彼が幸せになるまで

出会い

という顛末

「あのぉ……」
「あっ、ご、ごめんなさい寺内さん！」
　慌てて手を緩めた男の顔を見上げると、やはり近藤が人の良さそうな太い眉を下げていた。雪には似ても似つかない良い人に見える。似ていないなんて当たり前の事なのに、まだ少しだけ残念に思った。
「いえ、近藤さん有難うございました。おかげさまで転ばずに済みました」
　ポンポンと、近藤のスーツを払う。良い生地を使った良いスーツだった。いつもジムに来るときはスポーティな服装だから知らなかった。
　身なりがきっちりしている人はそれだけで信用度が増す気がした。まあ鷹司のような例外はあるけれど。
「すみません、お礼もゆっくりしたいんですが、俺もうすぐ仕事があるので……」
「あ、はい！いってらっしゃい！また後で！」
　成人男性からの久々の行ってらっしゃいの言葉は嬉しかった。それに対して綺麗なお辞儀をして、侑吾は仕事へと向かっていく。振り返る事はしなかった。
　そうしないと、うっかり胸のときめきを勘違いしそうだったからだ。子育てをしている身なのに、恋愛なんてありえない。ありえないったらありえない。
　ときめきを押さえ、一定の距離を保ちつつ、スタッフ客の範囲内で仲良くなっていった。というのがここまでの顛末であった。