかる~」
幼馴染は基本的に俺の意見に百パーセント乗っかる。
反論してきたのは数えるほどだ。
「さては、まずいものを俺に処理させる気だな」
「ちがうよぉ~」
幼馴染は次の肉塊をほおばった。
まるで小動物がのん気に食事をしているようだ。
笑顔でモグモグしている姿は、マズそうには見えない。
嫌そうにしたら残りを奪おうとしたがいらぬ心配のようだ。
コミュ力が天元突破している二人に情報収集は任せる。
俺と幼馴染は後をついて歩くだけだ。
瀧田賢が依頼してきたのは。
・国の情勢
・国王と宰相の評判
・他国の評判
・町の人びとの生活水準と物価
聴取の結果、他国とは定期的に小競り合いをしているらしい。
今は膠着状態がつづいているそうだ。
打開策として俺たちを必要としているのかも。
国王と宰相の評判は、可もなく不可もない感じだ。
町の人びとの表情は笑顔が多いので良い治世なのだろう。
住人の話を聞いた儀保裕之が首をかしげている。
「意外だ。宰相の悪口をいうヤツがいない」
「俺たちはヤツに騙されているが。それは国のためだからな。国民には良い為政者なんだろうよ」
そもそも情報収集の項目に意味があるのか疑問だ。
俺だって日本はどうかと聞かれたら『普通じゃね?』と答えるし、首相はどうかと聞かれたら『最悪だ!』と答える。
そんなもんだろ。
「あんな脂ぎったオヤジがねぇ~」
「外見と能力は別だろ」
「まあな。――あと、戦争に前向きな住人が多いのが信じられない」
「俺の持論だが『満たされている人は他者を羨まない』と思っている。逆を言えば、人は満たされるまで他人を羨み、妬み、奪う。そして人の欲望は無限だ」
「え~っ。じゃあ戦争するのはあたりまえだと?」
「いや。欲望は理性で抑え込める。理性は教育や環境で育つから、この世界の住人がどう考えているのか理解するのはむずかしいと思うぞ」
「なるほどな」
もしかすると国王や宰相は悪いヤツじゃないかもしれない。
だが、委員長に隷属の首輪をつけたのは事実だ。
いつか仕返ししてやろう。
他国の情報はほとんど手に入らなかった。
そもそも国家間を行き来する人はめったにいないらしい。
ネットワークのない世界では、他国の情報は軍事機密レベルなのだろう。
この国から逃げ出した先が、さらに悪い状況だったなんて最悪のケースだ。
インターネットがチートインフラだと改めて思い知るな。
戦争の状況がリアルタイムで一般人の目に入る。
情報化社会なんて異常だよ。
俺たちはあてもなく町をブラブラ散策していた。
そこへ、武器や防具を取り扱う店が目に入る。
「この店入ろうぜ」
「男子って、こ~ゆ~の好きだよね」
「俺のなかに眠る勇者の血が騒ぐんだ!」
「凄腕ギタリストじゃなかった?」
「勇者は守護霊だった」
「ハイハイ」
儀保裕之と牧瀬遙はいつもこんな感じで漫才をしていた。
二人を見ながら幼馴染はクスクスと笑っている。
店の厚く重いドアを開ける。
ガランガランとドアベルが鳴った。
鉄、サビ、油。
工場の横を通り過ぎると匂ってくる独特の悪臭が鼻をつく。
店の奥から熊のような大男が顔を出す。
「いらっしゃい」
店主は、俺たちの顔をみるなり不機嫌な表情になった。
「細っこい女連れで、オマエら冷やかしか?」
「この制服を見てわからないのか」
儀保裕之は自分の胸をパンとたたく。
「まさか、騎士様?」
「おうともよ。媚を売っておいたほうがいいと思わないか?」
「チッ」
聞こえるように舌打ちしやがった。
「それで、えらい騎士様がうちのような弱小武器屋になんの御用でしょうか」
営業スマイルをしているが、言葉の端々にトゲが見える。
壁には剣や槍や斧が展示してある。
高そうなものから安そうなものまでいろいろと取り揃えていた。
コイツはそのうちの剣を指さす。
「市勢の調査だ。この剣、一般人の給金だと何本購入できる?」
「は?」
「いや、だから、この剣は高いのかって話」
「オマエら騎士じゃないな」
「バレたか」
コイツは慌てるようすもなく照れ笑いしている。
どんなメンタリティーしてんだよ。
「身分を偽るのは重罪だ、憲兵に突き出してやる!」
営業スマイルから一転。目つきが険しくなる。
「どうぞご自由に。捕まらないと思うけどね」
「余裕だな……、わけがわからん」
「騎士じゃないが、制服を着るのを許された者ってことだ」
「なんだか薄気味悪いな」
店主はとても渋い表情だ。
「用事がすんだら帰るよ。で、この剣は高いのか?」
「冒険者が苦労して手に入れるくらいの代物だよ」
「なるほど……」
俺たちは町へ出る前にお金をもらっている。
その額は剣が五本買えるくらいだった。
とりあえず宰相はケチでないと証明されたのだ。
「この剣より安いのはどこにある」
「お嬢ちゃんの後ろにある樽に刺してあるだろ」
「さらに安い剣はどこだ?」
「おいおい、そりゃもう売り物じゃねーよ」
「あるんだな」
店主は深いため息を漏らした。
「下取りした武器ならある。だが使い物にならないぞ」
「あるだけ買おう」
「古鉄買いに売るやつなんだがなぁ」
「少し色をつけてもいい」
「わーったよ」
店の裏に案内されると木箱のなかにサビた剣などが乱暴に入れられている。
四箱くらいある。けっこうな量だ。
お金を支払うとオヤジは店内へ戻っていった。
「なになに? この世界で金物屋でも開くの?」
「まあそんなとこだ」
「ギターないし、ミュージシャンは諦めるしかないもんね」
「エアギターならあるぜ」
儀保裕之はギターを弾く真似をした。
エアギターを見た牧瀬遙はケタケタ笑っている。
「それにしても重そうだな、俺たちで運べるのか?」
「ふっふっふ見てろよ」
俺の質問に余裕ある笑みを返した。
儀保裕之が木箱に手をかざすと、一瞬で箱が消えてしまった。
「えっ?」
「凄いだろ。材料として認識できるものなら回収できるんだぜ」
「取り出せるのか?」
「あ、無理。もう鉄塊に加工されてる」
「そうか。しかし加護の力は凄いな……」
コイツが羨ましい。人前で加護の力を披露できるのだ。
俺には収納する力なんてない。
もし加護の力を説明したら女子二人はドン引きするだろう。
たとえ幼馴染だとしても許容できないはずだ。
「そろそろ時間だな、戻るか」と儀保裕之が提案した。
依頼された仕事はいちおうクリアしている。
なので俺たちは迎賓館に戻ることにした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
訓練場に戻ると、ちょうど森から戻ってきた馬車が到着した。
「おかえり~!」
元気な牧瀬遙が笑顔でクラスメイトを迎える。
馬車からおりた由良麻美はいきなり彼女に抱きついた。
「どうしたの?」
泣いているのか?
兵士たちの雰囲気も暗い。
馬車からおりた才原優斗に儀保裕之がかけ寄る。
「どうした、何かあったのか?」
気づいた才原優斗が返事をする。
「委員長が連れ去られた」
朝食の席で石亀永江がクラスメイトにそう伝えてきた。
才原優斗と瀧田賢は目配せをしている。
たぶん『計画通り』とか思っているのだろう。
違うぞ、たんなる偶然。さらに宰相の企みつきだ。
俺は、昨夜の出来事を誰にも教えていない。
情報を知り得た経緯を聞かれると答えられないからだ。
嘘を言えば瀧田賢に看破される。
なので迂闊な発言は控えたほうがいい。
森に入るのは昨日のメンバーに加え、女子が二人増えた。
ひとりは石亀永江だ。
もうひとりは弓道部の由良麻美。
この国には和弓はないが、ショートボウやクロスボウならあるとのことだ。
生きた獲物を撃つことに興奮を覚えるから参加するらしい。
ちなみに俺は、彼女と話をしたことがない。
理由は、派手な印象を与える女子グループに所属しているからだ。
正直いって近寄りたくない。
情報収集班は図書館で行動を始めている。
残りのクラスメイトは森に入るメンバーのお見送りだ。
訓練場近くの広場に馬車と兵士が集まっている。
「優斗~、がんばって~、怪我しないでね~」
女子の声援に才原優斗は笑顔で手をふっている。
緊張感が足りない、大丈夫か?
まさか、クラスメイトを不安にさせないためのパフォーマンス?
考えすぎか……。
彼は大きめの盾をもっている。
練習で使用した木の盾じゃない。本物の金属製だ。
腰のベルトには金属製の剣が下がっている。
男子としては剣をもつのに憧れがある。正直に言うと羨ましいのだ。
京都の修学旅行で買うような模造刀ではない。
刃のある本物。
羨ましい、めちゃくちゃ羨ましい!!
連城敏昭は盾をもっていない代わりに、鬼の金棒のような鈍器をかついでいる。
バットのつもりか?
木製の太い棍棒に鉄のイガイガが埋め込まれている。
殴られると凄い痛そうだ。
「才原君、よろしくね」
「由良さんは森が怖くないの?」
「みんないるし、大丈夫でしょ」
「勇気があるね」
「えへへ」
由良麻美は彼が好きだという噂がある。
いままでも彼が活躍すると、彼女は黄色い声を上げていた。
もしかしたら彼女の参加理由は、彼といっしょに行動したいという乙女心かもしれない。
命の危険よりも恋愛を選ぶなんて、まさに恋愛脳。
なので俺は、彼女のあだ名を熱狂的な【ファン】とした。
もちろんそう呼ぶのは俺の脳内だけだ。
「出発するぞ!」
彼らには第三騎士団が同行する。
第二騎士団は団長のロベルトが復帰するまで稼働できないだろう。
雷に撃たれ、瀕死の重傷らしい。
ちなみに、団長の噂を聞いた良知智晃は、まったく表情を変えず平然としていたらしい。
さて、森までは馬車で移動するようだ。
物資などの運搬を含め、八台の馬車が並んでる。
兵士を含めると総勢三十名ほど集まっている。
見たことはないが、戦争の準備をしているようで、なんだか心がざわついた。
才原優斗たちが馬車に乗り込むと、ゆっくりと動きだす。
無事に帰ってきて欲しいものだ。
残った人たちは町での情報収集をお願いされている。
何組かのグループにわかれて行動する予定だ。
宰相には、町を見学したいという理由で許可はとってある。
たぶん監視はついているだろう。
俺の隣にはいつものごとく儀保裕之がいる。
女子二人が近づいてきた。
ひとりは、バレー部の牧瀬遙。
太陽のように明るく、いつも元気いっぱいの女子だ。
彼女と儀保裕之の家は商店街にある。
要するに二人は幼馴染というやつだ。
軽音部のコイツを追っかけしているので脳内では【ミーハー】と呼んでいる。
才原優斗が好きな由良麻美と同じく派手な女子グループに所属している。
なので俺は彼女も苦手だ。
コイツの知り合いじゃなければいっしょに行動しない。
ちなみに、彼女の家はペットショップなので加護は動物に関連してるだろう。
二人目は、書道部の城野詩織。俺の幼馴染だ。
隣の家に住んでいるが、漫画のように窓越しで会話できる間取りではない。
とても内向的で自分から誰かに話しかけたりしない。
俺たち三人がいっしょにいると牧瀬遙が後から加わる。
要するに女子たちが友達というよりは、儀保裕之の近くにいるから話す関係だ。
なので、幼馴染は派手な女子グループに入っていない。
牧瀬遙が儀保裕之の肩をポンとたたく。
「よっ! 裕之」
「おう、来たな。四人そろったし町へくりだしますか!」
「そだね!」
幼馴染は俺と目があうと無言でコクリとうなづいた。
いつものことなのでとくに気にしない。
もとの世界でも四人で出かけたことがある。
儀保裕之と牧瀬遙がぐいぐいと進み、うしろから俺と幼馴染がついていく。
近いけど遠い存在なのだ。
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首都なだけに、城下町はとても華やかだった。
全体的な印象は茶色だが、壁の色が白色、クリーム色、こげ茶色と、とてもカラフル。
灰色の石畳とのコントラストも落ち着いた雰囲気を醸しだしていた。
町には四つの噴水広場があると聞いている。
そこではつねに露店が並び、新鮮な食材が売られているらしい。
俺たちの目的は情報収集。
遊びにきたわけじゃない。
だが、儀保裕之と牧瀬遙の手には、串焼きやチュロスのような細いパン、よくわからない果物などが握られていた。
「オマエたち……」
「真面目だな翔矢は」
「そうだぞ翔矢」
二人の息はぴったりだ。
「翔君も食べる?」
幼馴染が串焼きの先端を俺のクチに近づけてくる。
いつものことだし断る理由はない。塊のひとつに食らいついた。
「まずいな」
「だよね~」
「それに、血生臭い」
「わかる~」
幼馴染は基本的に俺の意見に百パーセント乗っかる。
反論してきたのは数えるほどだ。
「さては、まずいものを俺に処理させる気だな」
「ちがうよぉ~」
幼馴染は次の肉塊をほおばった。
まるで小動物がのん気に食事をしているようだ。
笑顔でモグモグしている姿は、マズそうには見えない。
嫌そうにしたら残りを奪おうとしたがいらぬ心配のようだ。
コミュ力が天元突破している二人に情報収集は任せる。
俺と幼馴染は後をついて歩くだけだ。
瀧田賢が依頼してきたのは。
・国の情勢
・国王と宰相の評判
・他国の評判
・町の人びとの生活水準と物価
聴取の結果、他国とは定期的に小競り合いをしているらしい。
今は膠着状態がつづいているそうだ。
打開策として俺たちを必要としているのかも。
国王と宰相の評判は、可もなく不可もない感じだ。
町の人びとの表情は笑顔が多いので良い治世なのだろう。
住人の話を聞いた儀保裕之が首をかしげている。
「意外だ。宰相の悪口をいうヤツがいない」
「俺たちはヤツに騙されているが。それは国のためだからな。国民には良い為政者なんだろうよ」
そもそも情報収集の項目に意味があるのか疑問だ。
俺だって日本はどうかと聞かれたら『普通じゃね?』と答えるし、首相はどうかと聞かれたら『最悪だ!』と答える。
そんなもんだろ。
「あんな脂ぎったオヤジがねぇ~」
「外見と能力は別だろ」
「まあな。――あと、戦争に前向きな住人が多いのが信じられない」
「俺の持論だが『満たされている人は他者を羨まない』と思っている。逆を言えば、人は満たされるまで他人を羨み、妬み、奪う。そして人の欲望は無限だ」
「え~っ。じゃあ戦争するのはあたりまえだと?」
「いや。欲望は理性で抑え込める。理性は教育や環境で育つから、この世界の住人がどう考えているのか理解するのはむずかしいと思うぞ」
「なるほどな」
もしかすると国王や宰相は悪いヤツじゃないかもしれない。
だが、委員長に隷属の首輪をつけたのは事実だ。
いつか仕返ししてやろう。
他国の情報はほとんど手に入らなかった。
そもそも国家間を行き来する人はめったにいないらしい。
ネットワークのない世界では、他国の情報は軍事機密レベルなのだろう。
この国から逃げ出した先が、さらに悪い状況だったなんて最悪のケースだ。
インターネットがチートインフラだと改めて思い知るな。
戦争の状況がリアルタイムで一般人の目に入る。
情報化社会なんて異常だよ。
俺たちはあてもなく町をブラブラ散策していた。
そこへ、武器や防具を取り扱う店が目に入る。
「この店入ろうぜ」
「男子って、こ~ゆ~の好きだよね」
「俺のなかに眠る勇者の血が騒ぐんだ!」
「凄腕ギタリストじゃなかった?」
「勇者は守護霊だった」
「ハイハイ」
儀保裕之と牧瀬遙はいつもこんな感じで漫才をしていた。
二人を見ながら幼馴染はクスクスと笑っている。
店の厚く重いドアを開ける。
ガランガランとドアベルが鳴った。
鉄、サビ、油。
工場の横を通り過ぎると匂ってくる独特の悪臭が鼻をつく。
店の奥から熊のような大男が顔を出す。
「いらっしゃい」
店主は、俺たちの顔をみるなり不機嫌な表情になった。
「細っこい女連れで、オマエら冷やかしか?」
「この制服を見てわからないのか」
儀保裕之は自分の胸をパンとたたく。
「まさか、騎士様?」
「おうともよ。媚を売っておいたほうがいいと思わないか?」
「チッ」
聞こえるように舌打ちしやがった。
「それで、えらい騎士様がうちのような弱小武器屋になんの御用でしょうか」
営業スマイルをしているが、言葉の端々にトゲが見える。
壁には剣や槍や斧が展示してある。
高そうなものから安そうなものまでいろいろと取り揃えていた。
コイツはそのうちの剣を指さす。
「市勢の調査だ。この剣、一般人の給金だと何本購入できる?」
「は?」
「いや、だから、この剣は高いのかって話」
「オマエら騎士じゃないな」
「バレたか」
コイツは慌てるようすもなく照れ笑いしている。
どんなメンタリティーしてんだよ。
「身分を偽るのは重罪だ、憲兵に突き出してやる!」
営業スマイルから一転。目つきが険しくなる。
「どうぞご自由に。捕まらないと思うけどね」
「余裕だな……、わけがわからん」
「騎士じゃないが、制服を着るのを許された者ってことだ」
「なんだか薄気味悪いな」
店主はとても渋い表情だ。
「用事がすんだら帰るよ。で、この剣は高いのか?」
「冒険者が苦労して手に入れるくらいの代物だよ」
「なるほど……」
俺たちは町へ出る前にお金をもらっている。
その額は剣が五本買えるくらいだった。
とりあえず宰相はケチでないと証明されたのだ。
「この剣より安いのはどこにある」
「お嬢ちゃんの後ろにある樽に刺してあるだろ」
「さらに安い剣はどこだ?」
「おいおい、そりゃもう売り物じゃねーよ」
「あるんだな」
店主は深いため息を漏らした。
「下取りした武器ならある。だが使い物にならないぞ」
「あるだけ買おう」
「古鉄買いに売るやつなんだがなぁ」
「少し色をつけてもいい」
「わーったよ」
店の裏に案内されると木箱のなかにサビた剣などが乱暴に入れられている。
四箱くらいある。けっこうな量だ。
お金を支払うとオヤジは店内へ戻っていった。
「なになに? この世界で金物屋でも開くの?」
「まあそんなとこだ」
「ギターないし、ミュージシャンは諦めるしかないもんね」
「エアギターならあるぜ」
儀保裕之はギターを弾く真似をした。
エアギターを見た牧瀬遙はケタケタ笑っている。
「それにしても重そうだな、俺たちで運べるのか?」
「ふっふっふ見てろよ」
俺の質問に余裕ある笑みを返した。
儀保裕之が木箱に手をかざすと、一瞬で箱が消えてしまった。
「えっ?」
「凄いだろ。材料として認識できるものなら回収できるんだぜ」
「取り出せるのか?」
「あ、無理。もう鉄塊に加工されてる」
「そうか。しかし加護の力は凄いな……」
コイツが羨ましい。人前で加護の力を披露できるのだ。
俺には収納する力なんてない。
もし加護の力を説明したら女子二人はドン引きするだろう。
たとえ幼馴染だとしても許容できないはずだ。
「そろそろ時間だな、戻るか」と儀保裕之が提案した。
依頼された仕事はいちおうクリアしている。
なので俺たちは迎賓館に戻ることにした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
訓練場に戻ると、ちょうど森から戻ってきた馬車が到着した。
「おかえり~!」
元気な牧瀬遙が笑顔でクラスメイトを迎える。
馬車からおりた由良麻美はいきなり彼女に抱きついた。
「どうしたの?」
泣いているのか?
兵士たちの雰囲気も暗い。
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「どうした、何かあったのか?」
気づいた才原優斗が返事をする。
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