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ルイキの休日、行き先はまさかの魔神狩り?
ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#12
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入口の扉を閉めたところでムメイさんは透明な布を外した。あちこちの様子を伺う。塔の壁中に張り巡らされた蔦のようなもの以外、特に変わったものはない。
塔の壁や床は石でできているようだった。地震大国の日本だったらすぐに壊れてそう。ここは異世界だし目立った天変地異も起きてないからその心配はなさそうだけど。
灯りのついた通路を進む。コツコツと二人分の靴音だけが響く。
「下調べ、多少とはいえしておいてよかったな。魔力がある状態で入ったらやばかった」
ムメイさんは蔦が絡んでいる壁を指差した。
「この辺りの壁にびっしり生えてる植物があるだろ?これはたぶん魔力の通る回路になっている。魔力の流れを感じるからな」
は?これが全部魔力の通り道だっていうのかよ。そこらじゅうの壁にびっしりの蔦、これが全部?塔の中の至るところに生えてるとしたら、体に例えたらまるでこの蔦は血管みたいだな。
「恐らく魔力を感知するとその回路から吸収して、この塔のどこかにいる魔神に供給される仕組みなんだろう。……ルイキ、頑丈に作られてるとはいえ絶対にこの手錠を外したり壊したりするなよ。私の魔力はこいつを目覚めさせるのに十分すぎるほどの量があるからな」
ムメイさんは手錠のついた手をぶらぶらと揺らして見せた。
そんなに重要な物だったの?!この手錠。ていうかムメイさんには魔神を目覚めさせるのに十分すぎるほどの魔力量があるのか。あってもおかしくないよな。転送魔法だの魔力を大量消費しそうな魔法でも、どんどん使いまくってるし。
手を引かれるまま進む。いつも通りのメイド服姿のムメイさんを見て改めて思う。魔力を感知されないようにするためとはいえ、手錠をつけるのが変身魔法を解いた後でよかったなあ。……だってそうだろ?手錠をつけたまま手を繋いだむさ苦しいおっさん二人で魔神狩りって、流行りの異世界転生もののラノベ路線で考えたら絵面的にどうなの?って感じだし。……でももしもこの世界がBL路線だったらそれがありえるのか。
ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#12
「待て」
「え?」
ムメイさんとぶつかる寸前で立ち止まった。いや、よそ見してた俺が悪いんだけど。
「なんか来るぞ」
なんか来る?
俺は目を凝らして通路の先を見た。……姿までははっきり見えていないけれど、奥の方からこちらに向かって近づいてくる何かが見える。しかも足音からして複数。
この通路は今のところ一方通行だ。奥にはもしかしたら何か部屋とか別の通路とかあるかもしれないけれど、先に何があるかわからない以上、リスクを負うくらいなら戻るか……もしくはこの場で応戦するしかないよな。
ゴクリと息を飲んだ。やってくる奴らがもしも敵なら、いよいよ異世界に来て初めての戦闘になる。でもここにはチート級に強いメイドがいる。しかもどんな武器よりも強い木の棒もある。今の俺たちならどんな奴らが来ても負ける気がしない。
俺は左手で木の棒を、右手でムメイさんの手を強く握りしめた。安全が確認できない以上、万が一の時に備えて手は繋いだままにしておくことになっている。
相手が何者なのかわからない限り、下手に手出しも出来ないし一瞬の油断が命取りになるかもしれない。ムメイさんはすぐに応戦出来るように、臨戦態勢をとっている。話しかけても声が届きそうにないほどのすごい集中力だった。
徐々に大きくなる足音。足音というよりは、何かを引きずって進む音と言った方が近いかもしれない。
塔の中のあちこちに咲いている光る花に照らされて、近づいてくる何かの姿がはっきり見えた。
「ヒッ」
いよいよ正体を現したモンスターを目の前に、俺は思わず後ずさった。あ、あれは荊でできたヘビ?塊のようなものが頭みたいに見えるけど。あれが塔を住処にしているモンスターであることには間違いなさそうだった。モンスターと戦うのは長けてるだろうし、戦うかどうかの判断はムメイさんに任せたほうがいいよな。
「ムメイさん。どんどん近づいて来てますけど、どうします?」
「……す」
「え?」
よく聞き取れなくてもう一度聞き返そうと前に一歩近づいた瞬間に見えたムメイさんの姿。強張った顔。わなわなと震える手。メイド服の袖の先から見える白い肌にびっしりと刻み込まれたサブイボ。そしてさっきよりも力強く踏み込まれた右足。
「もうムリ!!!全員!!!!殺すッ!!!!!」
ムメイさんのクレッシェンドしていく!マーク。勢いよく蹴り出された足。あっ、もしかしなくても蛇とかニョロニョロした物が苦手な人だったかあ……。
ムメイさんは奴らに向かってすごい勢いで走り出した。この人、百メートル走らせたらどれくらいのタイムが出るんだろう。
あまりの速さに追いつけず、俺は半分引きずられるような格好になっていた。飼い犬に引っ張られて散歩するタイプの飼い主を想像してみてほしい。今の俺はあんな感じだ。
「アアアアア!!!!キモい!!!!!」
ムメイさんは荊ヘビ(仮)の集団の前で踏み切ると、そのうち一匹の脳天目がけて木の棒を振り下ろした。
「ピギィィィイ!」
一ヒット。耳がキーンとするような悲鳴をあげ、モンスターが力無く項垂れていく。おお、さすが最強の木の棒。
でも武器がいくら最強だったとしても、俺はまだ勇者でもなんでもないただの屋敷の使用人であることは変わりなかった。ムメイさんと手錠で繋がれている以上、動きを合わせねばならない。頭ではわかっていても、体は思うようには動いてくれなかった。
「いってえ!」
ムメイさんが地面に着地した瞬間に俺のケツは勢いよく地面に叩きつけられた。
割れる!!潰れる!!
痛みで目に涙が浮かんだ。戦うどころじゃない。このままじゃ俺の身がもたない。ムメイさんと俺じゃ戦闘における経験値の差がありすぎる。
「ムメイさん!待って!待ッ……!」
踏み込まれた足。宙に浮かぶ俺の体。……バーサーカーと化したムメイさんに、俺の懇願する声など届くはずがなかった。
「わあああ!!!!」
ドカカカカカ!俺が握りしめていた木の棒がそこら辺にいた荊ヘビ(仮)の花枝にヒット。さすが戦闘経験値ゼロの俺でも火力が出せる最強の武器。
そんなことを思ったのも束の間。
ずさーッ!
床のタイルと膝の皮膚がぶつかり合って摩擦を起こす。熱い!焼ける!すり減る!俺の目には出来たばかりのすり傷の痛みでまた涙が浮かんだ。
武器じゃねえんだぞ?!ハンマー投げの要領で俺のことぶん回してやがって!そうでもなきゃ、荊ヘビ(仮)たちが俺たちを囲むように半円形にのけぞって倒れてるわけがない。
けれども、これで今出てきた集団の全てを倒したらしかった。次々に養分のようなものが壁の蔦に吸い取られては仰け反っている荊ヘビ(仮)たちが萎れていく。
ふう。これで次の奴らと出くわすまでは大丈夫そうだ。
地べたに這いつくばったまま枯れていく荊ヘビ(仮)を眺めていると、ムメイさんがブツブツと呟く声が聞こえてきた。
「今度出て来やがったら根絶やしにしてやる……!いや、いっそこのヘビの塔ごと燃やすか……?そうすればもう出てこなくなるよな?」
いやここ、ヘビの塔じゃなくて魔神の塔だったよな?ていうかあれやっぱりヘビだったんだ。
「ムメイさん。あれが苦手なのはわかりましたけど一旦落ち着きましょう?」
俺は出来る限りの微笑みを作って言った。体中擦り傷まみれにされたことに対する殺意レベルの感情は押し殺して。とりあえずいつまたあのヘビみたいなやつが出てくるかもわからないし、早急にムメイさんを宥めることから始めなければならない。このままだと塔を破壊し始めかねないしな。
「はぁ?」
ムメイさんはそんな俺の譲歩に譲歩を重ねた交渉なんかお構いなしに、俺のシャツの胸元を掴んだ。
「落ち着けるわけがあるか!あんないっぱいうじゃうじゃニョロニョロしたやつが出てきて……ああ、思い出しただけでも鳥肌と破壊衝動が」
わなわなと腕を震わせて今にも殴りかかりそうな勢いだけど、今あなたが掴んでるそれはヘビではなく休日返上してまであなたにここまで連れてこられた野間 類稀くんですからね!
「それなんですけど、出てきたヘビは倒しちゃダメです」
「なんで?」
ムメイさんはシャツのボタンがはち切れそうな勢いでギチギチと掴みかかった。何があったんだか知らないけどヘビに対する殺意がすごいな。
「俺はさっき、あのヘビを倒した時にヘビから出てきた養分のようなものをあの蔦が吸い取るところを見ました。もしもさっきのヘビが、魔神の養分にするために誘き寄せられた……もしくはこの城のどこかで生育されたヘビたちなのだとしたら、倒すたびに魔神へ魔力が供給されてしまいます。だから倒さずに進まないといけないんです」
そう。ムメイさんの言った通り、あの壁の蔦が魔力を吸収する回路なのであれば、ヘビから出た養分は魔力だったということが裏付けられる。倒せば倒すほど魔神の栄養分になってしまう。だからヘビを倒さないで進む必要がある。
「じゃあどうしろっていうわけ?!」
襟首掴まないでェ……首ィ、締まってる……。
「それなら……っ、こうっ、しましょう……」
俺はポケットから取り出したハンカチをムメイさんの目のあたりで一周させようとした。……手錠がついてる分つけづらいな。後頭部で留めるのは諦めて、横のあたりでたんこぶを作って結ぶことにした。
見えるから暴れるんだ。それなら見えなきゃいい。
ムメイさんはキョロキョロと辺りを見回した。
「確かにこれなら奴が来ても見えないけど……お前、また奴らが出てきた時どうするんだよ?倒さないにしても対処出来る勝算でもあるのか?」
うっ、確かにムメイさんが目隠し状態になるなら、この先は全部俺が対処しなきゃならなくなる。でも、あのヘビだけが相手なら俺にだってきっとどうにか出来るはず。
「勝算ならあります」
勝算はある。この先出てくるのがヘビだけなら。ただ、引っかかることもある。あのヘビがどこからやってきたのか。元々住み着いていたならわかる。
でももしも魔神を目覚めさせるのに必要な魔力を回収させるため、意図的にあのヘビを塔の中に用意してる奴がいるとしたら?
それも外には騎士団の見張りが二人いる。つまり、外から塔の中にヘビを入れるならあの二人の前を通る必要がある。……となると、あの二人もグルなのか、もしくはムメイさんのように手荒な真似を使って突破するか。
あとは塔の外から連れて来なくても、塔の中で増やしている可能性だってある。もしも後者なら、このまま塔を上がって行くとそいつらと遭遇するリスクもある。
だからといって、この話をムメイさんにするか?と言われるとあまり話す気にはなれなかった。だって話すにはまだ根拠が少なすぎる。
俺はムメイさんの手をとった。
不確かな事を話して余計な心配まで増やすのは避けたい。だから俺は、今ある確かな情報だけをムメイさんに話すことにする。
「今度奴らと出くわしたとしても、俺たちは戦わなくて大丈夫なんで」
塔の壁や床は石でできているようだった。地震大国の日本だったらすぐに壊れてそう。ここは異世界だし目立った天変地異も起きてないからその心配はなさそうだけど。
灯りのついた通路を進む。コツコツと二人分の靴音だけが響く。
「下調べ、多少とはいえしておいてよかったな。魔力がある状態で入ったらやばかった」
ムメイさんは蔦が絡んでいる壁を指差した。
「この辺りの壁にびっしり生えてる植物があるだろ?これはたぶん魔力の通る回路になっている。魔力の流れを感じるからな」
は?これが全部魔力の通り道だっていうのかよ。そこらじゅうの壁にびっしりの蔦、これが全部?塔の中の至るところに生えてるとしたら、体に例えたらまるでこの蔦は血管みたいだな。
「恐らく魔力を感知するとその回路から吸収して、この塔のどこかにいる魔神に供給される仕組みなんだろう。……ルイキ、頑丈に作られてるとはいえ絶対にこの手錠を外したり壊したりするなよ。私の魔力はこいつを目覚めさせるのに十分すぎるほどの量があるからな」
ムメイさんは手錠のついた手をぶらぶらと揺らして見せた。
そんなに重要な物だったの?!この手錠。ていうかムメイさんには魔神を目覚めさせるのに十分すぎるほどの魔力量があるのか。あってもおかしくないよな。転送魔法だの魔力を大量消費しそうな魔法でも、どんどん使いまくってるし。
手を引かれるまま進む。いつも通りのメイド服姿のムメイさんを見て改めて思う。魔力を感知されないようにするためとはいえ、手錠をつけるのが変身魔法を解いた後でよかったなあ。……だってそうだろ?手錠をつけたまま手を繋いだむさ苦しいおっさん二人で魔神狩りって、流行りの異世界転生もののラノベ路線で考えたら絵面的にどうなの?って感じだし。……でももしもこの世界がBL路線だったらそれがありえるのか。
ムメイさんはモブ以上にはなりたくない!#12
「待て」
「え?」
ムメイさんとぶつかる寸前で立ち止まった。いや、よそ見してた俺が悪いんだけど。
「なんか来るぞ」
なんか来る?
俺は目を凝らして通路の先を見た。……姿までははっきり見えていないけれど、奥の方からこちらに向かって近づいてくる何かが見える。しかも足音からして複数。
この通路は今のところ一方通行だ。奥にはもしかしたら何か部屋とか別の通路とかあるかもしれないけれど、先に何があるかわからない以上、リスクを負うくらいなら戻るか……もしくはこの場で応戦するしかないよな。
ゴクリと息を飲んだ。やってくる奴らがもしも敵なら、いよいよ異世界に来て初めての戦闘になる。でもここにはチート級に強いメイドがいる。しかもどんな武器よりも強い木の棒もある。今の俺たちならどんな奴らが来ても負ける気がしない。
俺は左手で木の棒を、右手でムメイさんの手を強く握りしめた。安全が確認できない以上、万が一の時に備えて手は繋いだままにしておくことになっている。
相手が何者なのかわからない限り、下手に手出しも出来ないし一瞬の油断が命取りになるかもしれない。ムメイさんはすぐに応戦出来るように、臨戦態勢をとっている。話しかけても声が届きそうにないほどのすごい集中力だった。
徐々に大きくなる足音。足音というよりは、何かを引きずって進む音と言った方が近いかもしれない。
塔の中のあちこちに咲いている光る花に照らされて、近づいてくる何かの姿がはっきり見えた。
「ヒッ」
いよいよ正体を現したモンスターを目の前に、俺は思わず後ずさった。あ、あれは荊でできたヘビ?塊のようなものが頭みたいに見えるけど。あれが塔を住処にしているモンスターであることには間違いなさそうだった。モンスターと戦うのは長けてるだろうし、戦うかどうかの判断はムメイさんに任せたほうがいいよな。
「ムメイさん。どんどん近づいて来てますけど、どうします?」
「……す」
「え?」
よく聞き取れなくてもう一度聞き返そうと前に一歩近づいた瞬間に見えたムメイさんの姿。強張った顔。わなわなと震える手。メイド服の袖の先から見える白い肌にびっしりと刻み込まれたサブイボ。そしてさっきよりも力強く踏み込まれた右足。
「もうムリ!!!全員!!!!殺すッ!!!!!」
ムメイさんのクレッシェンドしていく!マーク。勢いよく蹴り出された足。あっ、もしかしなくても蛇とかニョロニョロした物が苦手な人だったかあ……。
ムメイさんは奴らに向かってすごい勢いで走り出した。この人、百メートル走らせたらどれくらいのタイムが出るんだろう。
あまりの速さに追いつけず、俺は半分引きずられるような格好になっていた。飼い犬に引っ張られて散歩するタイプの飼い主を想像してみてほしい。今の俺はあんな感じだ。
「アアアアア!!!!キモい!!!!!」
ムメイさんは荊ヘビ(仮)の集団の前で踏み切ると、そのうち一匹の脳天目がけて木の棒を振り下ろした。
「ピギィィィイ!」
一ヒット。耳がキーンとするような悲鳴をあげ、モンスターが力無く項垂れていく。おお、さすが最強の木の棒。
でも武器がいくら最強だったとしても、俺はまだ勇者でもなんでもないただの屋敷の使用人であることは変わりなかった。ムメイさんと手錠で繋がれている以上、動きを合わせねばならない。頭ではわかっていても、体は思うようには動いてくれなかった。
「いってえ!」
ムメイさんが地面に着地した瞬間に俺のケツは勢いよく地面に叩きつけられた。
割れる!!潰れる!!
痛みで目に涙が浮かんだ。戦うどころじゃない。このままじゃ俺の身がもたない。ムメイさんと俺じゃ戦闘における経験値の差がありすぎる。
「ムメイさん!待って!待ッ……!」
踏み込まれた足。宙に浮かぶ俺の体。……バーサーカーと化したムメイさんに、俺の懇願する声など届くはずがなかった。
「わあああ!!!!」
ドカカカカカ!俺が握りしめていた木の棒がそこら辺にいた荊ヘビ(仮)の花枝にヒット。さすが戦闘経験値ゼロの俺でも火力が出せる最強の武器。
そんなことを思ったのも束の間。
ずさーッ!
床のタイルと膝の皮膚がぶつかり合って摩擦を起こす。熱い!焼ける!すり減る!俺の目には出来たばかりのすり傷の痛みでまた涙が浮かんだ。
武器じゃねえんだぞ?!ハンマー投げの要領で俺のことぶん回してやがって!そうでもなきゃ、荊ヘビ(仮)たちが俺たちを囲むように半円形にのけぞって倒れてるわけがない。
けれども、これで今出てきた集団の全てを倒したらしかった。次々に養分のようなものが壁の蔦に吸い取られては仰け反っている荊ヘビ(仮)たちが萎れていく。
ふう。これで次の奴らと出くわすまでは大丈夫そうだ。
地べたに這いつくばったまま枯れていく荊ヘビ(仮)を眺めていると、ムメイさんがブツブツと呟く声が聞こえてきた。
「今度出て来やがったら根絶やしにしてやる……!いや、いっそこのヘビの塔ごと燃やすか……?そうすればもう出てこなくなるよな?」
いやここ、ヘビの塔じゃなくて魔神の塔だったよな?ていうかあれやっぱりヘビだったんだ。
「ムメイさん。あれが苦手なのはわかりましたけど一旦落ち着きましょう?」
俺は出来る限りの微笑みを作って言った。体中擦り傷まみれにされたことに対する殺意レベルの感情は押し殺して。とりあえずいつまたあのヘビみたいなやつが出てくるかもわからないし、早急にムメイさんを宥めることから始めなければならない。このままだと塔を破壊し始めかねないしな。
「はぁ?」
ムメイさんはそんな俺の譲歩に譲歩を重ねた交渉なんかお構いなしに、俺のシャツの胸元を掴んだ。
「落ち着けるわけがあるか!あんないっぱいうじゃうじゃニョロニョロしたやつが出てきて……ああ、思い出しただけでも鳥肌と破壊衝動が」
わなわなと腕を震わせて今にも殴りかかりそうな勢いだけど、今あなたが掴んでるそれはヘビではなく休日返上してまであなたにここまで連れてこられた野間 類稀くんですからね!
「それなんですけど、出てきたヘビは倒しちゃダメです」
「なんで?」
ムメイさんはシャツのボタンがはち切れそうな勢いでギチギチと掴みかかった。何があったんだか知らないけどヘビに対する殺意がすごいな。
「俺はさっき、あのヘビを倒した時にヘビから出てきた養分のようなものをあの蔦が吸い取るところを見ました。もしもさっきのヘビが、魔神の養分にするために誘き寄せられた……もしくはこの城のどこかで生育されたヘビたちなのだとしたら、倒すたびに魔神へ魔力が供給されてしまいます。だから倒さずに進まないといけないんです」
そう。ムメイさんの言った通り、あの壁の蔦が魔力を吸収する回路なのであれば、ヘビから出た養分は魔力だったということが裏付けられる。倒せば倒すほど魔神の栄養分になってしまう。だからヘビを倒さないで進む必要がある。
「じゃあどうしろっていうわけ?!」
襟首掴まないでェ……首ィ、締まってる……。
「それなら……っ、こうっ、しましょう……」
俺はポケットから取り出したハンカチをムメイさんの目のあたりで一周させようとした。……手錠がついてる分つけづらいな。後頭部で留めるのは諦めて、横のあたりでたんこぶを作って結ぶことにした。
見えるから暴れるんだ。それなら見えなきゃいい。
ムメイさんはキョロキョロと辺りを見回した。
「確かにこれなら奴が来ても見えないけど……お前、また奴らが出てきた時どうするんだよ?倒さないにしても対処出来る勝算でもあるのか?」
うっ、確かにムメイさんが目隠し状態になるなら、この先は全部俺が対処しなきゃならなくなる。でも、あのヘビだけが相手なら俺にだってきっとどうにか出来るはず。
「勝算ならあります」
勝算はある。この先出てくるのがヘビだけなら。ただ、引っかかることもある。あのヘビがどこからやってきたのか。元々住み着いていたならわかる。
でももしも魔神を目覚めさせるのに必要な魔力を回収させるため、意図的にあのヘビを塔の中に用意してる奴がいるとしたら?
それも外には騎士団の見張りが二人いる。つまり、外から塔の中にヘビを入れるならあの二人の前を通る必要がある。……となると、あの二人もグルなのか、もしくはムメイさんのように手荒な真似を使って突破するか。
あとは塔の外から連れて来なくても、塔の中で増やしている可能性だってある。もしも後者なら、このまま塔を上がって行くとそいつらと遭遇するリスクもある。
だからといって、この話をムメイさんにするか?と言われるとあまり話す気にはなれなかった。だって話すにはまだ根拠が少なすぎる。
俺はムメイさんの手をとった。
不確かな事を話して余計な心配まで増やすのは避けたい。だから俺は、今ある確かな情報だけをムメイさんに話すことにする。
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