実の妹が前世の嫁だったらしいのだが(困惑)

七三 一二十

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第36章:聖女と魔女の歴史的瞬間を目撃した、かもしれない(誇大)

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「あーー、しまったあーー!!」

 初夏の夕暮れ、橙色にそまった空の下で妹が絶叫する。ゲーセンからの帰宅途中、県道沿いの歩道。周囲はすでにうす暗い。

「な、なんだ、どうした!?」

「結局あたし、今日、にいちゃんと対戦してないじゃない!!」

 ガクッ、と肩を落とす。今頃気づいたんかい……

「そんなことでいちいち大声出さんでもいいだろ。家に帰ったら、いくらでも相手になってやるよ」

「そーゆー問題じゃないのよ! 外で一緒に遊ぶから意味があるって、さっきも言ったじゃん。せっかくの機会だったのに……あたしのバカ、バカバカ!!」

 涙目にまでなって、ポカポカと可愛らしく自分の頭を叩きはじめた。まあその自己評価に異論はないが、後悔するポイントが妙にズレている。

「落ち着けって、次はちゃんとゲーセンで対戦してやるから」

 俺は妹の両手を自分の両手でおさえながら、仕方なくそう説得する。中身はともかく外観は美しい形をした頭部に、こぶでも出来たら一大事である。

 俺の言葉を聞いた光琉ひかるは、ふっと己を打擲ちょうちゃくする力をゆるめると、

「"次"ってことは……にいちゃん、またあたしとデートしてくれるの?」

「あッ……」

 失言に気づいた時には、すでに遅かった。

「言ったよね、たしかに"次"って言ったよね! あたしはしっかり聞いたわよ!? じゃあそれって、"次"のデートがあるってことだよね!! 他にカイシャクのしようもないわよね!!?」

 犯人を追い詰める古畑◯三郎も真っ青の勢いでまくしたててきやがる、我が妹様。

「まさか今更、テッカイしたりしないわよね。勇者に二言はないわよね!? "嘘つきはのはじまり"って、教会でもおしえられたわよ!!??」

「だー、いい加減しつこい!!」

 大体お前(=メルティア)自身、前世では最終的に教会から"背教者"指定されただろうが……

「わかった、わかったよ。いいよ、またデ……遊びに連れていくくらい、いくらでもしてやるよ」

 俺は降参することにした。わがまま狂戦士バーサーカーと化した元聖女に抗うのは至難だと、戦局を見極めたのである。

 弱みを見せたのはこちらだし、くどいようだが兄妹で一緒に外出するなんてことは常日頃からやってきたことだ。今更肩ひじ張る必要はない、要はそれを言語上どう表現するかだけの問題ではないか(言い訳がましいのは自分でも承知の上だ!)。

 ま、まあこんな猿並の知能しか持たない妹でも、一応は年頃の女子だしな。毎回ゲーセンで遊ぶというのも野暮だろう。次はもう少し小洒落こじゃれた場所へ連れて行ってやってもいいかな、ネットでレジャースポットでも検索して……

「わーい、にいちゃん大好き!!」

 俺の返答がよほどうれしかったのか、おもむろに光琉が抱き着いてくる。華奢な両腕で、俺の胴体を左右からがっちりとホールドする。

 今日だけで幾度となく妹に密着されたわけだが、俺の方はまだまだその感触に慣れそうもない。「だからくっつくなって!」といいながら引きはがそうとするものの、鼻のすぐそばまで迫った黄金こがね色の髪から良い香りが漂ってくるので、今一つ力が入らない……くそ、段々妹の押しに弱くなっていく気がするな。

「……実の兄妹が、こんな処で堂々といちゃつかないでもらえるかしら?」

 刺々しい声に背中を突かれ、反射的に光琉を引きはなした(火事場の何とやら、である)。振り返ると、奥杜おくもりかえでが生ゴミに向けるような視線で俺たちを射抜いていた。薄闇の中でも、額に浮き出る血管が目に浮かぶようだった。

「ちっ、良いところだったのに、オジャ魔女め」

 光琉が聞こえよがしに悪態をつく。どうでもいいけどそのあだ名、そろそろ使用を控えてもらえない?

「大体なんであんた、あたしたちについて来てんのよ。さっさと自分の家に帰りなさいよ!」

「私の家もこっちの方角よ。それにあなたたちを見張っていないと、すぐ今みたいに破廉恥な行為に走るじゃないの。ここが公道だということを、少しはわきまえなさい」

 俺たちが今立っている歩道はこの時間帯、人通りは少ないものの皆無でもない。かたわらの県道でも、車がちらほらと通り過ぎている。第三者に今のやり取りを目撃されていたらと思うと、たしかに顔が熱くなるな……

 先刻の光琉と奥杜の格ゲー対決は合計して10戦ほども繰り返されたが、結局光琉の全敗に終わった(極めて順当な結果である)。いい加減星を数えるのも馬鹿馬鹿しくなってきた頃合いで光琉の手持ち硬貨が尽き、中学生の退館時間も迫ったので、そこでお開きとなった。

 ショーさんにあいさつをして、往生際悪くぶーぶー言い続ける光琉を引きずりながらゲーセンを後にしたが、そこからずっと奥杜が俺たちと同行しているというわけだった。

「そんなこと言って、ほんとは1人で帰るのが寂しいだけじゃないの?」

「なななな何をばかいってるのよそんなわけないでしょ!?」

 "疾風の魔女"が二つ名にふさわしい(?)超早口でまくし立てる。

 まあ友達とはしゃいだ後は、1人になるのが妙にわびしいものだよな。しかも奥杜にとっては、そういう体験は今回が人生初かもしれないわけで……

「にいちゃん、何でいきなり涙ぐんでんの?」

「なんでもない。人間には憐憫れんびんの情というものがあるのだよ、妹よ」

「言ってることがよくわからないんだけど……あ、そうだ!」

 光琉は再び奥杜の方へ向き直ると、おもむろにポケットからスマートフォンを取り出した。

「あんた、連絡先交換しなさいよ」

「え、連絡先!? なんで……」

「はあ? それくらい当たり前でしょ、友達なんだから」

 妹の口から意想外の単語が飛び出した。これには奥杜だけでなく、横で聞いていた俺も目を丸くする。

「と、ととと、友達!!?? 一体、誰と誰が」

「あたしとあんたに決まってるじゃん。そこ聞き返す、ふつー? あれだけの死闘を繰り広げたからにはもう"強敵"と書いて"とも"と呼び合う間柄でしょーが、ジョーシキ的に考えて!」

 突然世紀末的な常識を振りかざす元聖女。ちゃっかり"死闘"とか言ってるけど、さっきの対戦のことなら、お前が一方的にボコられただけだからな?

 それはともかく。

 あれだけ疎んじていた奥杜をあっさり"友達"認定できてしまう妹の割り切りの良さに、俺は感嘆の念をおぼえた。アホの子ゆえ深く考えていないだけかもしれないが、こういう気性はやはり長所と言うべきだろう。いつまでも敵愾心てきがいしんを引きずるより、よほど建設的だ。

 相手は先輩だし、ボロ負けした方が「今日から強敵ともだ!」と宣言するのもいかにも図々しい気がするが、その辺はこの際目を瞑ることにしよう。

「あ、あら、やっぱりあなた、子供っぽい考え方をするのね。別に私は友達なんて、ど、どっちでもいいんだけど……そうまで言うなら、連絡先を交換してあげるわ!」

 精一杯居丈高いたけだかな調子で自分のスマホを取り出した奥杜だったが、口元はよだれを垂らしそうなくらいゆるんでいる。

 その後奥杜が◯INEの使い方に慣れていないために多少のゴタゴタは生じたが(「スマホ同士くっつけてどうすんのよ!」「振るの、そこで振るの!」などといった光琉の怒号が夕空に響いていた)、どうやら前世で仲間同士だった少女2人は無事連絡先の交換を果たしたらしかった。

 何だか、歴史的瞬間に立ち会った気分である。

「よし、これでいつでもリベンジマッチを挑めるわね。格ゲー修行して次こそあんたを負かしてやるんだから、逃げるんじゃないわよ!」

 まさかそれが主目的ではあるまいな、妹よ。

「いつでも受けて立つけど、次は下校途中にああいうとこ行くのはダメですからね。行くとしても、一旦帰宅して制服を脱いでからにすること」

「ちぇ、やっぱり口うるさいやつ」

「まあ、今日のことは多めに見て、先生たちには黙っていてあげるけど……と、友達のよしみでね!!ふへへ」

 顔を真っ赤にしながら、気味の悪い笑い声を漏らし始める風紀委員。どうも”友達の誼”と口にしたかっただけらしい。あと見逃すも何も、さっきゲーセンで一番はりきってたの自分だからね?

「じゃ、ついでに俺も、奥杜と連絡先を交換してもらおうかな」

「絶対ダメ!」

 俺がスマホを取り出すと光琉が即座に俺と奥杜の間に立ち塞がり、ガードするように両腕を広げた。ディフェンスに定評のある◯上か、お前は。

「いや、何でだよ」

「ホンサイの目の前でアイジンの連絡先を聞こうとするなんて、どういう神経してるの!」

「だ、誰が愛人よ……そもそもあなたが本妻だなんて認めませんからね!?」

 と、奥杜。他にツッコミ役がいると楽だなあ。

 結局、妹と風紀委員が飽きずにまた口論へ突入したので、俺と奥杜の連絡先交換は有耶無耶になった。馬鹿らしくなったので先へ進むことにすると、2人は言い争いを継続しながら着いてくる。仲が良いんだか悪いんだか。

 ふいに、前世で魔王討伐に向けて旅をしていた時も、3人がこんな風に並んで歩いたことがあったかもしれない、ということを考えた。記憶はおぼろげなのに、奇妙な懐かしさをおぼえ胸が締めつけられる。

 単なる感傷のなせるわざ、だろうか?
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