グローリー

城華兄 京矢

文字の大きさ
14 / 27

第14話

しおりを挟む

  「ちぇ!誘っておいて、負けそうになったら逃げか?それに何で俺だけ、別館なんだよ!」
  ザインはグチりながら、薄暗くなった長い廊下を、靴の音を響かせながら歩く。別館は廊下で繋がっているため、表に出なければならない面倒くささは無いが、広い屋敷なので、兎に角距離が長い。そして、漸く別館の指定の部屋の前に着く。廊下には扉が転々と並んでいるため、一部屋の広さは、何となく想像がつく。広いことは間違いない。
  無造作に扉を開くと、きちんと明かりがともされている。手に持っている蝋燭で、明かりを灯す必要は、無さそうだ。
  「気がきいてんな。に、しても、広すぎて落ち着けねぇな」
  別室といえども、部屋の中にいくつか扉がある。間取りは、一寸した家くらいはありそうだ。ただキッチンがないため、部屋だと言い切れるだろう。
  寝室を探し始めるザイン。まず覗いた部屋はトイレだった。
  「誰かいるのか!」
  その時に、緊迫感のあるアインリッヒの声が聞こえる。何故かおどおどとし始めるザインだった。後ろを向くが誰もいない。気のせいなのか?そう思った瞬間、身を整えたアインリッヒが、三つある扉の一つから姿を表す。
  「なんで?!あれ?俺部屋を間違えたかなぁ、ゴメン」
  ザインは、メモを見ながら、己の辿った経路を思い出すが、間違った気配はない。だが、アインリッヒがいるのだ。仕方が無く他の部屋を、探しに行こうと、入り口に向かい始める。その仕草が、かなりぎこちない。
  「ひょっとしたら、私が間違っているのかも……」
  互いに示し合わせ、部屋を共にするならともかく、間違いで同じ部屋にいるのは、どうもばつが悪くなった。彼女も、テーブルの上に乗ってあるメモを取り、確認をするが、どうも間違っている気配はない。
  「ユリカ……」
  「ああ」
  互いのメモを見せあう。そして、照らし合わせる=
  「同じだ」と、ザイン。
  「ああ、同じだな」アインリッヒが復唱する。
  その時、ザインには、強引なやり口のロン、不自然に皆一斉に部屋を去った事実、遠回りなメモ、離れた寝室。何時裏をあわせたのかは知らないが、手の込んだやり方だ。
  「なら、無理に部屋を換える必要は、無いだろう?」
  背を向けたアインリッヒだった。唐突なので、あの時のように感情に任せきれない。だが、その言い方は、遠回りで積極的だった。
  実はザインも、可成り照れくさかった。遊びと割り切っている分には、乗りで女を抱くこともできる。だが、今回は勝手が違う。彼女を抱きたいが、それがただの衝動でないことは、今自分が躊躇っていることで、もう十分解っている。では、本気なのかと訊かれると、出逢って四日。あの時、よく無責任に彼女を抱こうとすることが出来たものだと、ゾッとする。
  「なぁ、男ってなぁ、別に尊敬とか、信頼とか、愛とかが無くても、女を抱けるんだぜ」
  振り返って、背を向け、間を繋ぐために出た言葉が、そんなとんでもない発言だった。もう一度振り向き、声を妙に浮つかせながら、あまたを掻きむしりながら、愛想笑いを浮かべている。腰はすっかり逃げていた。後退りしてドアに向かっているような錯覚を、自分で感じた。
  しかし、背中を向けつつも、視界ぎりぎりにザインを捉えているアインリッヒは彼の行動と言動の矛盾にすぐに気がつく。気にしていなければ、力ずくにでも自分を奪っても、不思議はないと思った。現に父は、そうして女中を抱いている。
  道徳観と己の気持ちの板挟みになり、困った笑いを浮かべているザインが可愛く見える。では、自分はどうなのだろうか、アインリッヒは心に問う。唯一自分を女として見る事を許した男性が、こうして目の前にいる。先日は、邪魔が入った。今はどうか。「抱かれたいのか?」。ただ抱かれたくはない。あの時は過去の傷という共感があった。普段平然と生きている彼も、その傷を未だ克服しきれていない。何かの罪悪感に苛まれているのは、自分だけではない。彼は己を憎みながらも、その事を自分に教えてくれた。あの時は、それを一つにして、互いの痛みを、分かち合おうとしただけにすぎなかったのではないか。それだけならば、同情であり、愛ではない。
  「ユリカは、私を抱きたいのか?」
  ストレートな問いかけだ。振り向き、一歩前に進み出したアインリッヒが、彼の嘘のない答えを求めている。
  ザインの笑いが止まった。
  自分自身を誤魔化し、良くも悪くも逃げることの出来る形を作ろうとしていた事に気がついたのだ。男性自身の性に責任を押しつけ、己を庇い、もし拒まれても、そのまま笑って去ることが出来るように。
  「抱きたい」
  ザインは、彼女を抱きしめると同時に、声を掠れさせ、彼女の耳元でそっとささやく。それが彼自信の本当の答えだった。
  「なら、どうして奪わない?」
  また問う。
  「お前を、傷つけたくない」
  それも真実だった。だが、「抱きたい」と、そのあまりに己に正直すぎる言葉が、彼の理性の箍をを外す。呼吸が荒くなり、彼女の頬にしきりにキスをするザイン。
  ザインにとってそれが明確な愛でない事は、アインリッヒにも解る。言葉巧みな「愛」は、通用しない。だが、彼に求められていることが、苦痛であるかと、己に問いかけると、それは「NO」と、返ってくる。
  「私もお前に抱かれたい」
  そのころには、ザインは既に彼女の上半身を外界に曝し、背を強く抱きしめ、自分のほうへを引き寄せ、その唇から肩口を、幾度も唇で撫でていた。
  「はぁ……」
  ザインの唇が彼女の胸方に走らせた時だった。アインリッヒは、大きく背を逸らし彼の頭をそっと両手の中に包み込んだ。気が狂うほどの心地よさが、彼女を襲う。
  「足に、力が……」
  アインリッヒは、懸命に砕けそうな腰を立たせようとしている。
  「大丈夫」
  そう言ったザインが、アインリッヒの肌を唇で撫でながら、彼女の太股辺りを抱き、グイッと持ち上げる。アインリッヒは、無理なく胸元へ来たザインの頭を、両腕で包み込んみ、その奥から、破裂しそうな激しい動悸を彼に伝えた。
  「ベッドへ……行こう」
  「いいとも」
  ザインは、このまま乱れあうことを考えた。だが、アインリッヒがベッドを望む。そこへ辿り着くには、三十秒も掛からないだろう。その時間が過ぎゆくのがザインには、遅くも早くも感じられたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...