偽りの手紙

響ぴあの

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幼なじみ

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 呆れた顔をする百戦錬磨をよそに、頑張ろうと背中を叩く。彼の体温が伝わってくることに恥ずかしさを覚える。相手は私なんかに何も感じていない。でも、それでもいいんだ。

「私たちの目標は学校での成績を上げること。そうすれば、特待生制度や奨学金制度が使えることもある。入試でいい点数を取れば、未来は逆転可能なんだから。私たちみたいな底辺の人間にとっても逆転次第で大成功できる社会だよ。だから、頑張り次第だよ、ね!!」

「本当におまえは明るいな。ベンチにでも座るか」

「あれ? おまえ、百戦錬磨だろ? ケンカで有名な」
 知らない男子の声がする。

「最近見ないと思ったら、女連れかよ」
 
 三人組の中学生だ。多分、違う中学校の生徒だろう。同級生だろうか。面識はあるらしい。

「錬磨、久しぶりにケンカしようぜ。勝ち逃げは卑怯じゃねーか」

「勝ち逃げが卑怯ってどういう意味だよ」

「どういう意味とか、理屈じゃねーよ」
 いきなり殴りかかってきた。こういうのを因縁をつけてくるということなのだろう。目つきも悪く、言葉が通じない。この人たちは底辺の人間ポイントだということを気にしていない。百戦錬磨は真面目に生きようとしているのに、邪魔をするなんて。動きは素早くよけ方がうまい。百戦錬磨ってケンカが高ポイントになるならば、かなり地位が高くなりそうなのに。

「変な名前だよな。親、頭おかしいんだろ」
 一番リーダー格の派手な服を着た男が言う。

「変かもしれねーけど、親は選べねーんだよ」
 百戦錬磨は殴り掛かる。

「こんなことしたら、学校にばれたらまずいよ」

「大丈夫だ。俺たちはとっくに学校側から疎まれた人間だからな」
 相手側の二番手の男が容赦なく蹴りを入れる。三対一なんて、卑怯だ。なのに、錬磨は怯まない。世間の目とかそういうのではなく、売られたケンカは買ってしまうのだろうか。ある意味有名税なのかもしれない。

「この女、彼女か。遊び相手になってやろうか」
 いかにも悪人が言う台詞だ。

「女に手を出す気か?」
 胸ぐらをつかんで凄み、そのまま重いパンチを与える。相手は吹っ飛んだ。その勢いで、他の二人も同時に殴り倒す。

「いくぞ」
 手をつかまれ、そのまま走る。汗ばんでる――恥ずかしい。でも、有無を言わずに走る。とにかく見つからないように。

「あいつらに見つからない人混みに紛れたほうがいい」
 息が上がりながらも祭りの会場に向かう。

「錬磨君って強いんだね」
「小学生の時が全盛期だったかな。一番荒れてた。年上とケンカばっかり。本当は、心のスキマを埋める手段が見つからなかったから、ケンカしか手段がなかったんだと思うんだけどな」

 心のスキマ――今でもあるのかな? もしあるなら、埋めてあげられないかな?
 家庭環境に恵まれず、ただ、有り余る力を拳に込めていた百戦錬磨の一撃はどんな気持ちで掲げていたのだろう。スラっとしているけれど、筋肉質なスタイル。贅沢をしていないせいなのか、痩せ気味な体。一瞬、抱きしめたら折れそうな気がする。でも、この人は、人間ポイント最下層で終わりになるような人じゃない。

「私なんかと一緒で大丈夫?」
「おまえこそ、俺と一緒でもいいのか?」
「露店の味って格別だから、少し食べたら帰ろう」
 いつの間にか花火大会は終了し、露店がメインになっていた。メイン会場では盆踊りの音楽が鳴り響く。

「夏休みはまだ始まったばかりだ。今度またどっか出かけたいな」
 思わぬ発言にどきりとする。気まぐれ発言だとしてもすごくすごくうれしい。
 彼の中に私という存在がちらりとでもいたのならば、とても嬉しい。
 ふとした瞬間に私のことを考えてくれるだけでうれしい。
 なんでこんなに好きなんだろう。理由なんてわからないよ。
 あまりにも突然の提案に、勝手に恥ずかしくなってしまう。
「そうだね。どこかに……いけたらいいね。見てみて!! わたあめ、ピンクだよ。かわいいー。りんごあめも真っ赤でつやつやだね」
 話を逸らしてみる。とりあえず目に入った食べ物に対して、かわいいね、という女子らしいアピールをする。
 こういうキャラじゃないから不自然かもと遠くから見ている自分もいる。

「意外と乙女なんだな」
「意外って何よ」
「意外は意外だ。つまり、もっと淡白な人間だと思っていたんだよ」
 わたがしをちぎって二人で分けあう。こんな幸せな時間が過ごせるなんて、心が躍る。まるで恋人みたい。ただ、一緒にいられるだけでいい。
 私のことなんて好きにならなくてもいい。でも、欲を言えば両思いがいいな。

 りんごあめも買って、舐めてみる。
「あまーい。こんなにりんご飴って甘美な味だっけ?」
 クスリと笑いながら彼の視線は遠くを見ている。眼中にないってことか。
 一緒にいるから、特別な時間。とても楽しく感じていることを私自身が一番感じどうsていた。
 
「今日から、私たち、逆転人生歩まない? 人間ポイントを高くするために、あらゆる工夫をするの」
「逆転人生なんてかっこいいな。意外と策士だな」
「男女が交際すると勉強時間が減るからポイントが減るんだって。でもさ、結婚したら、ポイントが増えるんだって。国の未来のために家族を作る意思があるからってことらしいよ」
「じゃあ、結婚すっか?」
「何言ってるの?」

 思わぬ発言に絶句する。絶対に冗談とわかっていても絶句する。仕方ないよね。だって、彼には好きな人がいるし、そもそも結婚できる年齢じゃないじゃない。

「冗談だよ。でも、少子化を食い止めるために結婚年齢が下がるという話もあるから、高校生でも結婚は可能かもしれないな。俺みたいな貧乏ワケアリの男と結婚する人はいないけどな」

「そんなことないよ!! きっといる!!」
 意外と熱く言ってしまった。
 彼は苦笑いだ。
 でも、私は結構、かなりこの人が好きだと思う。人間ポイントとか家柄とか学力とかそういう物差し以外で人間性が好きなんだ。

「でも、錬磨君はすごく好きなひとがいるからね。うまくいくといいね」

「おまえさぁ。人の応援とかばっかだよな。今日だって友達の代理だろ。自分を持ってないっていうかさ。おまえは好きな人とかいないのか?」

「別に……いないよ」
 この一言を言うのに口を動かすのにどんなに辛い気持ちだったのか、こいつにはわからないだろう。結婚すっかという提案のあとに、好きな人がいないのか、とか自分を持っていないとか全否定された気持ちだった。浮かれた自分が損をしたみたいだ。

「自分を持っていないというのは、わかっている。でも、最下層のまま終わりたくない。だから、人間ポイントを上げようと思う。錬磨君もがんばろう」

「まぁ、やれるだけやってみるか。残り半年で最難関の高校に合格したら、俺には学力優秀ポイントが入る。それで、学費は賄える。将来がだいぶ変化するよな」

「最難関じゃなくてもこの地区のトップ5に入る高校に入ることができたら、今がほぼ最下位な私と錬磨君ならば、今の学力から向上したという学力向上ポイントが加味されるよね」

「そうだな。秀才の友達がいるんだっけ? 勉強してみるか」

 私たちは大きな大輪の夜空に咲く花の下で、大きな目標を掲げた。

「この国で行方不明者って年間すごい数いるんだって。何万人とかだよ」

「やっぱり、人間ポイントカードのポイントが低い人間が、鬼神の生贄にされているのかもしれないな。あながち嘘じゃないような気もする。ネットなんかにも鬼神が祭られていたといわれる神社が全国にあると書いてあるし、今でも鬼神が存在していてもおかしくない。生物の一種なんだろ。そして、俺たちより少数だけれど強い力を持ち、この世界で共存している」

「この祭りも元をたどると鬼神様を祀る祭りだったみたいだよ」

「鬼神ってなんなんだろうな。昔の絵巻に書いてあったのは、鬼の顔をした神様で、人間を取って食べるような様子だよな」

「祭りにはきっと意味があるんだよ。ただ、楽しむためじゃなくて、魂を弔うとかそういうことなんだと思う。花火にも意味があるのかもしれない。冬に花火大会って滅多にしないし。生贄になった人たちが戻ってくる夏に迎え火として上げている可能性もあるよ」

「そのりんご飴にもふかーい意味があるのかもしれないな」
「ちょっとどういうつもりよ」
 若干小さくなった甘いつやつやの真っ赤な飴を錬磨君の唇に押し付けるふりをする。それを舐めるふりをする。その動作に私はつい、りんご飴並みに真っ赤になってしまう。私が舐めた飴を何も思わず舐めようとするなんて。間接キスみたいじゃない。慌ててりんご飴を引っ込めて、神社の奥に歩いて行く。人は少ない。

「この神社は鬼神を祀ったものなんだね」
 由来が書いてある。夏に祭りを行うようになったのも生贄となった者に感謝をするためだと書いてある。この国はだいぶ前から、鬼神に纏わり憑かれているのだろう。彼らは人を喰らう。そうでなければ、死んでしまうと書かれている。

「現代、生贄制度なんて人権問題よ。だから、人間ポイントカードを導入して、能力を可視化できるようにしたのかな。有能な人間しか生きられない世界なんておかしいよ。でこぼこでも、優秀じゃなくても生きているだけでいいのに。役に立ちそうもない人でも、きっと何か役に立つこともあると思う。数字で能力を測るなんておかしいよ」

「でもさ、入試だって、資格試験だって点数で合否が決まるだろ。数字が全てじゃないっていうのはきれいごとかもしれない。就職試験ならばコネ次第ってこともあるけどさ」

「前期中間テストの点数も最悪だったよ」

「俺もだ。つまり、俺たちは点数次第で成績にも関わる。特に俺は悪印象を教師に与えているから余計評価が低い。故に夏希さんにも好かれていない」

「じゃあさ、桜葉君に連絡してみるね」
 その場でスマホにメッセージを送る。すると、即返事が返ってきた。
「勉強教えてくれるって」
「俺も一緒でも大丈夫か?」
「桜葉君はOKしてくれたよ」
「桜葉神様だな」
「早速、うちの近くだから、来てもいいって」
「早速いいのか?」
「テキストも教科書も桜葉君のを使って今日から特訓開始って書いてある」

 私たちはそのまま桜葉君の家に向かった。
 桜葉君は祭りにはいかなかったらしく自宅で勉強をしていたようだ。
 インターホンを押す。にこやかに出迎えてくれた。

「愛花ちゃんの浴衣姿、いつもと雰囲気ちがうね」
 いつも通り優しいコメントだ。

「似合わないかな」
 少し恥ずかしくなる。

「すごくいいよ」
 眼鏡が似合う桜葉君はインテリな雰囲気が強いけど、優しい。
 百戦錬磨とは真逆の人間というとわかりやすいかもしれない。
 人との争いは好まず、ただ静かに勉強をする。自分がライバルという感じだ。
 勉強自体が好きなので、苦にならないらしい。
 スポーツは得意ではなく、格闘技とは無縁の少年。
 親は安定した高収入で、いつも整えられたきれいな部屋だ。

「二人は、デートだったりするの? 付き合ってるとか?」
 気まずそうに聞いてきた。

「んなわけねーだろ」
 そんなはっきりと弁解されると辛い。

「実は、彼の想い人が来れなくなっちゃって、急遽代理で私が参加したの」
 言い訳はしておこう。

「錬磨君って好きな人がいるんだ?」
「悪いか?」
 いちいち睨みが怖いよ。温室育ちの桜葉君がおびえている様子だ。
「二人が並んでいると案外お似合いだったからさ。でも、錬磨君に好きな人がいるなら、よかった」
 その言葉に一瞬疑問符がついたが、とりあえず勉強を教えてもらおう。

 真面目な桜葉君は昔から部屋も整理整頓していて、親の言うことも聞いていて、率先して勉強していて、宿題を忘れない子供だった。今でこそ桜葉君と呼んでいるが、当時は紫陽《しよう》君と呼んでいた。

「これ、教科書とノート。1年生のところから解説するから、聞いて行って」

「おう。おまえ親切だな」

「僕にできることはこんなことしかないから。人間ポイントカード、二人共評価が低くて難しいんだろ。友達として見て見ぬふりはできないよ」

「ありがとう。これからも、私たち二人が生徒になって教えてもらってもいい?」

「かまわないよ」
 誠実で真面目な桜葉君の笑顔は全く変わらない。
 少しは錬磨君もあの笑顔を見習えば印象ポイントはアップしそうだけどな。印象って結構大事だよなぁ。

 そんなことを思いながら、勉強する。

「二人って仲が良かったんだね」
 帰り際に桜葉君に質問された。

「恋の手伝いをしてもらってんだよ」
 百戦錬磨はあっけらかんと話す。

「好きな人ってどんな人?」

「美人で何でもできて、優しくて――高ポイントなのは間違いないな」

「そっかー。応援してるよ」
 桜葉君はおとなしいけれど、しっかりしていて、彼こそが高ポイントであろう模範学生に違いない。

「浴衣、似合うなぁって。今日会えてよかったよ」

「じゃあ、俺、こっちだから、こいつのこと送ってけよ」
 百戦錬磨の奴、変な気を使ったんじゃないの? もしかして桜葉君といい感じとか勘違いしないでほしい。

「じゃあな」
 つかの間の育児休暇が終わって、これから家事育児の時間が始まるであろう百戦錬磨の背中の背負うものは私達とは全然違うと思えた。

「私、この世界で高ポイントの人間になりたいの。だから、勉強を頑張りたい」

「一緒の高校に入ろうよ」

「まさか、私なんて――」

「一緒に入れないなんてことはない。君には才能があるよ」

「またまたぁ」

 帰り道と言ってもすぐに到着する距離だ。

「桜葉君は好きな人よりも、勉強って感じだよね。錬磨君とは正反対なタイプだよね」

「桜葉君なんて、昔みたいに紫陽って呼んでよ」

「やっぱり、学校だと照れるよね。学校一で一番成績のいい生徒会長でしょ。変な目で見られちゃうのは悪いしね」

「僕はそんなこと気にしない。君には絶対に一緒の高校に行ける学力をつけてみせる。そして、底辺からの脱出だ。成績が大幅にアップすると奨学金がでるしね」

「うち、経済状態もよくないからさ。お父さんの会社、倒産したりして、私の成績は悪いし――社会的地位が低いと家族全体のポイントがね……」

「大丈夫。愛花ちゃんのことは守るよ。ポイントを譲渡しても構わない」

「そんなこと、できるの?」

「人間ポイントカードについて調べてみたんだ。でも、意外と法律の落とし穴が結構あってね。うまくポイントを稼いでいる人間もたくさんいるし、詐欺まがいのことをして稼いでいる人もいる」
 
「相変わらず頼りになるなぁ」

「これから、毎日勉強教えるよ。人間ポイントカードのうまい稼ぎ方も調べておくから」

「これだから、秀才は違うよね」

「僕は腕力じゃかなわない。でも、知識も時には腕力以上の武器になると思うんだ」

 月明かりに照らされた桜葉君は思った以上に大人になっていた。幼少期から着用していたメガネを取る。意外と雰囲気が変わる。こんなに顔立ちが整っていたっけ? 優しい彼は支えると一言言って、私の家まで送ると帰宅した。

 意外だった。あんなに近くで見たのは久しぶりだった。薄暗かったせいか、全然昼間見ていた桜葉君とは違って見えた。もしかして、本当の桜葉君って違うのかな?

 紫陽はあじさいと読む。あじさいは、土壌次第で色が変化するらしい。酸性ならば青。アルカリ性ならば赤。中間ならば紫。彼は周囲の人によって色が変わっていくのかもしれない。

 名字が桜葉なので、春と梅雨が一緒に共存しているような印象だ。案外一番近くにいるけれど、最近の幼馴染のことを知らない自分に気づく。


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