ネトラレクラスメイト

八ツ花千代

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35話 第一部 完

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 美人令嬢殺人事件。
 その謎を名探偵の助手である俺が華麗に解決。
 裁判が即座に行なわれ、真犯人は村からの追放処分となった。

 しかし、いきなり森に放置したら事実上の死刑だ。
 なので、遠征部隊が近くの集落に放置してくることになった。
 それまでは牢屋に入れておく。

 というわけで、議事堂の裏手に牢屋が作られた。
 もちろん収監されているのは新垣沙弥香ギャルだ。


 石亀永江委員長は牢屋を作るのに反対した。
 村から逃げ出したとしても、森をひとりで移動できないのだから不必要だと。
 彼女の意見は理解できる。
 しかし、殺人犯を野放しにするのは危険。
 そう説明したら納得してくれた。
 リーダーは優しさだけじゃダメだ。


 牢屋は和室なので畳が敷いてある。
 トイレ付がついているので看守が常に見張らなくていい。
 議事堂で雑魚寝をしている人がまだいるのだから、破格の待遇と言えるんじゃないか?

 牢屋の管理を任されたのは裁判官の瀧田賢インテリメガネ
 嫌な仕事ばかり押し付けられているのが心配だ。
 精神が壊れないといいけれど……。





 いつもなら管理人の瀧田賢インテリメガネが昼食を運ぶのだが代わってもらった。

「元気にしているか?」

 鉄格子のむこうで新垣沙弥香ギャルが体育座りをしていた。

「オマエか」
「飯だぞ」

 鉄格子の下から食事を入れる。

「ウチに草生やしにきたのかよ」
「ひょっひょっひょっ」

 芝居がかった変な笑いかたをしてみる。

「バカかおまえ」

 目線すらくれない。
 空気を和ませるつもりだったのに失敗したようだ。
 俺は鉄格子の前であぐらをかいた。

「オマエが憎んでいたのは乃木坂のぎざかじゃなかったのか? なんで出水いずみを殺したんだよ」
「うるせ~よ」
「毎日聞きにくるぞ~、うっとうしいぞ~、吐いてすっきりしちゃえ~」
「黙れ」
「話す気なしか、なら俺の推理を披露してやろう」
「勝手にしろ」

「オマエは財前ざいぜんが好きだった」

 反応がない。これは周知の事実だから同然だな。

「オマエは薬局に泊まり財前ざいぜんに抱かれた」

 ピクッと反応した。
 お泊りの予約をみんなの前でしたのだ。推理じゃなく必然だ。

「さぞ嬉しかったんだろう。ちょうしに乗ったオマエは聞いてしまった『乃木坂のぎざかとわたし、どっちが良かった』と」

 またピクンと反応した。
 膝のなかに顔を埋めたので表情が確認できない。

「しかし予想外の答えが返ってきた。乃木坂のぎざかには指一本触れていないと。それを聞いたオマエは勝ったと思えなかった。むしろ乃木坂のぎざかは大事にされたのではないかと疑った」

 彼女の耳が赤くなる。
 怒っているのか?

「自分のことが安く扱われたと感じたんじゃないか?」

 膝の前で組んでいる腕に、指がめり込む。
 心の発露を抑え込んでいるのだろう。

「『くだらない』、『男の奪い合いなんてみっともない』、『男は追うんじゃなくて追わせる生き物』。出水いずみの言葉によって自分自身のすべてを否定されてしまった。アイデンティティの崩壊だ」

 肩が微かに震えている。

「そしてトドメの一言。『抱くのなら出水いずみさんがいいな』と財前ざいぜんが呟いた」
「なんでアンタが知ってるのよ!!」

 俺のレベルはかなり上がっているのだ。

 二見朱里歴女千坂隆久モヤシは毎晩自宅でラブラブだ。
 水泳部の片倉澄夏OLは靴屋で嘉門剛平ソムリエとSMプレイ。
 自転車部の菊池潤奈サイクラーなんて一日中ずっと自慰行為みたいなものだ。
 筒井卯月歌姫三門志寿漫画家は銭湯でイチャイチャしてる。

 レベルアップ特典として【恋愛対象】の人数がかなり増えたので新垣沙弥香ギャルを指名したのさ。

 もちろんオマエと財前哲史サトリのプレイもじっくりと観察したぞ。
 彼女はいわゆるマグロというやつだ。
 冷凍されたマグロのように動かず、冷たく、上物だけどまずかったという隠語。
 財前哲史サトリが愚痴をこぼしたのも必然だ。
 【経験値】の増加速度は遅く、見ていて退屈だった。


「俺の名推理、冴えてるだろ?」
「もぅ……ほっといてよ……」

 今にも泣きそうな声だ。

「ほんとうの狙いは財前ざいぜんを犯人にしたかったんだろ? ウソがバレなければ必然的に毒薬を作ったアイツの立場は悪くなる」
「そうよ、復讐したかったの……」
「自分から抱かれにいって被害者ヅラかよ」
「うるさいっ!!」

 ポロポロと涙を流している。

「まぁ、悪い男から離れられるんだ。新天地でがんばれよ」
「どうやって生きていけっていうのよ」
「加護があるだろ」
「へっ?」
「雷の良知らち、覚えてるか? アイツも言っていただろ、加護があれば英雄になれるって。それだけ特別な力なんだよ。ニューデザイン、ニューモード、ファッション界の先駆者。まさに富と名声を得られるんだ」
「ウチ、お金持ちになれるの?」
「そうさ。そしてオマエはこう言うだろう『村から追放されて大富豪になりました。クラスメイト見る目なさすぎ、ざまぁ』ってね」
「マジ?」
「マジだ」
「ヘッヘヘヘヘッ」

 新垣沙弥香ギャルが泣き笑いをする。
 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだ。

「もしかしてウチを慰めにきたの?」

 袖で涙と鼻水を拭くと、牢屋にきてから初めて俺を見た。

「俺がそんな優しいヤツだったか」
「忘れてた、ウチを追い込んだのはオマエだわ!」

 泣いて腫らした目で俺を睨む。

「もとの世界に帰れる目途がついたら迎えにいってやるよ、それまでしぶとく生きてろよな」

 まあ成功してたら帰りたくないだろうが……。

「ウチのこと許してくれるの?」
「許す? 俺には関係ない話ってだけ。それに殺人未遂だからな」
「ウソッ、あいつ死んでたし!」
「俺が生き返らせた」

 渾身のドヤ顔で笑ってみせる。

「だって、ドラゴンの珠は使ったじゃん」
「もらったのがひとつだけだと、誰が言った?」

 ポケットから深紅の珠を取り出し、コイツに見せつけた。
 いつかやってみたかったんだ。
 もちろん珠は使わず、俺のスキルで生き返ったんだがな。

「オマエ! サイテーだ!!」

 泣いたカラスがもう怒る。短気にも程があるだろ。

「まあ、そーゆーことだ、罪は背負え、だが死は背負わなくていい」
「やっぱり優しいね」

 彼女は怒りながらも、口元を緩めた。

「ひょっひょっひょっ、ギャルちょろすぎ~」
「ぜって~ゆるさねぇ! 覚えてろっ!!!」
「ああ、オマエも忘れるなよ」

 俺は立ち上がり牢屋と後にした。



 なぜ俺が、美人令嬢殺人事件を解決できたのか。
 それは死体だった出水涼音令嬢を生き返らせて死因を聞いたからだ。
 彼女はお茶を飲んだあと苦しくなったといった。
 だから毒殺だと断定できたのだ。

 死体から死因を聞くなんて、どんな虚構推理だよ……。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 牢屋から出ると出水涼音令嬢がいた。
 たぶん俺たちの会話は聞かれていただろう。

「ずいぶんと女の子に優しいのね」
「勘違いだと思いますよ」

 俺と彼女の身長は殆ど差がない。
 彼女は俺の前に立つと、腰を前に倒し、上目遣いでじっと見つめてきた。
 首を傾けるとウエーブのかかったロングヘアが肩から落ち、サラリと揺れる。

「天然の女たらしなのかしら?」
「彼女いない歴イコール年齢だぜ」

 不意にキスされた。
 回避しない。彼女の雰囲気から来そうだと予測していたからだ。
 美女にキスされるなんて、心構えができていなければ動揺しただろう。

「あなたに二度も命を助けられたのよ。それで心が動かない女なんていないわ」
「今のは生き返らせた礼として受け取る。けれどもう近づくな、才原さいばらと争う気はない」

 肩を押して俺から離れさせる。

「やっぱり、わたくしに男を追わせられるのは苦瓜にがうり君だけね」

 彼女は小悪魔的な笑みを浮かべる。普通の男子なら恋に落ちるだろう。

「俺には好きな人がいるんだよ」
鬼頭きとうさんでしょ」
「バレてるの?」

 キスをされたことよりも、こっちのほうが驚きだ。

「見ていれば気づくわ」
「バラさないでください、お願いします」

 俺は神頼みするみたいに両手を顔の前であわせる。

「するわけないじゃない。それで関係が進展でもしたら最悪だわ」
「とにかく、出水いずみさんとは付き合わないから」

 クスクスと愉快そうに笑う出水涼音令嬢

「ここは灰色の壁で隔絶された小さな世界。どこにも逃げ場なんてないのよ。アナタは獲物。わたしくは狩人。じっくりと、追い詰めて、ゆっくりと仕留めてあげる」

 妖艶な瞳が俺の心に見えない手を伸ばしてくる。
 それは甘く、かつ恐ろしさを含んでいた。
 本能が叫ぶ、逃げろと。
 コイツは捕食者だ。

「と、とにかく! 俺に近づくな、いいな!」

 俺は静かに暮らしたいんだ。
 台風の目のような出水涼音令嬢が交際相手?
 考えられない。想像すらしたくない。
 心の休まらない相手となんてまっぴらごめんだ。

 俺は脱兎のごとくその場を後にした――。



 【第一部 完】



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