あと3年の彼女は心の映像を盗み見る

響ぴあの

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消去の力を持つ桔梗のおばあちゃん

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「おばあちゃんは奥の部屋にいるから、僕が案内するよ」
 岸がなれた様子で部屋を案内する。まるで自分が孫のような振る舞いだ。でも、きっとそれくらいこの家に馴染んでいて信頼を得ているのだろうということがわかる。

 洋館の奥へ進むと、大きな扉があり、そこを開けるとおばあちゃんの部屋だった。しかし、想像していた部屋ではなく、植物に囲まれた緑の楽園のような場所だった。

「あら、海星ちゃん、来てたの?」
 おばあちゃんは花の手入れをしながら部屋一面の緑に囲まれていた。消去の力よりも再生の力を持っているような雰囲気だ。どことなく魔女のようなイメージを持っていたが、普通の優し気なおばあちゃんだった。

 岸は少し大きめな声でおばあちゃんに話す。
「同級生の幻想堂の息子の時羽と見える力を持つ風花ちゃん」
「おや、幻想堂の息子さんかい。昔、幻想堂のひいじいさんにあたる人には世話になったもんだ。この歳になってひ孫さんに会えるなんてめぐりあわせは不思議だねぇ」

 もしかしたら、おばあちゃん口調が先程の孫娘の桔梗にうつって、口調をこじらせてしまったのかもしれないと時羽は勝手に思っていた。

「紅茶でも飲むかい?」
 おばあちゃんは紅茶をきれいなティーカップに入れる準備を始めた。

「消去の力が風花ちゃんには必要なんだ。おばあちゃんにお願いできるかな?」

 岸が質問した。すると、
「わたしゃ引退したからねぇ。もう力はほとんど残っていないのさ。あれは体力がいる。若くなければできないんでね」
「何と引き換えに消去できるんだっけ?」
「大切なものだよ」

「大切なもの?」
 雪月が聞き入る。

「誰でも持っているものじゃだめ。そして、大切なものじゃないとだめ。だから、契約するときに選別するんだよ。じっくり本人と話し合って決めるのさ。だから、これと決まっているわけじゃない」

「心が見える力は特別な力です。これと引き換えに消去できますか?」
「何を消去したいんだい?」
「母親の死です」
「亡くなった人間のことになると、時間や肉体の問題が起こるから一番難しい消去の力となるねぇ。これには制限があって、死後何年も経った人間には効力はないのさ。死んですぐならば可能だが、会得するには、桔梗にはかなり難しいだろうし、時間がかかるかもしれない」

「私、あと3年で死んでしまいます。そんなに時間はありません。何年も前のことはだめですか?」

「そんなこと言ってもねぇ。肉体の問題があるだろ。戸籍の問題もあるし、簡単にできないことなのさ。もし、それが可能だとして、お母さんが生き返ってもおまえさんが死んだんじゃ悲しませるだけじゃないか」

 一堂、当たり前の言葉に沈黙した。その通りだ。雪月の死は変わらない。お母さんだけが生きていたとしても、それは親不孝になるだけだろう。やはり時間的に見ても、消去の力に頼ることは不可能な案件だ。

 鮮やかな紅色の紅茶を入れておばあちゃんはもてなしてくれた。横に、角砂糖やミルクをたくさん入れたビンを置く。

「おばあちゃんは、こう見えて、昔は死をなかったことにした経験もあるんだってさ」

 岸がさりげなく持ち上げる。おばあちゃんは得意になって若い頃の話を始めた。そこから、何か探れないか雪月は聞き入っていた。時羽も何か力になりたいと耳を傾けた。

「私が桔梗くらいのときには、死んだ虫や動物を生き返らせたこともある。ただし、死の目撃者がいない場合に限るが、消去の力を使いこなしていたんだがの。桔梗には生まれつきの能力が備わっておる。しかし、あんなふぬけた生活をしていたら、力は未来永劫発揮できんよ。きちんと修行に励めば光は射すと思うんだがの」

「本当に桔梗さんにその能力があるのですか?」
 はじめて言葉を発した時羽におばあちゃんはゆっくり見据えてうなずいた。

「消去の力は遺伝と持って生まれた能力によって使える者と使えない者に別れる。桔梗の親にはその力はない。年々血が薄まって能力が落ちてきているというのもあるかもしれない。昔は幻想堂のように消去屋は知る人ぞ知る店だったこともあるんだがね」

 遠い目をして紅茶を飲むおばあちゃんにお礼を言い、3人は桔梗の部屋に行く。

「能力を使いこなすには、まず規則正しい生活をすることだな。でも、風花ちゃんのお母さんの件はなかったことにできないのか……」
 岸が、がっかりな顔をしてうなだれた。

「仕方ないな。じゃあ、毎日僕らが桔梗のうちに遊びに来る。そして、少し社交性を身につけろ」
「悪いけど、桔梗と友達になってやってくれ。そのために毎週末土曜日に風花ちゃん、ここに来ることができる?」
「友達かぁ。なってやってもいいけどな」
 すかさず、時羽は名乗り出る。友達ができるチャンスは逃せない。

「でも、時羽君、喫茶店あるんじゃない?」
「じゃあさ、夕方過ぎにちょっとだけここに寄っていくってのは? 桔梗は夜行性だし、夜ならば散歩くらいには出られるかもしれないな」
 岸はまるで飼っているペットの話をしているかのようにすべてを把握していた。

「私、一人暮らしだから何時でも平気だよ」
「俺も、岸が友達だって言うから仕方なく引き受けてもいいけれど」
 時羽は照れながら視線を逸らし、快諾する。

「ここら辺はあまりビルもないし星がきれいなんだ。そして、若者が少ないから空き地に怖い輩もいないし、治安はいいんだ」

 そうやって、夜の集会は毎週末土曜日の夜に行われることとなった。それは、全ては消去の桔梗の力を引き出すため。そして、雪月を助ける何かを探すために。何か雪月にとってプラスになることもあるかもしれない。

「桔梗ちゃんのためにもなるわけだし、なんだか毎週末に集まって何かするっていうのも面白そうじゃない? どうせなら楽しんであの世に行きたいじゃない」
 雪月の言動は女子高校生が言う台詞とはとても思えないが、それはそれでまっとうな意見でもあった。

「土曜の夜は、夜6時に桔梗の家に集合な」
「でも、桔梗ちゃんの親は大丈夫なの?」
「ひきこもりを更生させるんだから、親的には大喜びだと思うぞ」
 岸は親のことも知っているので、遠慮した様子はなかった。身内感覚だろうか。

「みんな宿題済ませて来いよ」
 岸の掛け声に、桔梗はぷいっと横を向く。
「我は賛成していないぞよ」と一言反論した。

「ばあか、おまえの意見は聞いておらん」
 岸は再び桔梗のぼさぼさな頭を飼い犬に接するかのように撫でた。
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