七不思議たちは餓死寸前

雪代

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その2 鏡の怪異

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「次はどこに行くの?」
 薫子の質問に、良寛は友達から貰ったメモを取り出す。
「ええと、2年生の教室の奥の鏡だよ」
「鏡?」
「うん。20秒間瞬きしないで見つめると、怖いものが見えるんだって」
「へえ、怖いものか」
 薫子は、しばらく何か考えていた。
「ねえ、ラヴクラフトって知ってる?」
「拓海おじさんが好きなやつでしょう?知ってるよ」
 そうね、と頷いて、薫子は持ってきたスリッパをぱかぱか鳴らす。
「20世紀初頭の怪奇作家である彼の作品には、様々な怪物が登場するの。よく描かれるのは、『偉大』であることへの恐怖。人間がどれほど束になっても敵うはずのない、いいえ、この地球になど収まりきらない宇宙的恐怖こそ至上であるとしたのよ」
 渡り廊下を抜ける。もうすぐ二年生の教室だ。
「宇宙的恐怖の前では誰もがひれ伏し発狂する。それを見た瞬間、あらゆる人間は人間でいられなくなるのよ。――ねえ、良寛」
「うん?」
「その鏡、何が映ると思う?」
 良寛は首をかしげた。
「そこまで言うなら、ラヴクラフトは超えてほしいねぇ」
 ここで恐怖したのは人間ではなく鏡の怪異だ。
『は、ハードルが……上がっている!!』
 手を震わせる鏡の怪異を、音楽室の怪異が励ます。
『大丈夫だ、大丈夫だ鏡の怪異!いざ見てみたら怯えるに決まっている!』
 いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん、と、意味の分からない言葉を口ずさみながら鏡の前に到着した二人は、良寛が取り出したスマートフォンにタイマーをセットする。
「いくよー、瞬き禁止ね。せーの!」
『いける、いけるぞ、私ならいける!』
 10、9、8、7。
 薫子はよくもっている。良寛はそろそろ辛そうだが、眉間に一生懸命しわを寄せていた。
 3、2、1、0。
『うぉおおおお!!!』
 鏡の怪異は全身全霊の力を振り絞って、二人の間に白い影を滑り込ませた。
「わっ」
 ほんの少し驚いたらしい良寛が、後ろを振り返る。
 そう、ここでいかに薄気味悪く笑いながら姿を消せるかもまた、腕の見せ所だ。
 ここ数年で一番の出来だったはずなのに、薫子から出たのはあまりに残酷な一言だった。
「……宇宙的恐怖」
 顔を見合わせた二人は、大盛りで頼んだご飯の量が思ったより少なかった時の顔をしていた。
『うばぁっ!!!』
『鏡の怪異―!!』
 ほんの少し不満げに、彼らは来た道を引き返す。
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