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49話
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議事堂で愛しの鬼頭日香莉と二人きりに。
チャンス到来と勘違いした俺は告白しようと試みる。
しかし、話の最中に彼女に好きな人がいることが判明。
――それがなんだ!!!
それはそれ、これはこれ。
好きな気持ちは揺らがない。
カッコイイ言葉かもしれないけど、一歩間違うとストーカーだ。
迷惑をかけないよう片思いでいよう、うん……。
どうせもとの世界には帰れないんだ。
彼女も昔の男の思いでは箱の奥にしまうだろう。
頼むからしまってくれ。
お願いします……。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
自転車部の菊池潤奈から、自慰行為がマンネリ化したので対策を考えて欲しいと依頼を受けた。
男に相談する内容じゃない。
しかし相談できるのは秘密を知っている俺だけなのかもしれない。
なので話だけでも聞いてみることにした。
ここは彼女の自宅。
昼食後にお邪魔すると伝えてある。
玄関ドアが開き、彼女が姿を見せた。
「いらっしゃい!」
いつもの半袖短パンのラフな服装じゃない。ブラウスとスカートだ。
こう見ると普通の女子だな。
部屋の間取りはどの家も同じ、フローリングのワンルーム。
けれど、玄関のサイズだけは違う。
自転車が置けるように広くしてもらったようだ。
室内にはベッド、タンス、ドレッサー、テーブル、ソファーが置いてある。
飾りつける趣味はないらしく、とてもサッパリとした雰囲気だ。
「さあさあ座って」
俺を引っ張るようにソファーに座る。肩が密着するほど近い。
「部屋に男子を招いたのは初めてだよ、もちろんもとの世界でもね」
「それは光栄だね」
「へへっ」
小麦色の顔が笑っている。
「で! で! マンネリ防止、考えてくれた?」
「その前に、クラス会議で話した件を詰めよう」
「なんの話?」
「装甲車を作るって話!」
「あ~思い出した、ウンウンまかせて」
コイツ、完全に忘れてたな。
俺はもってきた布袋から紙とシャーペンを取り出す。
紙は亀ケ谷暁子の店から。シャーペンは玩具の油科輝彦に依頼した。
「作りたいのはキャンピングカーのように車内で生活できる車だ」
「外に出るのは危険だもんね」
「そのとおり、作れそうか?」
彼女は目の前の空間をキョロキョロ見ている。
たぶん製作可能なリストにあるか確認しているのだろう。
「ウン、あるよ」
「その車はカスタマイズできるか?」
「できそうだね」
「まずは外装の変更。なるべく硬くて軽い素材がいい」
「セルロースナノファイバーがいいみたい」
「じゃあソレで。出先でパンクの修理はできないから車輪は八つ。悪路も走れるように大きめのタイヤで」
俺はイメージした絵を紙に書いている。
「軍用タイヤがいいみたい。ノーパンクだって」
「窓は小さくして、ガラスは防弾がいいな」
「もうキャンピングカーじゃないね」
「浅い川くらいは渡れる防水性が欲しい」
「それって車かなぁ」
「上には軽機関銃をつけてくれ」
「もう戦車だね」
たしかに俺の書いた絵は戦車にも見える。
「無理か?」
「まって……、ウン作れそう。でも弾はダメっぽい」
「そのほうがいい。なかのインテリアはどんな設備がある?」
「キッチン、トイレ、洗面台かな」
「どのくらい車内で暮らせるんだろう」
「水タンクは大人二人で三日くらいかな」
「ん~……」
「どうしたの?」
「最低でも二週間は暮らせるようにしたい。水かぁ……」
彼女が俺の顔を覗き込む。
「苦瓜君はいつもそうやって村のこと考えてくれてたんだね」
「裕之に相談してたさ」
「それでも凄いよ。そうだ、水は三門さんにお願いしよう」
アイツはパートナーの三門志寿がいっしょじゃないと嫌がりそうだな。
説得はしてみよう。
「三門が不在のあいだ、村の水をどうするか……。気仙に浄水場を作れるか確認するのが先だな」
立ち上がろうとすると、腕を引っ張られる。
「帰るの?」
「ああ、確認しにいこうかと」
「ボクのお願いは?」
「……あぁ! ごめん忘れてた」
焼いたお餅のようにぷく~っと頬を膨らませる。
「怒るなよ、いいモノもってきたから」
布袋から取り出しテーブルのうえに置く。
「これはなに?」
「マッサージ機だよ」
親指ほどの大きさのカプセルと無線リモコンだ。
充電式の電池と充電器もある。
これはバイブと呼ばれる大人のおもちゃだ。
彼女はバイブを手に取ると不思議そうな表情で眺めている。
俺はリモコンのスイッチを押した。
ブーンという機械音とともにバイブが振動を始める。
「凝っている肩にあててみな」
「あ~きもちいいね」
「だろっ」
リモコンのスイッチをオフにした。
機械音は止み、振動がおさまる。
「プレゼントは嬉しいけど、お願いとは関係ないような?」
「菊池はニブイ子だねえ」
「なにおっ!」
「それをキモチイイ場所にあてるんだよ」
ハッと気づいた表情になる。
「理解したようだな。じゃあ後はひとりで楽しむんだな」
「待って!」
「ん?」
顔が真っ赤だ。
「見てて……」
「はぁっ?」
「刺激がね、足りないの、あの日のことが忘れられなくて……」
「あ~っ……」
新たな性癖の扉を俺が開いたようだ。
見られながらスルと感じる体になったらしい。
テーブルを挟んで、ソファーの向かい側がベッドだ。
彼女はソファーから立ち上がると、ベッドに移動し、腰を下ろす。
そこは俺の正面だ。
物欲しそうな目で俺を見ている。
しかたないな……。
リモコンのスイッチを押した。
願いが通じたのが嬉しいのか、ニコッと微笑んだ。
彼女はバイブを首筋にあてた。
マッサージ機なのでそこでは感じないだろう。
恥ずかしそうな表情で、ゆっくりとバイブを下ろしてゆく。
視線はずっと俺をみている。
緩やかな山を登り、バイブが頂上に到着する。
「あっ……」
山頂にある突起物がキモチイイらしい。
彼女は円を描くように先端の周囲をなぞる。
「んっ……」
ときおり、背中がぴくっと痙攣した。
「ねぇ、苦瓜君」
「なに?」
「下の名前で呼んでいい?」
「いいよ」
「ありがとう翔矢」
名前なんて儀保裕之と幼馴染くらいしか呼ばない。
それほど親しくないヤツに呼ばれると心がくすぐったい。
彼女は立ち上がるとスカートのファスナーを下ろした。
ストンとスカートが床に落ち、健康的な小麦色の足があらわれる。
いつも短パンなので、日焼けの跡がクッキリしている。
焼けていない肌は思った以上に白く、眩しく感じられた。
白い下着が小麦色の肌から浮き出て見える。
彼女はふたたびベッドに座る。
お腹にあてたバイブがゆっくりと降りていく。
太もものあいだに入り込み、俺からは見えなくなった。
「んっ……」
見えないもどかしさが俺の心をかき乱す。
いたずら心が疼き、俺の手のなかにあるリモコンのスイッチを中にすると振動音が大きくなった。
「あっ、あっ」
彼女のクチから洩れる吐息も増えてくる。
ひざがゆっくりと開き、バイブの姿が確認できた。
下着の上を滑るように動いている。
「翔矢」
「なに?」
陶酔しているらしく返事はない。
いつのまにか彼女のまぶたは閉じていた。
ベッドのうえに置いていた右手が胸に移動する。
乳房を包むように手が開く。
大きく円を描くように手が動くと、柔肉が形を変える。
湿った下着をなぞるようにバイブが往復していた。
「翔矢、翔矢」
俺はここにいるのに、目を閉じて名前を呼んでいる。
まるで夢のなかに語りかけているようだ。
「んっ……、あっ……、翔矢、もっと……」
バイブをもつ手が激しく上下し始めた。
苦しそうに呼吸する。
胸を触る手の動きも、より激しさを増す。
「あっ、あっ、あっ、翔矢、んっ、あっ」
リモコンのスイッチを強にすると、さらに振動音が大きくなった。
「ああっ! ああっ! 翔矢、好きっ、もっとっ、翔矢、ああっ!」
彼女はベッドに倒れこみ、仰向けになった。
痛々しいほど胸を強く掴んでいる。
快感をさらに高めるように、腰がうねうねとゆらめく。
足はつま先立ちになり、背中が弓のようにそる。
「ああっ! ああっ! んんっ!! 翔矢、翔矢、いくっ!!!」
ベッドから腰が浮き上がり、ビクビクと痙攣している。
リモコンのスイッチをオフにすると振動音も止まる。
手の力が失われたのか、バイブが手からこぼれ落ちた。
ガクンと腰がベットに落ち、つま先立ちだった足も元にもどる。
呼吸もゆるやかになり、吐息もおちついた。
彼女は体を起こすと顔を両手で隠す。
「どうでしたか?」
「なにが?」
「だから、ボクの……自慰」
「えっろ!」
枕が飛んできた。
受け止めることもできたが、あえて顔であたりにいく。
「もっと! 気のきいた感想を求むっ!」
「細い首は美しく、大きすぎない胸はポイント高い。贅肉のない腰がくねっと曲がると色っぽく、小さなお尻が揺れるのはエッチだし、引き締まった太ももは見惚れるし、筋肉質のふくらはぎは健康的でとてもいい、濡れて透けた下着は刺激的だ」
顔を隠したまま、もも上げランニングのように、その場で足踏みしている。
「もしかするとさあ、いつも俺の名前を呼びながらしてる?」
「ダメ?」
「声を聴いたヤツが誤解しそうだ」
「じゃあもっと大きな声でするね」
「確信犯かよ!」
「へへっ」
「スカートはかないと風邪ひくぞ」
「こっち来ない?」
指の隙間から俺を見ている。
「行きません」
「ちぇっ。ホントに手を出す気はないんだね」
「ばあちゃんの遺言でね、結婚するまで肉体関係を結ぶのを禁じられてるんだ」
「ウソだね」
「バレたか」
落ち着いたらしく、顔を隠していた手を下ろした。
「鬼頭さんのどこがいいの?」
「一目ぼれに理由なんてないさ」
「やっぱり顔かぁ~、カワイイもんね」
落胆の溜息をつきながら床に視線を落とす。
「芸能界でも余裕で成功しそうな容姿。同じクラスになれた幸運に感謝だ」
「もうっ、告白してフラれちゃえ!」
すでにフラれたようなものだが、好きな人がいるのは秘密なので返事がむずかしい。
「タイミングを測っているところさ」
「フラれたら教えてよ! 絶対だからね!」
「フラれるの前提かよ」
「ボクの体で慰めてあげるから、さ!」
「いりません」
「ちぇっ」
クチを尖らせて拗ねてしまう。
メンタルケアのスキルは、肉体関係をもつと癒されていた傷心や好感度が反転するらしい。
けれど、俺にたいする彼女の好感度は下がった様子はない。
彼女の自慰を見たわけだが、どうやら肉体関係とはみなされないようだ。
それに、リモコンでバイブを操作しでも大丈夫。
判定基準はなんだろう……。
彼女で試すのは危険だな。自慰を覗かれたショックは計り知れない。
「じゃそろそろ行くよ。気がむいたら、また見せてくれ」
「うん!」
俺は中腰のまま菊池潤奈の家を後にした。
チャンス到来と勘違いした俺は告白しようと試みる。
しかし、話の最中に彼女に好きな人がいることが判明。
――それがなんだ!!!
それはそれ、これはこれ。
好きな気持ちは揺らがない。
カッコイイ言葉かもしれないけど、一歩間違うとストーカーだ。
迷惑をかけないよう片思いでいよう、うん……。
どうせもとの世界には帰れないんだ。
彼女も昔の男の思いでは箱の奥にしまうだろう。
頼むからしまってくれ。
お願いします……。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
自転車部の菊池潤奈から、自慰行為がマンネリ化したので対策を考えて欲しいと依頼を受けた。
男に相談する内容じゃない。
しかし相談できるのは秘密を知っている俺だけなのかもしれない。
なので話だけでも聞いてみることにした。
ここは彼女の自宅。
昼食後にお邪魔すると伝えてある。
玄関ドアが開き、彼女が姿を見せた。
「いらっしゃい!」
いつもの半袖短パンのラフな服装じゃない。ブラウスとスカートだ。
こう見ると普通の女子だな。
部屋の間取りはどの家も同じ、フローリングのワンルーム。
けれど、玄関のサイズだけは違う。
自転車が置けるように広くしてもらったようだ。
室内にはベッド、タンス、ドレッサー、テーブル、ソファーが置いてある。
飾りつける趣味はないらしく、とてもサッパリとした雰囲気だ。
「さあさあ座って」
俺を引っ張るようにソファーに座る。肩が密着するほど近い。
「部屋に男子を招いたのは初めてだよ、もちろんもとの世界でもね」
「それは光栄だね」
「へへっ」
小麦色の顔が笑っている。
「で! で! マンネリ防止、考えてくれた?」
「その前に、クラス会議で話した件を詰めよう」
「なんの話?」
「装甲車を作るって話!」
「あ~思い出した、ウンウンまかせて」
コイツ、完全に忘れてたな。
俺はもってきた布袋から紙とシャーペンを取り出す。
紙は亀ケ谷暁子の店から。シャーペンは玩具の油科輝彦に依頼した。
「作りたいのはキャンピングカーのように車内で生活できる車だ」
「外に出るのは危険だもんね」
「そのとおり、作れそうか?」
彼女は目の前の空間をキョロキョロ見ている。
たぶん製作可能なリストにあるか確認しているのだろう。
「ウン、あるよ」
「その車はカスタマイズできるか?」
「できそうだね」
「まずは外装の変更。なるべく硬くて軽い素材がいい」
「セルロースナノファイバーがいいみたい」
「じゃあソレで。出先でパンクの修理はできないから車輪は八つ。悪路も走れるように大きめのタイヤで」
俺はイメージした絵を紙に書いている。
「軍用タイヤがいいみたい。ノーパンクだって」
「窓は小さくして、ガラスは防弾がいいな」
「もうキャンピングカーじゃないね」
「浅い川くらいは渡れる防水性が欲しい」
「それって車かなぁ」
「上には軽機関銃をつけてくれ」
「もう戦車だね」
たしかに俺の書いた絵は戦車にも見える。
「無理か?」
「まって……、ウン作れそう。でも弾はダメっぽい」
「そのほうがいい。なかのインテリアはどんな設備がある?」
「キッチン、トイレ、洗面台かな」
「どのくらい車内で暮らせるんだろう」
「水タンクは大人二人で三日くらいかな」
「ん~……」
「どうしたの?」
「最低でも二週間は暮らせるようにしたい。水かぁ……」
彼女が俺の顔を覗き込む。
「苦瓜君はいつもそうやって村のこと考えてくれてたんだね」
「裕之に相談してたさ」
「それでも凄いよ。そうだ、水は三門さんにお願いしよう」
アイツはパートナーの三門志寿がいっしょじゃないと嫌がりそうだな。
説得はしてみよう。
「三門が不在のあいだ、村の水をどうするか……。気仙に浄水場を作れるか確認するのが先だな」
立ち上がろうとすると、腕を引っ張られる。
「帰るの?」
「ああ、確認しにいこうかと」
「ボクのお願いは?」
「……あぁ! ごめん忘れてた」
焼いたお餅のようにぷく~っと頬を膨らませる。
「怒るなよ、いいモノもってきたから」
布袋から取り出しテーブルのうえに置く。
「これはなに?」
「マッサージ機だよ」
親指ほどの大きさのカプセルと無線リモコンだ。
充電式の電池と充電器もある。
これはバイブと呼ばれる大人のおもちゃだ。
彼女はバイブを手に取ると不思議そうな表情で眺めている。
俺はリモコンのスイッチを押した。
ブーンという機械音とともにバイブが振動を始める。
「凝っている肩にあててみな」
「あ~きもちいいね」
「だろっ」
リモコンのスイッチをオフにした。
機械音は止み、振動がおさまる。
「プレゼントは嬉しいけど、お願いとは関係ないような?」
「菊池はニブイ子だねえ」
「なにおっ!」
「それをキモチイイ場所にあてるんだよ」
ハッと気づいた表情になる。
「理解したようだな。じゃあ後はひとりで楽しむんだな」
「待って!」
「ん?」
顔が真っ赤だ。
「見てて……」
「はぁっ?」
「刺激がね、足りないの、あの日のことが忘れられなくて……」
「あ~っ……」
新たな性癖の扉を俺が開いたようだ。
見られながらスルと感じる体になったらしい。
テーブルを挟んで、ソファーの向かい側がベッドだ。
彼女はソファーから立ち上がると、ベッドに移動し、腰を下ろす。
そこは俺の正面だ。
物欲しそうな目で俺を見ている。
しかたないな……。
リモコンのスイッチを押した。
願いが通じたのが嬉しいのか、ニコッと微笑んだ。
彼女はバイブを首筋にあてた。
マッサージ機なのでそこでは感じないだろう。
恥ずかしそうな表情で、ゆっくりとバイブを下ろしてゆく。
視線はずっと俺をみている。
緩やかな山を登り、バイブが頂上に到着する。
「あっ……」
山頂にある突起物がキモチイイらしい。
彼女は円を描くように先端の周囲をなぞる。
「んっ……」
ときおり、背中がぴくっと痙攣した。
「ねぇ、苦瓜君」
「なに?」
「下の名前で呼んでいい?」
「いいよ」
「ありがとう翔矢」
名前なんて儀保裕之と幼馴染くらいしか呼ばない。
それほど親しくないヤツに呼ばれると心がくすぐったい。
彼女は立ち上がるとスカートのファスナーを下ろした。
ストンとスカートが床に落ち、健康的な小麦色の足があらわれる。
いつも短パンなので、日焼けの跡がクッキリしている。
焼けていない肌は思った以上に白く、眩しく感じられた。
白い下着が小麦色の肌から浮き出て見える。
彼女はふたたびベッドに座る。
お腹にあてたバイブがゆっくりと降りていく。
太もものあいだに入り込み、俺からは見えなくなった。
「んっ……」
見えないもどかしさが俺の心をかき乱す。
いたずら心が疼き、俺の手のなかにあるリモコンのスイッチを中にすると振動音が大きくなった。
「あっ、あっ」
彼女のクチから洩れる吐息も増えてくる。
ひざがゆっくりと開き、バイブの姿が確認できた。
下着の上を滑るように動いている。
「翔矢」
「なに?」
陶酔しているらしく返事はない。
いつのまにか彼女のまぶたは閉じていた。
ベッドのうえに置いていた右手が胸に移動する。
乳房を包むように手が開く。
大きく円を描くように手が動くと、柔肉が形を変える。
湿った下着をなぞるようにバイブが往復していた。
「翔矢、翔矢」
俺はここにいるのに、目を閉じて名前を呼んでいる。
まるで夢のなかに語りかけているようだ。
「んっ……、あっ……、翔矢、もっと……」
バイブをもつ手が激しく上下し始めた。
苦しそうに呼吸する。
胸を触る手の動きも、より激しさを増す。
「あっ、あっ、あっ、翔矢、んっ、あっ」
リモコンのスイッチを強にすると、さらに振動音が大きくなった。
「ああっ! ああっ! 翔矢、好きっ、もっとっ、翔矢、ああっ!」
彼女はベッドに倒れこみ、仰向けになった。
痛々しいほど胸を強く掴んでいる。
快感をさらに高めるように、腰がうねうねとゆらめく。
足はつま先立ちになり、背中が弓のようにそる。
「ああっ! ああっ! んんっ!! 翔矢、翔矢、いくっ!!!」
ベッドから腰が浮き上がり、ビクビクと痙攣している。
リモコンのスイッチをオフにすると振動音も止まる。
手の力が失われたのか、バイブが手からこぼれ落ちた。
ガクンと腰がベットに落ち、つま先立ちだった足も元にもどる。
呼吸もゆるやかになり、吐息もおちついた。
彼女は体を起こすと顔を両手で隠す。
「どうでしたか?」
「なにが?」
「だから、ボクの……自慰」
「えっろ!」
枕が飛んできた。
受け止めることもできたが、あえて顔であたりにいく。
「もっと! 気のきいた感想を求むっ!」
「細い首は美しく、大きすぎない胸はポイント高い。贅肉のない腰がくねっと曲がると色っぽく、小さなお尻が揺れるのはエッチだし、引き締まった太ももは見惚れるし、筋肉質のふくらはぎは健康的でとてもいい、濡れて透けた下着は刺激的だ」
顔を隠したまま、もも上げランニングのように、その場で足踏みしている。
「もしかするとさあ、いつも俺の名前を呼びながらしてる?」
「ダメ?」
「声を聴いたヤツが誤解しそうだ」
「じゃあもっと大きな声でするね」
「確信犯かよ!」
「へへっ」
「スカートはかないと風邪ひくぞ」
「こっち来ない?」
指の隙間から俺を見ている。
「行きません」
「ちぇっ。ホントに手を出す気はないんだね」
「ばあちゃんの遺言でね、結婚するまで肉体関係を結ぶのを禁じられてるんだ」
「ウソだね」
「バレたか」
落ち着いたらしく、顔を隠していた手を下ろした。
「鬼頭さんのどこがいいの?」
「一目ぼれに理由なんてないさ」
「やっぱり顔かぁ~、カワイイもんね」
落胆の溜息をつきながら床に視線を落とす。
「芸能界でも余裕で成功しそうな容姿。同じクラスになれた幸運に感謝だ」
「もうっ、告白してフラれちゃえ!」
すでにフラれたようなものだが、好きな人がいるのは秘密なので返事がむずかしい。
「タイミングを測っているところさ」
「フラれたら教えてよ! 絶対だからね!」
「フラれるの前提かよ」
「ボクの体で慰めてあげるから、さ!」
「いりません」
「ちぇっ」
クチを尖らせて拗ねてしまう。
メンタルケアのスキルは、肉体関係をもつと癒されていた傷心や好感度が反転するらしい。
けれど、俺にたいする彼女の好感度は下がった様子はない。
彼女の自慰を見たわけだが、どうやら肉体関係とはみなされないようだ。
それに、リモコンでバイブを操作しでも大丈夫。
判定基準はなんだろう……。
彼女で試すのは危険だな。自慰を覗かれたショックは計り知れない。
「じゃそろそろ行くよ。気がむいたら、また見せてくれ」
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