実の妹が前世の嫁だったらしいのだが(困惑)

七三 一二十

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第64章:聖女の生まれ変わりが想像以上に問題児だった件について(頭痛)①

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 突如、聖なる魔力が癇癪かんしゃくをおこした……ような気がした。

 光琉ひかるを中心に爆発的なエネルギーがほとばしり、放射状に土煙が巻き起こった。妹の華奢きゃしゃな身体をまばゆい輝きが包みこみ、そのエネルギーに押し上げられるように黄金の髪が波打ちながら逆立っている。あらわになった白くつややかな額では、青スジがピクピクしていた。

 まるで激しい怒りによって、伝説のスーパー聖女に目覚めてしまったかのようなおもむきである。うーむ、とっくにご存じだったが、これはめちゃくちゃキレてんな! 妹がこれまでおだやかな心の持ち主だったかという点に関しては、大いに疑念が残るところではあるが(※)。

「どういうこと?」

 光琉からの問いかけ。低く静かな声の中に、百万の刃の気配が感じ取れた。ひええ……

「あたし、にいちゃんが敵に呼び出されたって聞いて……実際校内に強大な魔力反応も感じたし、いてもたってもいられなくなってここまで(文字通り)飛んできたのに……ついてみたらそんなび、美人さんとの浮気現場をいきなり見せつけられるなんて。こんなことってある? さすがに予想外すぎて、言葉も見つからないよ……」

 言葉が見つからないという割にはペラペラしゃべってんじゃねえか、などとはとても指摘できる雰囲気ではない。あとやっぱり光琉の眼からみても竜崎りゅうざき星良せいらは美人の範疇はんちゅうに入るんだな、と妙なところで感心してしまった。

 国を傾けかねない美貌の持ち主である我が妹でも、他人の容姿を妬むことがあるらしい。竜崎はたしかに健康的な美少女ではあるが、こと造形美に関して言えば光琉には及ぶべくもない、我が妹はその点(悔しいが)次元が違い過ぎる、と俺などは思うのだが……このアホ、ひょっとしておのれのルックスがいかに規格外のものであるか、まるで自覚がないのか?

「ちょっと、聞いてるの、にいちゃんっ!!」

「はい、聞いてます!」

 翡翠色エメラルドグリーンの眼光に射すくめられ、とっさに直立不動の姿勢をとった。

 どうやらこの場での雑念は、即死を意味するらしい。一瞬たりとも気を抜くわけにはいかない。魔王戦以上の修羅場じゃねーか!

「どれだけをもてあそべば気が済むのかしら。あのおジャ魔女のみならず他にも浮気相手がいたなんて、いかにな妻のあたしでも、我慢の限界があるわよ?」

「ま、待て光琉、誤解だ。お前は何か勘違いしてるぞ、ハナセバワカル!」

 ツッコミどころ満載の糾弾きゅうだんだったが、妹の迫力に押された俺の口からはついついうさん臭い弁明が飛び出してしまったのであった。

 くそ、これじゃ本当に浮気がバレてあわててるダメ男みたいだな! しかも依然竜崎に抱きつかれたままの状態で言っているわけだから、説得力のないことおびただしい。

 こうしている間にも妹の怒りゲージが加速度的に上昇していくのがわかる。そろそろ超聖女2に進化して周囲の大気がスパークし始めないだろうな、と密かに懸念を抱いたところで……竜崎が動いた。

 俺の身体を包みこんでいた両腕をほどくとくるりと向きを変え、怒りのオーラを発し続ける元聖女めがけて飛ぶように駆け寄っていった。何をする気だ、と問いただす間もなく。

「わーメルティアはんやー! なつかしいわあ、生まれ変わってもどえらい綺麗やな、やっぱ! お人形にんぎょさんが動いてしゃべってるみたいやわ。あんたにもずっと会いたかったんやでー」

 今度は光琉に、思いっきり抱きついたのだった。

「ふえ!? あ、あの……」

 思わぬ成り行きに、光琉も目を白黒させている。困惑で精神集中が途切れたのか、全身を包む白い光も見る見る勢いが減退していき、やがて完全におさまった。

 どうやら俺の生命は、危ういところで助かったらしい。「『実の妹が前世の嫁だったらしいのだが(困惑)』・完!」とはならず、本当によかったよかった。

「なんや、あんたもうちのことをよう思い出せんか?」

 そう問われ、うろたえながらも竜崎の顔をマジマジと見つめはじめる光琉。間もなく「あっ!」と驚愕きょうがくの声を上げた。こと前世に関する限り、妹は俺よりもよほど物おぼえが良いのだ。

「あ、あんた、いえあなたは、星竜姫せいりゅうきヴァンゼガルド……さん! あなたもこっちの世界に、それも人間に転生していたの!? 隠れ住んでいた集落が"機関"の勇者におそわれて、同胞の竜人ドラゴニアたちと一緒に生命を落としたとはサリス様から聞いていたけど……」

「おー、こっちはちゃんと覚えてくれてたみたいやな。うれしいわー、さすが慈悲深さをって全人類の崇拝を集めるとまで言われとった聖女さまや。どっかの薄情な勇者とは大違いやで!」

 光琉に抱きついたまま俺の方へと首だけで振り向き、ジト目を投げかけてくる元魔王軍幹部。んなこと言われてもなあ。

「うち、あんたには本当に感謝しとんのや。人魔じんま戦役後、魔王軍にくみしたうちら竜人に安住の地を提供してくれたんはあんたとサリスはんやからな。聞いた話では、あんたがそうするようサリスはんを説得してくれたそうやないか」

 魔族と戦うことを使命とする聖女が、魔軍に参加した竜人たちを保護するよう勇者を説得した? ますますわけのわからん話になってきたぞ。にわかには信じがたいが……くそ、記憶がはっきりしないってのは何とももどかしいな!

「そんな、感謝だなんて。当たり前のことだよ、だって、」

 そこまで口にして、光琉はハッとしたように口をつぐんだ。横目でチラリと俺の方を見てくる。能天気な妹らしくもなく、翡翠色エメラルドグリーンの瞳は不安そうにかげっている。

 俺に聞かれてはまずいことを口にしようとした、そうとしか考えられない態度である。なんだ、何を隠している? そうもあからさまに韜晦とうかいされては、かえって気になるではないか。

「おい光琉、お前一体何を、」

「どうやら、緊急を要する事態は、去った、後のようね、ぜえぜえ……」

 俺の問いかけは、新たな来訪者の声にさえぎられた。

 振り向くと、奥杜おくもりかえでが樹々に挟まれた小路こみちに立って息を切らしている。我がクラスの謹厳実直な風紀委員どのが、こともあろうに授業を抜け出してここまで走ってきたらしい。珍しいこともあるものだ、明日は雨を通り越して竜巻たつまきでも発生したりしないだろうな?

 ……まあそれだけ、俺の身を案じてくれたということなのだろう。さすがに茶化したら悪いか。



【追記】

(※)……今年3月、ちょうどこの辺りのお話のプロットを立てていた頃に、鳥山明先生の訃報に接しました。
正直、いまだに実感がわきません。その名前は巨大すぎて、いなくなってしまわれたことが信じられないのです。

我々世代の男子にとって、『ドラゴンボール』はもはや生活の一部でした。〇王拳の真似をしたことがない同世代男子など、ひとりもいないに違いありません(いたらごめんなさい)。ジャンプで毎週読んでいて当たり前、「熱中している」とも意識しないままに熱中していた、そんな作品でした。

当然、創作の上でも多大な影響を受けています。受けざるを得ません、生活の一部だったのだから!
パロディの元ネタなどという表層的なものに留まらない、もっと根源的な部分にそれはガツンと喰い込んでいるように感じるのです。

すでに8月に入り遅きに失した感はありますが、それでもこの場を借りて一言お悔やみを申し上げたく思います。
鳥山明先生、心よりご冥福をお祈りいたします。
素晴らしい作品とそれにまつわるたくさんの思い出を、本当に本当にありがとうございました!


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