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焼き肉と酒

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 夢のような出来事を思い出しながら、街灯がキラキラ光らせているアスファルトを踏みしめる。

 メイン道路を少し進めば夜とは思えないくらいネオンが眩しい繁華街があるが、今日は逆方向へと向かってみる事にした。

 店の行き帰りに、風向きによってとても美味しそうな匂いが漂って来る事があって、匂いの元が気になっていた凌太は、セナと過ごした興奮を抱えたまま家に帰る気分にはなれず、とにかく匂いのする方へと歩いて行った。

 しばらく進むと、細い路地を抜けた先にホルモンを主体とした焼肉店がある事を発見した。

 深夜12時を回っているというのに、小さな焼肉店はかなり繁盛していて、ドアの隙間から中を覗くと満席状態だった。

 覗いた時に、頭にバンダナを巻いた店主らしきスタッフと目が合って、肉を捌いているのが似合う筋肉質な店主は、申し訳なさそうにドアを開けてくれた。身の引き締まったマッチョ系の男に内心ビビりながらも席が無いか聞くと「外の簡易テーブルなら」と言われ、特にこだわりの無い凌太は言われるがまま、そこに着席した。

 キャンプで使うような布張りの椅子と、丸い木製のテーブルというシンプルな座席には肉を焼く設備も無く、どうするのだろうと案じながらもとりあえずオーダーして待って見る事にした。しばらくすると先ほどの店主が、良い塩梅に焼かれた肉が乗った皿を運んできてくれた。

 頼んでいたビールと共に口の中にほおりこむと、なるほど人気店なのが分かる美味しさだ。自分で焼くというアクティビティ要素は無いが、焦がしてしまう心配もないこの外の席は、店主が申し訳なさそうにする程悪いものにも思えない。

 目隠しの様に置かれている植え込みの間からちらちらと見える、前の通りを歩く人の目線が少々痛いが、まあ致し方ないだろう。

 もぎゅ、もぎゅと噛み応えのある肉をかみしめながら、肉を噛む感覚へ集中してみる。

 セナはたまにだが凌太の肉体を甘噛みというにはやや痛みが強い噛み方で、食んでくるのだ。痛みを伴った後、その部位は敏感になるというのはセナ談。実際そうなのか、セナによる暗示なのかは判断が付かないが、確かにセナに食まれた後、優しく舐められるといつもより快感が増している気はするのだ。

 今日のプレイを反芻しているうちに、また下腹部へと熱が集まってくる。ふと、セックスしてはいけない空間でセックス(?)出来たというのはすごい事なのではないだろうかと、自分を褒めたい気持ちになった。

 さらに連絡先まで交換してしまえるなんて――。

 と、にやにやと取り出したスマートフォンに未読通知が着ている事に気付いた。こんな深夜に誰だろうと画面をタップすると、なんと先ほどまで一緒にいたセナからだった。

『もう帰った?』

 送られてきた時間を見ると、店を終えてすぐに連絡をくれたのだろうが、浮かれていて気が付かなかった。

『まだです。お店近くの焼肉屋にいます』

 すぐに返信を打ち、ビールを流し込むと、また通知が来た。もしやという期待を込めて返事を開いたが、

『もうちょっと早く返事くれたらセナも行ったのに!またね!』

 期待通りには行かない。

「マジかー」

 全身を脱力させて椅子に体重を預ける。簡易的な椅子が音を立てるのを聞きながら空を見上げると、輪郭がくっきりとした月が見下ろしていて、満月でも三日月でもない中途半端な月の形がとても美しく見えた。

 しばらく返信に悩みながらも、また来週お願いしますとだけ打ち込んで、もやもやした気持ちと共に肉とビールをかっ込んだのだった。
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