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岸の花火雑学
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「桔梗ちゃんもさ、いつ死ぬかわかんないんだから、楽しもうよ。引きこもっていても大地震で家が崩れちゃって死ぬことだってあるんだからね」
雪月は少し大きな声で縁起でもないことを言う。
桔梗は顔をカーテンにうずめていたが、窓は開けていたので聞こえていただろう。
「線香花火は、風花ちゃんみたいだなって思うよ」
岸は感傷的な言葉を放つ。
「ええ? どっちかというと私って勢いのある持ち手花火とか打ち上げ花火系だと思ってたよ」
「打ち上げ花火系ってどういう人間だよ」
という時羽の突っ込みに、岸は苦笑いをした。
「美しくてはかないところが似ているってことかなぁ」
岸はきざったらしいセリフを平気で本人に言う。
「またまたぁ!!」
少し照れたのだろうか。雪月は隠すように冗談をやめてよ、言わんばかりにオーバーリアクションをする。
「また来年もみんなで花火ができたらいいな」
時羽が言うと、そこにいた全員が同意していた。
「でも、夏はあと2回あることは確定しているから、あと1回よりは感傷的にならなくて済んでいるよ」
「僕、色々調べて力になるから。だから、長生きしよう」
「死神堂の息子のセリフか!!」
2階の窓から桔梗が冷めた目でツッコミを入れる。桔梗のセリフはなんだか笑えた。
ここで岸からの花火のためになる雑学が披露される。
「花火の色ってどうやって鮮やかな色を出していると思う?」
「元素の種類によって色が違うんじゃないか?」
時羽は意外と物知りだ。
「紅色は炭酸ストロンチウム、緑色は硝酸バリウム、黄色は炭酸カルシウム。青色は酸化銅、銀色はアルミニウム、金色はチタン合金。かつては難しかったピンクや紫、水色やレモン色といった微妙な中間色も次々に作りだされているんだ」
「無駄に博識だな」
時羽は岸の知識に称賛と皮肉を込める。
「岸君ってすごい。知的オーラが半端ないよ」
雪月が目をきらきらさせる。
「花火大会の時に、「たまや」って掛け声かけるでしょ? あれってなんでだと思う?」
さらに岸からの問題だ。
「うーん、お店の名前とか?」
雪月は首をかしげながら考える。
「「たまや」は、江戸時代の花火業者の屋号「玉屋」に由来しているんだ。ちなみに「かぎや」っていう呼びかけもあるんだ。メジャーなのはたまやだと思うけれど。隅田川花火大会の原型である花火大会で、川の上流を「玉屋」、下流を「鍵屋」がそれぞれ担当し、二代花火師の競演が行われていたんだ。「たまや~」「かぎや~」は、この大会で彼らを応援するための掛け声が原点さ。その伝統が今も続いているということなんだよ。何気なく毎年見ているイベントにもいろんな歴史があるってことさ」
「岸は学校の勉強は嫌いだけれど、そういった雑学は好きだよな」
時羽はいつもノートを見せてと言われるが故の皮肉を言う。
「勉強って教科書に載っている事だけじゃないんだよね。少しでも知識をつけることが勉強で、教科書のことなんてこの世界のほんの一部だと思わない?」
「そう考えると勉強って実は楽しいのかもね。いつも義務的にやらされている感じがあるけれど。あ、そうそう。今日はみんなで食べられるマフィン作ってきたんだ。食べよう」
かわいくラッピングされた市販品さながらの出来栄えの手作りマフィンはバターの香りが食欲をそそる。
「やっぱり料理好きな家庭的な女子、素敵だな」
岸は恥ずかしげもなくストレートに褒める。時羽にはできない芸当だ。
おいしい時間と楽しい時間は心地いい。なぜそんなに心地いいのか時羽にはわからなかった。今まで一人のほうがずっと気楽で楽しいと思っていたし、人に合わせる苦痛を感じていないことが不思議だった。もしかしたら特殊な能力を持つという共有心がそう思わせているのかもしれないし、どこかで人と違うことに疲れていたのかもしれない。自分以外の人間に家業のことを隠さずに共有できることが信頼を生んだのかもしれない。
帰り道、岸と別れると必然的に時羽と雪月だけになる。送っていくという形になってしまうが、男として夜に女子一人を帰らせるのは心苦しい気持ちもあったので、自宅の下まで送る。
桔梗は気難しくそんなに話をしないけれど、少しずつ心を開いてくれていることは感じていた。そして、時羽自身も少しずつ心を開いていくような気持ちになっていた。はじめて他者を受け入れた瞬間でもあり、他者から受け入れられたという実感も伴っていた。
「ねぇ、時羽君、結構楽しんでるよね」
「そんなことはないけど」
「またまたぁ。私のことも好きになったでしょ?」
「べつに」
とっさにでた言葉はべつにだった。
「結構、友達としての好きっていう気持ちは見えていたよ」
「……」
時羽は友人として好きという気持ちを悟られたというだけで、何も言えなくなり、顔も赤くなる。まるで恋愛のほうの好きということがばれたかのようだ。ここが普通の男子と違う点で、時羽は人に心を開くこと自体がはずかしいことなのだった。さらに、相手に対していい印象を持っているということを知られることが、通常の人の好きな人がばれた時くらいの恥ずかしさらしい。これは、時羽基準だから、仕方がない。
雪月は少し大きな声で縁起でもないことを言う。
桔梗は顔をカーテンにうずめていたが、窓は開けていたので聞こえていただろう。
「線香花火は、風花ちゃんみたいだなって思うよ」
岸は感傷的な言葉を放つ。
「ええ? どっちかというと私って勢いのある持ち手花火とか打ち上げ花火系だと思ってたよ」
「打ち上げ花火系ってどういう人間だよ」
という時羽の突っ込みに、岸は苦笑いをした。
「美しくてはかないところが似ているってことかなぁ」
岸はきざったらしいセリフを平気で本人に言う。
「またまたぁ!!」
少し照れたのだろうか。雪月は隠すように冗談をやめてよ、言わんばかりにオーバーリアクションをする。
「また来年もみんなで花火ができたらいいな」
時羽が言うと、そこにいた全員が同意していた。
「でも、夏はあと2回あることは確定しているから、あと1回よりは感傷的にならなくて済んでいるよ」
「僕、色々調べて力になるから。だから、長生きしよう」
「死神堂の息子のセリフか!!」
2階の窓から桔梗が冷めた目でツッコミを入れる。桔梗のセリフはなんだか笑えた。
ここで岸からの花火のためになる雑学が披露される。
「花火の色ってどうやって鮮やかな色を出していると思う?」
「元素の種類によって色が違うんじゃないか?」
時羽は意外と物知りだ。
「紅色は炭酸ストロンチウム、緑色は硝酸バリウム、黄色は炭酸カルシウム。青色は酸化銅、銀色はアルミニウム、金色はチタン合金。かつては難しかったピンクや紫、水色やレモン色といった微妙な中間色も次々に作りだされているんだ」
「無駄に博識だな」
時羽は岸の知識に称賛と皮肉を込める。
「岸君ってすごい。知的オーラが半端ないよ」
雪月が目をきらきらさせる。
「花火大会の時に、「たまや」って掛け声かけるでしょ? あれってなんでだと思う?」
さらに岸からの問題だ。
「うーん、お店の名前とか?」
雪月は首をかしげながら考える。
「「たまや」は、江戸時代の花火業者の屋号「玉屋」に由来しているんだ。ちなみに「かぎや」っていう呼びかけもあるんだ。メジャーなのはたまやだと思うけれど。隅田川花火大会の原型である花火大会で、川の上流を「玉屋」、下流を「鍵屋」がそれぞれ担当し、二代花火師の競演が行われていたんだ。「たまや~」「かぎや~」は、この大会で彼らを応援するための掛け声が原点さ。その伝統が今も続いているということなんだよ。何気なく毎年見ているイベントにもいろんな歴史があるってことさ」
「岸は学校の勉強は嫌いだけれど、そういった雑学は好きだよな」
時羽はいつもノートを見せてと言われるが故の皮肉を言う。
「勉強って教科書に載っている事だけじゃないんだよね。少しでも知識をつけることが勉強で、教科書のことなんてこの世界のほんの一部だと思わない?」
「そう考えると勉強って実は楽しいのかもね。いつも義務的にやらされている感じがあるけれど。あ、そうそう。今日はみんなで食べられるマフィン作ってきたんだ。食べよう」
かわいくラッピングされた市販品さながらの出来栄えの手作りマフィンはバターの香りが食欲をそそる。
「やっぱり料理好きな家庭的な女子、素敵だな」
岸は恥ずかしげもなくストレートに褒める。時羽にはできない芸当だ。
おいしい時間と楽しい時間は心地いい。なぜそんなに心地いいのか時羽にはわからなかった。今まで一人のほうがずっと気楽で楽しいと思っていたし、人に合わせる苦痛を感じていないことが不思議だった。もしかしたら特殊な能力を持つという共有心がそう思わせているのかもしれないし、どこかで人と違うことに疲れていたのかもしれない。自分以外の人間に家業のことを隠さずに共有できることが信頼を生んだのかもしれない。
帰り道、岸と別れると必然的に時羽と雪月だけになる。送っていくという形になってしまうが、男として夜に女子一人を帰らせるのは心苦しい気持ちもあったので、自宅の下まで送る。
桔梗は気難しくそんなに話をしないけれど、少しずつ心を開いてくれていることは感じていた。そして、時羽自身も少しずつ心を開いていくような気持ちになっていた。はじめて他者を受け入れた瞬間でもあり、他者から受け入れられたという実感も伴っていた。
「ねぇ、時羽君、結構楽しんでるよね」
「そんなことはないけど」
「またまたぁ。私のことも好きになったでしょ?」
「べつに」
とっさにでた言葉はべつにだった。
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「……」
時羽は友人として好きという気持ちを悟られたというだけで、何も言えなくなり、顔も赤くなる。まるで恋愛のほうの好きということがばれたかのようだ。ここが普通の男子と違う点で、時羽は人に心を開くこと自体がはずかしいことなのだった。さらに、相手に対していい印象を持っているということを知られることが、通常の人の好きな人がばれた時くらいの恥ずかしさらしい。これは、時羽基準だから、仕方がない。
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