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ふーふになるまで

第5話 誘い

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 また学校の禁煙室にて。相変わらず気怠そうにタバコを蒸す湊音。左手に持つスマホには明里からメールが来てる。
 婚活パーティーが終わって二週間経つが、そのあと二回ほどあって二回ともセックスをしている。明里の部屋で。

 全く持って愛のないセックスだが明里は相当湊音に惚れ込んでいるようだ。
『こんな僕のどこがいいのだろうか。会話も適当に返してるのに……』
 湊音にとって明里は別にタイプでもないし、6つ年下ともあって甘えてくる彼女にどう対応していいのかわからなかった。

「おいー、湊音先生。ここにいたのか。剣道の稽古つけてやるぞ」
「やめてくださいよ、腰痛めてしばらくは勘弁」
「ストレッチ怠ってるからだろ。それとも婚活で持ち帰った女とやりまくってるからだろ」

 ニタニタと笑う大島。そんな彼は少し年下の女性と意気投合したそうだ。
「大島先生だって……」
「上に乗っかってもらってよぉ……下から突くんだけど。すげぇ動くんだよ、あの子」 
 と、下で腰を振るようなジェスチャーをしながら他人には聞かせられないゲスな話である。

「それよりもさ、婚活パーティーで黒い名刺を渡されなかったか?」
『あ、あの……』
 湊音はリヒトを思い出し、うなずく。名刺はどこに行ったか自室を探せばあるだろうが……。

「あの人とメアド交換しててさ」
「そうなの?!」
「今度BARに来てくださいってメール来ちゃってよ……あれオカマだよな。喋り方とか仕草とか。ゲイバーだろうなぁ」
 ふと湊音はリヒトのことを思い出そうとする。
 何故かあの見惚れた喉仏を思い出しドキドキしている自分がいると湊音は戸惑っている。確かに喋り方がオネエ口調であった。

「んでさ、一緒に来てたおチビさんも連れてきてって……」
「ぼ、ぼくも?」
「うん。ぼったくりバーじゃないよな? だから今度の週末ついてきてくれないか」
 湊音はスケジュールを確認するとその日の明後日に明里と水族館デートの予定が入っていた。

 それよりもあのリヒトという男の人に会えるのか、と思うと……湊音はうなずいた。



 そして週末、部活動も終えて大島と共に湊音はバーに向かった。名刺同様看板も黒。
『バーなんて初めてだ……ネットで調べたらゲイバーでもぼったくりバーでもないらしいし……』

 不安が募る中、店の扉を開けた。店内は少し狭いがダーツも置いてあり、カウンターとひとつテーブル席もあった。
 店内は薄暗くて何人か客もいる。そしてカウンターの中に二人いるうちの一人、湊音は気付いた。だがパーティーの時とは違う髪型、スーツ姿でシェイカーを振るリヒト。そして二人に気付いたリヒトが微笑む。

「あら、いらっしゃい。おチビちゃんもきてくれた」
『おチビちゃんって余計なお世話だよ!』
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