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八岐大蛇と酒呑童子
八岐大蛇と酒呑童子1
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「――鬼は反省して、村人たちと一緒に仲良く暮らしました。めでたしめでたし。――って桃太郎って最後鬼が懲らしめられて終わるんじゃないんだね。ママが昔読んでた時は懲らしめられて終わったのになぁ……ね、初音ちゃん」
目をきょろきょろさせる愛娘の頬を愛おしく撫でていると、玄関のドアが開いて夫の綱一が帰って来た。
酒を飲んで来たのが分かる風体にため息が出る。
「……ねえ、初音の貯金箱の中身触った?」
可愛い猫の貯金箱は、奈々が子供のころから使っていた思い出の品だ。初音が生まれてからは初音貯金として、たまに五百円玉を入れるようにしていた。
その中身の量が、記憶と合わないと感じるのはこれで三度目だ。
「はあ?しらねーって、勘違いじゃね?てか、まずおかえりなさいだろ?」
初音の父親である綱一(こういち)は、頭をかきながらスマホでゲームをしている。昨晩だって、飲んで帰って来たこの男は現在無職だ。とぼけられてしまうと、それ以上追求しても無駄だ。
「そろそろ仕事始めたら?初音のお金だってかかるし……」
「うるせーなぁ、腕がいてぇっていってるだろ?!」
綱一は仕事で腕を怪我していた。しかし、怪我をしたのは一年も前だ。怪我で降りた保険のお金が切れるころ、何も言わず会社を辞めてしまった。
「オレは餌やるので忙しいっつってんだろ?金金言うならお前が働けばいいじゃんか」
餌をやる相手は初音を妊娠してから知人から貰って来た、蛇だ。
にゅるんとした手足のない体は、ひんやりしている。どうしてか、綱一からの餌しか食べない。初音を妊娠してから綱一からお酒の匂いが消えなくなった。家にいても、蛇と話ながら酒を飲んだ。家にいるのなら、家事を手伝ってほしいのに、そのお願いをするのも疲れてきた。
「じゃあその間初音どうするの?綱一が見れるの?」
「やるかよ、そんな事。保育園とか預ければいいだろ」
優しかった彼と同じ顔なのに、優しい言葉をくれたあの口で今は酷く当たってくる。
そもそも保育園の申し込みはもう終わっているのに、
「仕事辞めていいって言ったの綱一なのに」
大学卒業後、新入社員として働いていた会社を辞めたのは綱一が専業主婦の奥さんが欲しいなんて言ったから。
結婚式も豪華な式をすると約束してくれていたが、実行する気配もない。今は十畳ワンルームに親子三人で暮らしている。
「また働けばいいじゃんって言ってあげてるだけでしょ?わかんねーの?金無いなら働けばいいんだよ。ほら、良い求人探しといてやったからさ」
Lineでいくつもの求人ページが送られてきた。どれもこれも、女のコの写真がある。
「いやこれ風俗じゃん」
「女は良いよなぁ、高収入の仕事いっぱいあってさ。まずは軽めの奴選んどいてあげたから。あ、奈々母乳出るから母乳風俗も働けると思うんだけど、どう?」
「ありえないでしょ!?」
「実際働いてる人もいるのにその言い方差別じゃねー?女ってこわー」
「そんなつもりは……!」
「はぁ子供産んだだけでえらそーだよなオマエ。世の中にはシングルマザーがいるんだから、俺がいるオマエは幸せだと思えよ?だるいから飲んでくるわ」
ぐしゃぐしゃの煙草をポケットに入れて、綱一は部屋を出ていってしまった。
新卒で入った中小企業は悪くなかったが、昔気質の会社だった。結婚した女性社員は辞めるという無言の圧力もあり、悩んでいたところに綱一が辞めて欲しいと言ってくれたのは正直有難かったのだけれど、あそこで踏みとどまって働き続けていたら今の苦しみは無かったのかもしれない。
銀行の貯蓄額も目減りして、初音に可愛い服やおもちゃもかってあげられないかもしれない。そんな不安が胸をざわつかせる。新婚だというのに甘い空気も優しい空気も一切無く、初音も自分の都合がいい時しか構わない夫はいなくても良いんじゃないか。でも、優しかったころの綱一の姿をまだ心が覚えてしまっている。
苛立ちながらも、泣き始めた初音に母乳を与えながら、奈々は片手で求人ページを検索し始めた。
目をきょろきょろさせる愛娘の頬を愛おしく撫でていると、玄関のドアが開いて夫の綱一が帰って来た。
酒を飲んで来たのが分かる風体にため息が出る。
「……ねえ、初音の貯金箱の中身触った?」
可愛い猫の貯金箱は、奈々が子供のころから使っていた思い出の品だ。初音が生まれてからは初音貯金として、たまに五百円玉を入れるようにしていた。
その中身の量が、記憶と合わないと感じるのはこれで三度目だ。
「はあ?しらねーって、勘違いじゃね?てか、まずおかえりなさいだろ?」
初音の父親である綱一(こういち)は、頭をかきながらスマホでゲームをしている。昨晩だって、飲んで帰って来たこの男は現在無職だ。とぼけられてしまうと、それ以上追求しても無駄だ。
「そろそろ仕事始めたら?初音のお金だってかかるし……」
「うるせーなぁ、腕がいてぇっていってるだろ?!」
綱一は仕事で腕を怪我していた。しかし、怪我をしたのは一年も前だ。怪我で降りた保険のお金が切れるころ、何も言わず会社を辞めてしまった。
「オレは餌やるので忙しいっつってんだろ?金金言うならお前が働けばいいじゃんか」
餌をやる相手は初音を妊娠してから知人から貰って来た、蛇だ。
にゅるんとした手足のない体は、ひんやりしている。どうしてか、綱一からの餌しか食べない。初音を妊娠してから綱一からお酒の匂いが消えなくなった。家にいても、蛇と話ながら酒を飲んだ。家にいるのなら、家事を手伝ってほしいのに、そのお願いをするのも疲れてきた。
「じゃあその間初音どうするの?綱一が見れるの?」
「やるかよ、そんな事。保育園とか預ければいいだろ」
優しかった彼と同じ顔なのに、優しい言葉をくれたあの口で今は酷く当たってくる。
そもそも保育園の申し込みはもう終わっているのに、
「仕事辞めていいって言ったの綱一なのに」
大学卒業後、新入社員として働いていた会社を辞めたのは綱一が専業主婦の奥さんが欲しいなんて言ったから。
結婚式も豪華な式をすると約束してくれていたが、実行する気配もない。今は十畳ワンルームに親子三人で暮らしている。
「また働けばいいじゃんって言ってあげてるだけでしょ?わかんねーの?金無いなら働けばいいんだよ。ほら、良い求人探しといてやったからさ」
Lineでいくつもの求人ページが送られてきた。どれもこれも、女のコの写真がある。
「いやこれ風俗じゃん」
「女は良いよなぁ、高収入の仕事いっぱいあってさ。まずは軽めの奴選んどいてあげたから。あ、奈々母乳出るから母乳風俗も働けると思うんだけど、どう?」
「ありえないでしょ!?」
「実際働いてる人もいるのにその言い方差別じゃねー?女ってこわー」
「そんなつもりは……!」
「はぁ子供産んだだけでえらそーだよなオマエ。世の中にはシングルマザーがいるんだから、俺がいるオマエは幸せだと思えよ?だるいから飲んでくるわ」
ぐしゃぐしゃの煙草をポケットに入れて、綱一は部屋を出ていってしまった。
新卒で入った中小企業は悪くなかったが、昔気質の会社だった。結婚した女性社員は辞めるという無言の圧力もあり、悩んでいたところに綱一が辞めて欲しいと言ってくれたのは正直有難かったのだけれど、あそこで踏みとどまって働き続けていたら今の苦しみは無かったのかもしれない。
銀行の貯蓄額も目減りして、初音に可愛い服やおもちゃもかってあげられないかもしれない。そんな不安が胸をざわつかせる。新婚だというのに甘い空気も優しい空気も一切無く、初音も自分の都合がいい時しか構わない夫はいなくても良いんじゃないか。でも、優しかったころの綱一の姿をまだ心が覚えてしまっている。
苛立ちながらも、泣き始めた初音に母乳を与えながら、奈々は片手で求人ページを検索し始めた。
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