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A02運行:特命掛、結成

0024A:ボクらに言われても、どうにもできんよ。

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「警察の話は、そこそこ正しいらしいな」

 四人は警察を後にして、図書館に行っていた。刑事が語った事の真相を確かめるためにだ。

「さすがは石炭王国樺太の図書館だったな。石炭の論文が腐るほど出てきた」

「だが、俺には何が書いてあるかさっぱりわからなかったぞ。なんだメタンって」

「君はそれでも本当に東京高校の卒業生か!?」

 人気のない道でそう軽口を叩きながら、四人はなんとなく真実に至った。

「つまり、品質の良い石炭は、火が点きにくいが良く燃える」

「その逆に、品質が悪いと、火が点きやすいがあまり燃えない、と」

「では、真岡で使っていた石炭は、品質が悪い石炭だったのか?」

 笹井が井関に尋ねるが、井関は首を横に振るばかりだ。

「知らないヨ。ボクは電気が専門だ」

「電気は石炭で起こすだろう」

「それは電気局の人間に言っておくれ。僕は車輛局だ」

 頼みの井関がこの調子でラチがあかない。だから彼らはこうして現場までやってきたというわけだ。

「それで、どうなんだい。なにかわかるか?」

「うーん、ひどく燃えたということしかわからんね」

「おっと、ここに石炭があるぞ」

 小林は足元に落ちていたそれを拾い上げる。真っ黒に輝くそれは、運良く燃えずにすんだものであるようだった。

「で、これは品質がいいのかい。悪いのかい」

「そんなことわかるはずがないだろう。ボクらは官僚だよ?」

 ボクらの仕事は官庁の中で書類を精査することであって、現場に出向いてチマチマと物証をそろえることではない。言外にそんな言葉を滲ませながら、井関は無くれた表情を見せる。

「それは褐炭かったんだよ」

 後ろから声をかけられる。振り向くと、井関と同じようにむくれた顔をした国鉄職員が建っている。

「褐炭というのは?」

「最低品質の石炭さ。とんでもなく燃えやすい」

 答えが向こうから歩いてきた。これを聞いて井関はニコニコ笑顔になる。

「しめた! これで原因が分かったぞ。やはり自然発火だ!」

「ふざけるんじゃないよ! そんなわけないだろう!」

 職員は烈火のごとく怒りだす。

「そうだぞ井関。我々はそれを否定するために真岡くんだりまで来たのに、結論がそれじゃダメじゃないか」

「しかし、今の時点ではこれが真実に思える」

「確かに。そして、真実の尊さを我々は思い知ったばかりだ」

「そろいもそろって、国鉄上層部にはバカしかおらんのか!」

 職員は雪上で地団駄を踏む。とはいえ……と、井関たちは顔を見合わせることしかできない。

「そこまで言うからには、アンタは何か知っているのか」

「おうとも。イイかよく聞け、この貯炭場には、そもそも褐炭は存在しないはずなんだ」

「どういうことだ?」

「そのままの意味だ。ここには、無煙炭と瀝青炭のブレンド炭が詰まれている予定だった!」

 そう言われても、井関はピンとこない。

「つまり、どういうことだ?」

 などと言って、職員を大いに呆れさせてしまった。もうこうなると、彼は顔面に青筋を立てて大声を出すしかなくなる。

「だから! ここには高品質炭しかあっちゃいけないはずなんだ!」

 なんでこの程度のアタマの連中がエリートなんだ……。と職員がぶつくさ言っているのを前にしながら、井関は愕然とした。

「ちょ、ちょっとまってくれ。じゃあなんでここに低級炭があるんだ?」

「それが分からんから揉めとるんだろう。お前さんたち本当にエリートか?」

 職員は怒髪天を突く勢いでそうまくしたてる。ここへきて、井関達は訳が分からなくなってしまった。

「ちなみに、アンタは何が原因だと思っているんだ?」

「もちろん、パルチザンのシワザだと思っておるよ」

「じゃあ、パルチザンはどうやって火災を起こしたんだい?」

「大方、こちらへ送る石炭をすり替えたんだろう。こんな大がかりなことをするなんて、ふてぇ野郎だ!」

 彼はそれから、まるで火を吐くかの如く罵倒を積み重ねるばかりで話にならなかった。

「どうも、参考にします」

 井関はそう言って話を切り上げた。それは三人から見て、とても英断であるように思えた。
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