彼が幸せになるまで

花田トギ

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穏やかな(?)日々

蒼汰くんは人見知り

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「近藤さん、凄いですね」
「え?何がですか?」
「こんなにすぐ蒼汰くんが懐くなんて……彼、わりと人見知りな方なんです」
 共にお弁当を食べ、食後にはアスレチックを楽しむ中で近藤と蒼汰の距離はかなり縮まったように思えた。兄貴と慕う蒼汰を、近藤も心から受け入れて世話をしてくれた。
 久しぶりの三人という空間は、懐かしいような、一角を担う人が前と違っていて寂しいような気もする。
「俺、甥っ子や姪っ子が結構いるんです。だから子供の相手するのって好きなんですよね」
 見上げた太陽が眩しくて、目を細めた。
 ――ああ、彼のような人が良い父親になるんだろう。
 侑吾はそう、思った。
「兄弟も仲良いんですか?」
「まあ仲は良いんですけど、あいつら皆わりとやんちゃで。弟と妹がいるんですけど、二人共子供作っちゃってて……俺長男なのに先越されてるんですよね」
「早いから良いってものでも無いですし……」
 フォローの言葉に、恥ずかしそうに鼻を擦る。
「ああ……子供とまでは言わないけど、一人じゃない家って良いですよね。結婚する同期も結構いるんですよ?」
「結婚……」
「あ!そろそろ聞いても良いですか?その……さっきの話」
「そうですね……ちょっと長くなりますが、良いんですか?」
「もちろん。寺内さんの事聞きたいんです」
 侑吾はずっと、誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない。
 洗いざらい全てを話せる相手は今まで居なかった。
 周りの親御さんたちからはワケアリ父子家庭だと思われて、深く踏み込まれないし、同僚たちには妻に先立たれた夫だと思われているようだった。萌香は事情は知っているが、過去の事は優しさから突っ込んでこなかった。晃は雪の友人だったから言えない部分もあった。蒼汰はまだ子供だから、苦い思いまでは共有できない。
 友人と呼べるような関係の人はほとんどいないまま、雪と駆け落ちの様に一緒になった結果、実の両親とも没交渉だ。
 話し始めると、止まらなかった。
 話していると、当時の感情に捕らわれていつの間にか大きな瞳は涙にぬれ、声が上手く出ないところもあった。そんな時は近藤が背中に手を添えてくれて、なんとか話を伝える事が出来た。
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