OH MY CRUSH !!

文月 七

文字の大きさ
91 / 135

しおりを挟む
 倖はといえば、ん、と軽く返事を返してそそくさと立ち上がりフェンスへと近寄っていく。俯いたりんの視界にもチラリとその様子が見える。どうしたのかと顔をあげれば、彼はいそいそと黒縁の眼鏡をかけようとしていた。
「あ、」
 そういえば、胸キュンシーンの原因となったのは眼鏡の争奪戦であった。唖然としているりんの目の前で、眼鏡は素早く倖の目に装着されてしまった。
「……いた、」
 倖が指差した方向は正門のほう。正門を出たらおそらく、いつも通り向かいの個人商店へと入っていくはずだ。
「……なぁ、お前さぁ、前に聞いたことあったよな。あの商店に買い物行ったことがあるかって。」
「へ?そう、でしたっけ?……えっと、」
 また慌てて誤魔化そうとするが、倖の視線からそれが既に手遅れであることを悟った。
 りんは観念して細く息を吐くと金網に近づき、真横で同じように金網にひっついている倖をチラリと見あげた。
「……もう、商店の中に入っていきました?」
 倖が驚いたようにりんを見て、頷いた。
「あぁ。……何?もう、誤魔化すの諦めたのか?」
「……諦めました。」
 倖は眼鏡を取るとりんに差し出し、金網に寄りかかって口を開いた。
「あれ、何?」
 直球で質問をぶつけてくる倖に、どう答えたものか、と視線を彷徨わす。
「何、と聞かれると正直困るんですが、ゆ、幽霊、なのかな?」
 たぶん、とりんは自信なさげに答える。
「……俺、幽霊視たの初めて。」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか。」
「ていうか、本当にあれ、幽霊なのか?」
「……たぶん。」
「なんださっきから。たぶんたぶん、て。」
「わ、わかんないですよ、自分が視てるあれが、本当はなんなのか、なんて、」
 りんはうろたえて俯いた。
「……幽霊的なものだとは思うんですけど。あ、倖くんが、おんなじものを視たってことは、幽霊てことで間違いないのかな?」
「いまいちよくわからんな。んー、お前がかけてる新しい眼鏡でも視えるのか?」
「……視えません。というより、」 
 倖から返された眼鏡を手の中でギュッと握りしめる。
 小学校高学年から使っている黒縁の眼鏡はあちこち傷もついているが、いつもりんを守ってくれた、大切なものだった。
「私がこの眼鏡をかけてるのは、ああいうのが視えないようにするためです。」
「……視るためじゃないのか?」
「あんなの視るための眼鏡なんて、わざわざかけませんよ。裸眼とか普通の眼鏡とかだと、ああいうのがそこら辺にチョコチョコと視えて、ちょっとキツいので。」
 倖は不思議そうにりんを見ながら、スイーツが散乱している場所に戻ると、よっこらせ、と座りこんだ。
「でも、俺、それかけたときに視えたぞ。」
「……なんででしょうね?正直、本当にわかりません。でも、私が眼鏡買い換えようと思ったのは、この眼鏡をかけていてもあれが視えるようになってしまったからです。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

おもいでにかわるまで

名波美奈
青春
失恋した時に読んで欲しい物語です。 高等専門学校が舞台の王道純愛青春ラブストーリーです。 第一章(主人公の水樹が入学するまで)と第二章(水樹が1年生から3年生まで)と第三章と第四章(4年生、5年生とその後)とで構成されています。主人公の女の子は同じですが、主に登場する男性が異なります。 主人公は水樹なのですが、それ以外の登場人物もよく登場します。 失恋して涙が止まらない時に、一緒に泣いてあげたいです。

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

処理中です...