半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

響ぴあの

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エイト視点 保護者になる

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 俺の婚約者が、突然の交通事故で亡くなった。一人の女の子が泣いていた。正確に言うと泣くのを我慢していた。心が泣いているようだった。俺にできることはあるのか? 本当は娘になる予定だった人だ。

 線香のにおいの中で、彼女は喪失感に苛まれていた。好きな人を失ったという突然の悲しみは、もちろんだが、それ以上に目の前の、愛した女性の娘を放っておくことはできなかった。どうする?

 遺影を前にすると涙が流れた。はじめて心から愛して、結婚を決意した女性を失ったのだからな。それまで、俺は恋愛とは無縁の生活を送ってきた。漫画ばかり描いていたし、女性との接点はあまりなかった。亡くなった彼女が俺の担当になった。年上だからこその気配りと、天性の仕事のできる人で、心から尊敬した。彼女が、手作りのおじやを持参してくれた。徹夜明けで、締め切りに追われて疲れ切った俺の心を癒したのは、一杯のおじやだった。その時、彼女にプロポーズしたんだ。

 俺は、大学に入る前にプロデビューした。飛ぶ鳥を落とす勢いで、アニメ化、映画化され、貯金はある。ちょうど戸建てを買うことを決めていたので、彼女と住むために住宅を購入したのは事実だ。

 彼女は旦那さんを亡くして、女手一つで一人娘を育てていた。そんな苦労人の彼女を楽させたいと思っていた。出版社の仕事は結構きつい。時間も不規則で、仕事は山のようにある。俺みたいな濃いキャラクターの漫画家とうまくわたりあうのも、給料に不釣り合いな仕事だと思う。彼女の歳は40歳になろうとしていたので、歳の差は17歳といったところだ。

 年上が好きなわけではなく、美佐子さんだから好きになったんだ。その人の大切な一人娘は俺がなんとか育て上げたい。手を差し伸べてもいいだろうか。
 
「今日から俺がお前の父親だ。よろしくたのむぞ」

 引っ越しの手配、そして、学校の先生と打ち合わせだ。慣れない初心者マークの父親だが、少しでも力になりたい。

「あなた、誰ですか?」

 この娘、俺を警戒しているのか? そりゃそうだよな。でも、少しずつ信頼を得るために俺は歩み寄る。

「え? お母さんに聞いてない? お母さんと入籍予定だった、水瀬エイトって言うんだけど……」

「きいてないよ!!」

 嫌そうな顔をされている。やっぱり、警戒されているか。よし、これを見せれれば――

「ほら、これが証明書」
 婚姻届けを差し出す。これを出そうと思っていた矢先の交通事故。

「でも、私、再婚するなんて聞いてなかったんだけど……」
 少女は少し、ひかえめに質問してきた。

「実は、サプライズでって美佐子さんが言っていてさ。まだ、言ってなかったのか……」
 一応、状況を説明した。

「でも、おまえ、どうするんだ? 親戚とかいるのか?」

 たしか、美佐子さんの話だと、親戚とは縁を切ったとか、亡くなっていないとか……言っていたような。

「……いない」

「じゃあ、俺が面倒見てやるよ。俺の娘になる予定だったんだからさ」
 よし、父親らしく、男らしい一面を見せようじゃないか。
 
「あなたと二人っきりで生活なんて無理です」
 まずい、いきなりのお断り宣言か。

「俺んち広いから、大丈夫だって。それに、俺んちアシスタントや従業員がいるから、二人っきりなんて滅多にないしさ」
 とりあえず、家の広さでアピールしよう。

「アシスタント?」

「俺、漫画家なんだよね。1階は定食屋だし。だから、いつも誰かしら出入りしてるし、アニメ化と映画化で儲かったから、戸建てを買ったし、部屋もいっぱいあるし」

「何の漫画書いてるの?」

「少年雑誌で妖怪学園漫画書いているんだ」

「ペンネームは……?」

「水瀬エイト、本名も一緒だ」

「もしかして、妖怪学園エンマの作者様? 私、ファンなんです」

 俺の漫画のファンだったのか? なんだ、この瞳の輝きは!! 有名人に会った女子のまなざしだ。
 
「俺の家、部屋は10部屋くらいあるから、好きに使ってくれ、俺と住んだら後悔はさせねえ、料理も家事も任せとけ!! 家事料理全般の雑学を伝授してやる!!」
 そうだ、俺は料理も家事も得意だ。とっておきの家事の技を伝授しよう。

「じゃあ、中学を卒業するまでなら……。他に行くところないし。高校は全寮制を検討するから。お母さんの貯金はあるからお金はなんとかなるし」

「お父さんみたいなお兄ちゃんだと思ってくれ。よろしくな」

 何を遠慮してるんだか、意外とひかえめだな。大学卒業するまででもずっといてもかまわねーのに。それにしても、この歳で実の親を亡くすなんて心のケアをしないとな。俺も学生時代に同じ親を亡くした経験があるから、悲しみはよくわかる。

「あの、保護者の方ということでいいのでしょうか?」

 担任や教頭にまず、保護者として面倒を見ることをアピールしなきゃな。美佐子さんが亡くなって、まさか女子中学生と親子になるなんて。娘だけれど、だったわけで、だが、ということに―――。

 でも、定食屋の裏稼業を理解してもらえるかどうかだよな。従業員や俺の素性も含めて。正当な人間ではないなんて、普通理解しないだろうが、隠しておくのも難しいだろう。どう説明するか、俺は頭を悩ませていた。

「私がナナで、あなたがエイト。偶然にしてはできすぎた隣り合わせた数字だよね。だから、家族になることは決まっていたのかも」

「俺が六郎や八郎でもその理屈はとおるんじゃないか?」

「きっと家族になる運命だと思うの。よろしくお願いします」
 娘になる目の前の少女は実に澄んだ目をしている。

「こちらこそ、よろしく」
 二人がはじめて握手をした瞬間だった。
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