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僕のミューズ
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「また来たの?」
しっかりと目線を僕に合わせてくる。湿気で鬱々としていた気分が、彼の顔をみた瞬間霧散する。
彼は冷たい言葉を薄い唇から言い放ちながらも、部屋に入ると甲斐甲斐しく上着を受け取り、丁寧にハンガーにかけてくれる。そんなところに優しさを感じ、胸がきゅっとなった。脱いだ靴を揃える為、後ろを向きしゃがみ込む彼を、何度後ろから抱きしめたいと思った事だろう。
「ほら、座って」
肩を落としながらの言葉に従って、固めのベッドに腰を降ろすと、彼は向かい合う形で膝をつく。見下ろされる事の多い彼のつむじを、この時ばかりは見下ろせる。幸運な気分になった。
「ん」
あごで指示された通り片足をあげると、するすると薄い靴下を脱がされていく。外は少し雨が降っていて、靴の中は蒸れていた。少し恥ずかしいが、裸足になった解放感で足の指を動かしていると、すぐ側からため息が聞こえてきた。顔を寄せてきた彼の生暖かい吐息が耳にかかって、少し擽ったい。
「今日は、どうするの?」
言い終え、立ち上がった彼が腕を組んで見下ろしている。やはり、美人に見下ろされるのは良いもんだ。
アイドルの連中が、よく可愛いからと上目遣いの写真を取るけれど、性的対象には見下ろされた方が興奮する質の自分からすれば、そんな行いは愚の骨頂だ。
ツンとした唇から放たれる、突き放した言葉。健康的だが日焼けしすぎていない肌。長い手足は指の先までもケアが行き届いていて滑らかで、触れられるだけで喜びが体を駆け巡る。そう、ヒールを履いて見下ろしてくる彼こそが、凌太凌太りょうたのミューズ――セナくんだ。
「ほら、返事は?りょーちん」
名前を呼ばれて自分がトリップしていた事に気付く。彼の魅力を倍増させている右目の下にある泣きぼくろが、不機嫌に歪んだかと思った瞬間、細い指に顎を掴まれた。
「――がッ……っ!?」
「無視しないの」
目じりが少し垂れたチャーミングな瞳が間近にあって、瞬時に胸が高鳴りを始める。なんとか返事をしようと開きかけた唇に、彼の舌が捻じ込まれた。
「――ンっ、ふ……っ」
「シカトする悪い子には、しっかりお仕置きしてあげなくちゃね」
長く凌太の呼吸を奪い妖艶に笑うセナは、そのまま丁寧に服を脱がし始めた。首まで詰まった襟のボタンをゆっくりと微笑みながら解いていく姿は、それだけで胸を詰まらせる。
「セ、セナくんに服を脱がせて貰うだけで、心がぽかぽかしてくるよ」
少しでも彼に気に入られたくて、選び出した凌太の言葉だったけれど、軽く笑っていなされてしまう。セナはいつだって凌太の愛情を素直に受け取ってくれないのだ。
「りょーちんがぽかぽか熱いのは、心じゃなくて……ココでしょ?」
座っている凌太の膝の上に腰を降ろすと、下腹部を撫であげるような手つき。すでにズボンの中で欲望がむくむくと起きあがって来ている事なんて、セナにはお見通しのようだ。全くお恥ずかしい事に、心では純愛なのだけれど、ある程度の年齢を経た今の凌太にとって、愛とは性欲と混在するものなのだから仕方がない。これも一つの素直な感情表現だ。
出来るならセナとは、キャストと客以外の関係になりたいという思いを抱えたまま、今日も凌太はセナの手のひらの上で転がされるように、愛撫を受け、完全受け身の喜びを味わった。
しっかりと目線を僕に合わせてくる。湿気で鬱々としていた気分が、彼の顔をみた瞬間霧散する。
彼は冷たい言葉を薄い唇から言い放ちながらも、部屋に入ると甲斐甲斐しく上着を受け取り、丁寧にハンガーにかけてくれる。そんなところに優しさを感じ、胸がきゅっとなった。脱いだ靴を揃える為、後ろを向きしゃがみ込む彼を、何度後ろから抱きしめたいと思った事だろう。
「ほら、座って」
肩を落としながらの言葉に従って、固めのベッドに腰を降ろすと、彼は向かい合う形で膝をつく。見下ろされる事の多い彼のつむじを、この時ばかりは見下ろせる。幸運な気分になった。
「ん」
あごで指示された通り片足をあげると、するすると薄い靴下を脱がされていく。外は少し雨が降っていて、靴の中は蒸れていた。少し恥ずかしいが、裸足になった解放感で足の指を動かしていると、すぐ側からため息が聞こえてきた。顔を寄せてきた彼の生暖かい吐息が耳にかかって、少し擽ったい。
「今日は、どうするの?」
言い終え、立ち上がった彼が腕を組んで見下ろしている。やはり、美人に見下ろされるのは良いもんだ。
アイドルの連中が、よく可愛いからと上目遣いの写真を取るけれど、性的対象には見下ろされた方が興奮する質の自分からすれば、そんな行いは愚の骨頂だ。
ツンとした唇から放たれる、突き放した言葉。健康的だが日焼けしすぎていない肌。長い手足は指の先までもケアが行き届いていて滑らかで、触れられるだけで喜びが体を駆け巡る。そう、ヒールを履いて見下ろしてくる彼こそが、凌太凌太りょうたのミューズ――セナくんだ。
「ほら、返事は?りょーちん」
名前を呼ばれて自分がトリップしていた事に気付く。彼の魅力を倍増させている右目の下にある泣きぼくろが、不機嫌に歪んだかと思った瞬間、細い指に顎を掴まれた。
「――がッ……っ!?」
「無視しないの」
目じりが少し垂れたチャーミングな瞳が間近にあって、瞬時に胸が高鳴りを始める。なんとか返事をしようと開きかけた唇に、彼の舌が捻じ込まれた。
「――ンっ、ふ……っ」
「シカトする悪い子には、しっかりお仕置きしてあげなくちゃね」
長く凌太の呼吸を奪い妖艶に笑うセナは、そのまま丁寧に服を脱がし始めた。首まで詰まった襟のボタンをゆっくりと微笑みながら解いていく姿は、それだけで胸を詰まらせる。
「セ、セナくんに服を脱がせて貰うだけで、心がぽかぽかしてくるよ」
少しでも彼に気に入られたくて、選び出した凌太の言葉だったけれど、軽く笑っていなされてしまう。セナはいつだって凌太の愛情を素直に受け取ってくれないのだ。
「りょーちんがぽかぽか熱いのは、心じゃなくて……ココでしょ?」
座っている凌太の膝の上に腰を降ろすと、下腹部を撫であげるような手つき。すでにズボンの中で欲望がむくむくと起きあがって来ている事なんて、セナにはお見通しのようだ。全くお恥ずかしい事に、心では純愛なのだけれど、ある程度の年齢を経た今の凌太にとって、愛とは性欲と混在するものなのだから仕方がない。これも一つの素直な感情表現だ。
出来るならセナとは、キャストと客以外の関係になりたいという思いを抱えたまま、今日も凌太はセナの手のひらの上で転がされるように、愛撫を受け、完全受け身の喜びを味わった。
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