半妖死神の定食屋は怨みを晴らす

響ぴあの

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園長の恋

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 夕方5時ごろに幼稚園には不似合いなスーツ姿の女性がやってきた。

「この前のこども食堂の決算報告書と活動報告書をもってきたわ」

 NPO法人代表であり園長レオの幼馴染であり婚約者である春日小春だ。ハイヒールの音がやけに響く。

 素っ気ない冷めた瞳で、椅子に座る園長のレオを見下す。鋭いまなざしを向けた。とても幼なじみに対する態度とは思えない冷たいまなざしだ。レオは申し訳ないといつも心の中で思っていた。

 いつの間にやら小春との距離は歳を重ねるたびに遠くなるばかりだった。学業に励む小春とバイトをはじめたレオの距離は大学生になると決定的に遠のいた。絶対に小春に嫌われているとレオは感じていた。

 しかし、親が小さなときに交わしたという許嫁の契約だけが残り、小春を苦しめているのではないだろうかとずっと思い悩んでいた。レオは小春に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。本当は好きな人がいるのかもしれない。そんなちっぽけな契約で小春を縛り付けるのは、本当に申し訳なかった。しかも、小春の家はこの辺りでは有名な地主であり資産家だ。ある程度広い土地を所有していて、父親が幼稚園経営以外にも事業をしているとはいえ、レオの家のほうが裕福度は低い。

 思い切って、ずっと思っていたことをレオは口にした。

「許嫁の話だが、なかったことにしないか?」

 レオは、小春のために解放してあげたいと思った。自由に恋愛をしてほしい。小春は美人なのに一度も彼氏を作ったという話も聞かない。そろそろ適齢期になったわけだし、好きな男くらいいるだろう。

「……どういうこと? 本気で好きな女性でもできたの?」

「おまえにも自由に恋愛してほしいと思っているんだよ。好きな奴はいないのか?」

「……いるけど」

「そうか、じゃあ、結婚の話はなかったことにしよう。親に話しておくよ。今時おかしいだろう。親が幼少時に勝手に結婚を決めるなんて」

 小春はレオを睨みつける。いつもより機嫌が悪いのだろうか。

「わかったわ。結婚の話は白紙にしましょう」

 小春は淡々と事務的な返事をする。
 やっぱり嫌われているんだな。レオは確信していた。

「レオは私が嫌いでしょ?」
 意外な質問を投げかける小春。

「むしろ俺のことを嫌ってるだろ。いっつもツンとした態度で冷たいし」
 レオは常日頃感じていることを正直に小春にぶつける。

「別に嫌ってないけど、許嫁のことはなかったことにしたいのでしょ?」
 レオは本当の思いを伝えた。

「小春をそんなことで束縛したくなかったんだよ。本当に好きな相手と結婚してほしいし、そんな親の約束のせいで嫁に行けなかったら申し訳ないし」

「私が、親のいいなりになるタイプだと思う?」
 レオは少し考えた。小春は親の反対を押し切って1人暮らしをしたり、進路を決めていたような気がする。親のいいなりにはならないタイプだ。じゃあなんで、結婚相手のことだけいいなりになっているのだろうか。

「私たち、子ども食堂の事業くらいしかつながりがなくなっちゃうね」

「そういえば、なんで俺の写真ばっかり入っているんだよ」
 レオは不思議な顔をして報告書と一緒に入っていた写真のデータを確認した。前回の子ども食堂のイベントの写真が無造作に貼られていた。ふと目をやると、レオが映っている写真が多いことに困惑する。偶然かもしれないが、やたらレオがアップで映っている写真が何枚もあったことに疑問を持った。

「別に……子ども食堂の様子を撮ってだけで……」
 少し小春が動揺しているようだ。
 子ども食堂の様子というよりは、レオの様子を撮ったと言ったほうが的確な感じがする。レオが気づいていないときに、いつのまにか撮られているといった写真が多いのは事実だ。

「ほんと馬鹿ね。私が好きなのはあなたよ」
「……」
 そこまではっきり言われると赤面することしかできない。

 レオは、小春のことを好きなのかと聞かれると、嫌われていると思っていたから冷たく接していただけだという事実に気づく。本当は小春と一緒にいたいと思っている自分がいた。だから、大学も同じ大学に進学して、サークルも同じところに入った。レオは、結局一番重要な小春への気持ちから逃げていたのかもしれない。

「俺は、小春への気持ちから逃げていただけかもしれない。親のいいなりだから嫌っていうのはただの口実で、本当は……」

「じゃあ、子ども食堂の計画以外でも連絡とりましょうか」
「もちろん、俺は小春のことが好きだから」

 のどにつかえたものがうまく吐き出せた。本当の気持ちが通じ合った瞬間だった。お互いに長い時間を共有していても本当に気持ちが通じるわけではない。全てはタイミングとほんの少しの勇気だ。

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