上 下
2 / 35
告げられる合否

アデリアと母

しおりを挟む
  平民街の中でも貧民街に近い所に住む少女は、苦境から這い上がるようなガッツを持ち合わせてはいなかった。勉強も疎かで、家の手伝いも気が向いた時しかしない。流されるように楽な方へ進み、貧民街のザックス達と遊ぶ日々を送っていた。
「あんた帰ってたの?」
「久しぶりに会う娘への第一声がそれなの?」
 母親の言葉に反発するように目を釣り上げたアデリアは、自分の事は棚に上げてそう言った。内心では家計を支える為、女手一つで働いてくれている母の苦労は分かってはいたが、分かっていると言えば手伝わねばならなくなる。それは避けたかった。
「全く……早い子だと結婚して子供を産んでてもおかしくないって言うのに、あんたは家の手伝いもしないで毎日遊び呆けて……母さんがどれだけ苦労してるか分からないのかい?」
「そりゃあ……そうだけど……」
 母の傷ついた手は、見るだけで彼女が苦労していると分かった。若い時は美人で有名で、貴族達と浮名を流した事もあるらしいが、今はそんなことを言われても冗談にしか聞こえないくらい疲れて切っている。
 アデリアには妹と弟がいた。まだ学校へ通っている年齢だから、まともに労働は出来ない。それでも商店街の手伝いや、ごみ拾いをしてお小遣いを貰い、それを家計の足しにと母に渡す心の優しい妹と弟だ。
 それに対してアデリアはどうだろう。
 今日だって、ザックス達と数日遊び歩き、日銭が無くなりお腹が空いたから家に帰って来た。なんという体たらくだろう。
「あんたがいると、あの子達のリズムが壊れるんだよ」
「出ていけって事?」
「あんたにしては物分かりがいいね。……お腹空いてるんだろう?パンだけはあげるから、出ておいき」
 ここまで母にいわれのは初めてで、アデリアは大きなショックを受けた。
 指さしたパンは硬く、焼かれてからかなり時間が経っているのがわかる。それでも硬いパンを掴むと、アデリアは何も言わず家を出ていった。
 母親はアデリアの名を何度も呟き、涙を流した。
しおりを挟む

処理中です...