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A01運行:井関、樺太へ
0011A:偉大なる戦果を前に、陸軍には恐縮することしかできない。
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「みなさん、テロが起きました。しばらく列車は動きません」
どうしようもなくなって真岡駅まで帰ってきた井関達を出迎えたのは、絶望的なアナウンスといつもの陸軍人だった。
「どういうことですか」
「そのままの意味です。この近くでゲリラが出まして、現在警察と猟友会が捜索を続けていますが依然として処理されていないとのことです」
日野勝という陸軍人は、まるで今日の天気でも報告するかのような気安さでそう告げた。
「まさか、俺たちの捜査を邪魔しに来たのか?」
「わからないがともかくここから離れた方がいいには違いない。しかし、列車が動いていない……」
「ご安心ください。皆さんの安全は、我々陸軍が必ず確保しますから」
辺りはもう真っ暗になって、降りしきる雪はどんどんと強くなっている。手が、脚が、言うことを聞かなくなってくる。
「……とりあえず、待合室に行きましょうか」
震えるひ弱な官僚たちを見て、日野は少しのため息と共に案内をした。
「それで、調査のほうはどうですか」
「ええ。現在、機関助士の消息を調べているところです」
そう言うと、日野は面白そうな顔をした。
「ほう、機関助士ですか。これまたどうして」
「機関助士には、機関士に何らかの異常が発生した際に列車の安全を確保する義務があります。しかし、彼はそれを怠った。……か、若しくは故意にこの状況を作り出したか」
「なるほど……。それで、その消息を追っているわけですね」
ふむふむ、と納得したような表情の後、日野はこんなことを言い出し始めた。
「しかし、列車の側に物理的な不具合があった可能性は、もうないのでしょうか?」
「と、言いますと?」
「ああいえ、他意はありません。ただ、あんな残骸からどんな証拠を掘り起こせるのかと、少々興味が湧きまして」
日野という男は、資料によれば鉄道聯隊の人間であるようだった。なるほど、鉄道に詳しいわけだ、と井関は一人納得する。
「ええ。損傷が激しいように見えて、ブレーキ周りはしっかりと残っていましたから。それらのブレーキの動作に、問題はないようでした」
「ほう、そうでしたか。やはり国鉄は、なんだかんだと言いながらも頼りになりますな!」
日野がそう笑うものだから、井関はちょっと冷や汗を垂らした。というのも、国鉄はつい昨年に、自らの不手際で陸軍の基地を焼いたばかりだからだ。
「いやはや、陸軍サマにそう言っていただけるとは……」
寒さとはまた違う震えを感じながらも井関がそう口を滑らすと、日野は更に笑顔になる。
「EF16というのは素晴らしい機関車ですな。今まで一度に100tほどしか輸送できなかったものが、今は一挙に570t。約6倍近い輸送力を達成できました。これを革命……失礼、偉大と言わずしてなんと言いましょうか!」
「ええ……まあ……、我々もがんばりましたから」
「そうでしょうとも。いやはや、我が陸軍が身を切って国鉄さんに予算を献じた甲斐が有ったというものです。こんな素晴らしい機関車を、新しく造ってくださるとは」
日野という男は快闊な人間のようで、その言葉には一切の嫌味が含まれていないようだった。
だが、国鉄官僚のエリートたちは、その言葉を聞いて震えあがることしかできなかった。
井関達がいろいろな意味で震えあがっているとき、待合室の扉が開いた。そこには一人の少女が立っていた。
「オジサンたち、小沼へ帰るんだろう。貨物列車でよければ、連れてってあげようか」
彼女は雪を頭にのせたまま、うつろな笑みでそう言った。それは井関達にとって、願っても無い申し出だった。
どうしようもなくなって真岡駅まで帰ってきた井関達を出迎えたのは、絶望的なアナウンスといつもの陸軍人だった。
「どういうことですか」
「そのままの意味です。この近くでゲリラが出まして、現在警察と猟友会が捜索を続けていますが依然として処理されていないとのことです」
日野勝という陸軍人は、まるで今日の天気でも報告するかのような気安さでそう告げた。
「まさか、俺たちの捜査を邪魔しに来たのか?」
「わからないがともかくここから離れた方がいいには違いない。しかし、列車が動いていない……」
「ご安心ください。皆さんの安全は、我々陸軍が必ず確保しますから」
辺りはもう真っ暗になって、降りしきる雪はどんどんと強くなっている。手が、脚が、言うことを聞かなくなってくる。
「……とりあえず、待合室に行きましょうか」
震えるひ弱な官僚たちを見て、日野は少しのため息と共に案内をした。
「それで、調査のほうはどうですか」
「ええ。現在、機関助士の消息を調べているところです」
そう言うと、日野は面白そうな顔をした。
「ほう、機関助士ですか。これまたどうして」
「機関助士には、機関士に何らかの異常が発生した際に列車の安全を確保する義務があります。しかし、彼はそれを怠った。……か、若しくは故意にこの状況を作り出したか」
「なるほど……。それで、その消息を追っているわけですね」
ふむふむ、と納得したような表情の後、日野はこんなことを言い出し始めた。
「しかし、列車の側に物理的な不具合があった可能性は、もうないのでしょうか?」
「と、言いますと?」
「ああいえ、他意はありません。ただ、あんな残骸からどんな証拠を掘り起こせるのかと、少々興味が湧きまして」
日野という男は、資料によれば鉄道聯隊の人間であるようだった。なるほど、鉄道に詳しいわけだ、と井関は一人納得する。
「ええ。損傷が激しいように見えて、ブレーキ周りはしっかりと残っていましたから。それらのブレーキの動作に、問題はないようでした」
「ほう、そうでしたか。やはり国鉄は、なんだかんだと言いながらも頼りになりますな!」
日野がそう笑うものだから、井関はちょっと冷や汗を垂らした。というのも、国鉄はつい昨年に、自らの不手際で陸軍の基地を焼いたばかりだからだ。
「いやはや、陸軍サマにそう言っていただけるとは……」
寒さとはまた違う震えを感じながらも井関がそう口を滑らすと、日野は更に笑顔になる。
「EF16というのは素晴らしい機関車ですな。今まで一度に100tほどしか輸送できなかったものが、今は一挙に570t。約6倍近い輸送力を達成できました。これを革命……失礼、偉大と言わずしてなんと言いましょうか!」
「ええ……まあ……、我々もがんばりましたから」
「そうでしょうとも。いやはや、我が陸軍が身を切って国鉄さんに予算を献じた甲斐が有ったというものです。こんな素晴らしい機関車を、新しく造ってくださるとは」
日野という男は快闊な人間のようで、その言葉には一切の嫌味が含まれていないようだった。
だが、国鉄官僚のエリートたちは、その言葉を聞いて震えあがることしかできなかった。
井関達がいろいろな意味で震えあがっているとき、待合室の扉が開いた。そこには一人の少女が立っていた。
「オジサンたち、小沼へ帰るんだろう。貨物列車でよければ、連れてってあげようか」
彼女は雪を頭にのせたまま、うつろな笑みでそう言った。それは井関達にとって、願っても無い申し出だった。
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