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A01運行:井関、樺太へ
0009A:女子供に囲まれて、ボクらは真実の手がかりを得る。
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奥鈴谷から井関たちはみすぼらしいガソリンカーに乗り込んだ。運転士はなんと中年の女性で、それに少々驚きつつ彼らは車中の人となる。
一両編成の列車はうんざりするほどの急坂をのらりくらりと越えて、瀧ノ沢駅へ到着した。
彼らを出迎えてくれたのは、小さな少年だった。これもまた、彼らをびっくりさせた。
「調査の人だよね。まってたよ」
総裁はこんなところにも話を通していたらしく、向こうは既に資料を用意していた。井関はちょっとバツが悪い顔になりながら、駅舎の中に入っていった。
「何から知りたい?」
彼はなんと駅長だった。信じられないことだが、だが彼はそれが当たり前のことだとうそぶいていた。そう言われてしまっては仕方がないので、とりあえず当時の状況から尋ねた。
だが、その答えはともかく端的だった。
「別に、なにも」
これを聞いて、井関はこの少年からは何も得られないと確信した。しかたがないので、少年が持っていた資料を受け取って、それを自ら調べることにした。
「そりゃなんだ」
「事故当時の変電所の記録だな。しめたぞ、これで当時の状況がわかる!」
「どういうことだ?」
小林が抱いた疑問に、水野が簡潔に答えた。
「実は、回生ブレーキはその使用時に変電所に記録が残るんです。なので、その記録を見れば、その時どのようにブレーキが使われていたかある程度わかるんです。……もっとも、それを読み解くのは至難の業ですが」
「いや、ボクにはわかるぞ」
水野が話しているそばで、井関は資料にかじりついていた。
「なんでわかるんだい」
「この機関車を設計したのはボクだ」
井関はそれだけ言ってそのデータと格闘をはじめる。一つ一つ数字を追っていきながら、そしてしばらくして結論を出した。
「現場の状況と合わせると、列車はこの瀧ノ沢駅付近から事故現場まで、いっさい運転操作がされていない」
その答えはあまりにも衝撃的で、水野は思わず笹井の方を見てしまった。
「ええと、つまりどういうことだ?」
笹井は未だ状況を呑み込めていない。それは小林も同様で、唇を細かく震わせながら歪な声を出すことしかできない。
「つまり、何らかの原因で機関士の意識が消失したということ、でいいのか?」
恐る恐るといった様子の彼の声は、水野によって肯定された。
「そう言うことで間違いないでしょう。問題は、なぜ意識を失ったかということですが……」
そこで水野は再び笹井の顔を見る。その顔は、みるみるうちに気色ばむ。
「まさか、本当にテロか?」
口に出して、笹井はハッとする。慌てて口を抑えて、そのまま顔を青くさせた。
「ちょっと待ってください。なら、大変なことになりますよ」
「どういうことだ? 水野」
水野もまた何かに気が付いたようで、その顔色をますます悪くさせる。
「機関車は通常、二人一組での運転であることは、先輩方もご存じのはずです」
「もっとも。主にハンドルを握る機関士と、その補助をする機関助士……。おかしいぞ」
笹井と水野の顔色が伝染していくように、井関の顔色もまた蒼白となる。そして震える指で資料をめくりだした。
「機関助士には、万が一機関士が前後不覚に陥った際に列車を安全に停止させる義務があります。では、その時機関士は何をしていたのですか?」
「おかしい、おかしいぞ。どこにも記載がない。それどころか、機関助士の消息まで不明だ。まさか……!」
「機関助士が、機関士を殺した?」
小林はそう口にして、驚いて水野の方を見る。
「まだそうと決まったわけではありません。ですが、これは明らかにおかしい」
「もし我々の想像通りだとしたら、国鉄は身内にゲリラを抱えていたということになる。そんなことは許されないぞ」
小林は震えながらそう口走る。
「とにかく、まだまだ情報が足りない。さあ、どうやって情報を集める?」
「事故列車には車掌が乗車していたはずだ。車掌は常に列車を監視しているはずだから、何か見ているかもしれない」
「その車掌はいまどこに?」
井関は震える指で資料をめくる。その答えは明確だった。
「この豊真線の終点、真岡だ」
一両編成の列車はうんざりするほどの急坂をのらりくらりと越えて、瀧ノ沢駅へ到着した。
彼らを出迎えてくれたのは、小さな少年だった。これもまた、彼らをびっくりさせた。
「調査の人だよね。まってたよ」
総裁はこんなところにも話を通していたらしく、向こうは既に資料を用意していた。井関はちょっとバツが悪い顔になりながら、駅舎の中に入っていった。
「何から知りたい?」
彼はなんと駅長だった。信じられないことだが、だが彼はそれが当たり前のことだとうそぶいていた。そう言われてしまっては仕方がないので、とりあえず当時の状況から尋ねた。
だが、その答えはともかく端的だった。
「別に、なにも」
これを聞いて、井関はこの少年からは何も得られないと確信した。しかたがないので、少年が持っていた資料を受け取って、それを自ら調べることにした。
「そりゃなんだ」
「事故当時の変電所の記録だな。しめたぞ、これで当時の状況がわかる!」
「どういうことだ?」
小林が抱いた疑問に、水野が簡潔に答えた。
「実は、回生ブレーキはその使用時に変電所に記録が残るんです。なので、その記録を見れば、その時どのようにブレーキが使われていたかある程度わかるんです。……もっとも、それを読み解くのは至難の業ですが」
「いや、ボクにはわかるぞ」
水野が話しているそばで、井関は資料にかじりついていた。
「なんでわかるんだい」
「この機関車を設計したのはボクだ」
井関はそれだけ言ってそのデータと格闘をはじめる。一つ一つ数字を追っていきながら、そしてしばらくして結論を出した。
「現場の状況と合わせると、列車はこの瀧ノ沢駅付近から事故現場まで、いっさい運転操作がされていない」
その答えはあまりにも衝撃的で、水野は思わず笹井の方を見てしまった。
「ええと、つまりどういうことだ?」
笹井は未だ状況を呑み込めていない。それは小林も同様で、唇を細かく震わせながら歪な声を出すことしかできない。
「つまり、何らかの原因で機関士の意識が消失したということ、でいいのか?」
恐る恐るといった様子の彼の声は、水野によって肯定された。
「そう言うことで間違いないでしょう。問題は、なぜ意識を失ったかということですが……」
そこで水野は再び笹井の顔を見る。その顔は、みるみるうちに気色ばむ。
「まさか、本当にテロか?」
口に出して、笹井はハッとする。慌てて口を抑えて、そのまま顔を青くさせた。
「ちょっと待ってください。なら、大変なことになりますよ」
「どういうことだ? 水野」
水野もまた何かに気が付いたようで、その顔色をますます悪くさせる。
「機関車は通常、二人一組での運転であることは、先輩方もご存じのはずです」
「もっとも。主にハンドルを握る機関士と、その補助をする機関助士……。おかしいぞ」
笹井と水野の顔色が伝染していくように、井関の顔色もまた蒼白となる。そして震える指で資料をめくりだした。
「機関助士には、万が一機関士が前後不覚に陥った際に列車を安全に停止させる義務があります。では、その時機関士は何をしていたのですか?」
「おかしい、おかしいぞ。どこにも記載がない。それどころか、機関助士の消息まで不明だ。まさか……!」
「機関助士が、機関士を殺した?」
小林はそう口にして、驚いて水野の方を見る。
「まだそうと決まったわけではありません。ですが、これは明らかにおかしい」
「もし我々の想像通りだとしたら、国鉄は身内にゲリラを抱えていたということになる。そんなことは許されないぞ」
小林は震えながらそう口走る。
「とにかく、まだまだ情報が足りない。さあ、どうやって情報を集める?」
「事故列車には車掌が乗車していたはずだ。車掌は常に列車を監視しているはずだから、何か見ているかもしれない」
「その車掌はいまどこに?」
井関は震える指で資料をめくる。その答えは明確だった。
「この豊真線の終点、真岡だ」
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