冬月シバの事件簿

麻木香豆

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図書館司書の女

女は変わる

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 彼女、杉立梨花《すぎたちりか》に声をかけたのは一年前か。結婚詐欺師の疑いがあると捜査をしていたが、証拠が出なかった。
 彼女の図書館へ足を運び、彼女を見かけたときにこの女性が結婚詐欺をしているのか?相手は独身の30代、40代の経営者の男たちばかりであった。
 結婚詐欺か、引っかかる男も馬鹿だと資料を読んでいたがこんなに美しい女性に言い寄られたら引っかかるなと実際に会って思ってしまった。

 捜査云々の前に彼女と一度話をしたい。朗読も素敵だ。どうすれば近づけるのだろうか。今はバディの帆奈《はんな》がいるから不必要に近づけない。
「一見私から見れば普通の女性ですけどね。そんな彼女にお金貢ぐ男たちも馬鹿だわ」
 帆奈は鼻で笑っていた。彼女は俺から離れて他の職員に声をかける。……帆奈は昨晩俺の上で激しく喘いでいた。数年前からバディを組む後輩であるが、鉄仮面と周りから言われ他の刑事からつまみものにされても強気でいるが、ベッドの上では猫のように甘える女だ。

 杉立梨花も違う一面があるのだろうか。気になる。

 俺は非番の時に図書館に行ってみた。自分から声をかけること、いわゆるナンパなんてプライベートではないことだ。とても緊張するがどう声をかけよう。
 ふと本棚に貼ってあった星座を見る会のポスターに書いてあった
『天狼星』という文字。
 梨花のところへ行くと、笑顔で対応してくれた。
「天狼星について調べたいのだが」
 帆奈は普通の女だとか言ってたがそうじゃないぞ。あれは嫉妬だったのだろう。

 梨花は立ちにこやかに星座関連の蔵書があるところに案内してくれた。
「星に興味があるんですか?」
 と、質問された。俺が質問する前に……。
「え、ええ」
 興味は全くない。
「私もですよ」
 と微笑まれた。これは引き込まれる、彼女の微笑みは。
「もしよろしかったらプラネタリウム行きませんか?」
 ナンパしたつもりだったが彼女の方が上手であった。本を数冊選んでもらい、天狼星について書いてあるページを教えてもらい、メモ帳にメモをしていると彼女がそのメモに電話番号とメアドを書いたのだ。
 うわ、まじかよ。
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