400人の駒だった。

鍵霧 飛鳥

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序章

覚えのある絶望-1

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ずっと忘れることのできなかったある事件。自分に心があることや自分が常識人であることをここまで憎んだのは今までもこれからも、最初で最後だろうと思っていた。いや、人間なんて増え続け不定期に行われるトランプ・ゲームによって、最大で三九六人が削られるとはいえ…数多い人間の中から私がまた選ばれるなんて夢にも思わなかったし思いたくもなかったが、目の前のアンティーク調の、私の瞳と同じ紫の宝石がはめられた箱がカタカタと動くのが絶望の始まりを告げる。


震える指先がゆっくりと紫の宝石に伸びる、そしてゆっくりと力を籠めればカチリという機械的な音の直後箱が開いた。中の白いクッションの上には、まるで妖精のアンクレットを彷彿とさせる金色のブレスレットがそこで振動していた。

ゆっくり震える手でブレスレットを手に取り手首に通す。そして金色のブレスレットの間に浮かぶ小さな正八面体の箱の宝石と同じ石を指先でつつけば、それはくるくると回りブレスレットから外れて宙に漂う。じきに映写機のように映像を映し出す。
映し出されたのは黒くて肩を出した豪華なドレスの袖はふんわりと膨らんでいて肩が出ていてフリルのの襟の中央は首元の白いリボンとその中心のダイヤモンドで彩られている。腰から下に広がるドレスはとても大きく教科書で見た中世のドレスを思い出したが、正面が大きく開いていてそこから妖艶な足がむき出しだった。
見覚えのある長く黒い髪をなびかせた彼女がゆっくりとその目を開けば紫の瞳が露になる。

『ぱんぱかぱーんっ!おめでとうっ、あなたは次のトランプ・ゲームのプレイヤーに選ばれたわっ!”命 蛍光みたま ほたる”』

命 蛍光みたま ほたる


それは私の名前であり、それと共に二年前にこの星で行われたトランプ・ゲームの勝者の名前だった。

「...久しぶりだね、支配人エスコート。」

変わらぬその姿に皮肉にも少し安心してしまう自分がいる。今から二年前の支配人も彼女だった。

『皮肉なものね、蛍光...。また選ばれるけど私今、あなたに会えて嬉しいわ。』
「偶然だね、支配人...私もだったりするよソレ。それで?また選ばれたの...?」

声が震えて上手く言葉が出ない。それもそうだ、トランプ・ゲームは宇宙規模で行われる殺し合いゲーム。そこで勝てた私には国から世界から多額の報奨金が国を通して与えられているし、私生活に影響が出にくいように手を回してもらったり、護衛をつけてもらったりと密かなお嬢様気分だ。だが、その分失ったものもあった。
私はもう普通に料理はできないだろう、あの時使っていた武器である包丁を今でも持つだけで手が震えるのだ。あの時なぜ包丁を使ったのかは一生後悔するだろう。
全身から嫌な汗が吹き出るが、支配人を前にしたかつての勝者の謎のプライドが邪魔をして引きつった笑いを私は続けていた。恐らく支配人はそんな私の様子に気づいているだろう、ヒールの分背が高い彼女は私に座るように促した後に目の前にしゃがんで視線を落とした。

そして、支配人は口を開いた。
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