最高で最強なふたり

麻木香豆

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ただいま

第九話

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「ふふっ」

 話を聞き終わった後、虹雨が笑った。

「何かおかしいか」
「いや、そのな……由貴がバーテンダーってのが」
「悪いか! 一応どの仕事よりかは長く続いた方なんや。……世界的大流行性病気がなければ店も続いて今頃トップバーテンダーやったわ」
「由貴がバーテン……」

 昔から由貴の性格を知ってる虹雨にとっては不恰好でそぐわない職種だと思っているのだ。

「たしかに……わたしも由貴さんにはバーテンダーは違うかなと」
「え、おじさんもそれ言う?」

 店主がそう言うのだ。由貴はがっかししている。

「全く違う、という感じではなくて生活のために働いている感じがしましてね。一つ一つ業務的なこなし方をしてて……楽しさが見えなかったんですよ」

 その言葉に由貴はハッとした。図星であった。確かに賄いが1番の目当てだった、と。仕事どおりにやっていれば賄いと給料はもらえる……あの頃を思い出すと作業やお酒などの名前を覚えるのも大変で楽しかったがいっぱいいっぱいだった。

「……厳しいこと言いましたね、すいません」
「いえ、おっしゃる通りです……さっきは世間の流れのせいと言ったけど多分続けててもうまくいかなかったと思う」
「私の昔の恋人もバーテンダーでして、彼も飲食店で働くのはほぼ初めてで覚えながら見よう見まねで仕事してたものの、人にものを作って食べたり飲んでもらうことが天職とわかった頃から余裕ができてきたんですよね」
「……天職……、おじさんはこのテーラーの仕事が天職ですよね」

 店主はうなずいた。

「学生時代にわたしも人のこと言えませんが生活のためにデパートでアルバイトしてまして、配属されたのがスーツ売り場でして。在庫管理だけでなくてオーダースーツの採寸補助をすることになって……」

 と店主が話し始めると由貴はじっと聞き始めるが、隣で虹雨が小突いた。

「由貴、こっからの話長くなりそうやな」
「聞いてあげようよ……ほら、話をさせてすっきり成仏のパターンかもしれないし」

 本当に長い話が嫌いな虹雨。

「かもしれんけども、このあと事務所ないかなかんやろ。もっと違う方法で、それかまた後日……」
「失礼やろ、虹雨。とりあえず聞こう」

 と、その後1時間近く店主のテーラーを目指した話からその後の軌跡を話し始めた。

 まだ終わりが見えないうちに虹雨はもうこれはだめだと、由貴を再び小突いた。

「ええ話やん……」

 気づくと由貴は泣いていた。虹雨はハァン? と呆れ返った。

「あ、そういえば!」

 といきなり由貴は何かを思い出したのだ。
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