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A04運行:特命係、北海道を征く

0043A:わは七戸の出だばっても家は弘前だ

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 職員は列車でそのまま旭川へ帰るらしかったが、4人は事故現場へ寄り道することにした。

「興……。この駅はなんて読むんだい?」

「おこっぺ」

「は?」

「おこっぺ駅だよ」

 小林はぽかんとしている。笹井は横で吹き出した。

「アイヌ語か」

「だろうね。詳しくは知らないが」

「井関が言うと東北のなまりに聞こえるなあ」

 4人は興部駅おこっぺにたどり着いた。そこは小さな運行拠点であるらしく、大勢の鉄道マンがせわしなく働いている。
 鉄道車両もここにはいくつも動いていて、小さな駅とは考えられないほどだった。

 資料によれば、ここに事故車両が収容されているらしい。水野は手近にいた一人に声をかける。

「すみません、ちょっとよろしいですか?」

 その国鉄マンは初老のオヤジだった。彼は振り向いた瞬間、ギョッとした顔をして逃げ出してしまう。

「あれまあ」

「どういうことだろう?」

「他の人間にも声をかけてみよう」

 水野は、今度は若い人間に声をかけてみた

「すみません。本庁の人間ですが」

「東京の方が、どうもお疲れ様です」

 今度は、普通に応対してくれた。そんな当たり前のことに安堵しながら、水野は質問を続ける。

「最近ここらで事故があったと聞きまして。詳しくお話をお聞かせ願えないかと」

「ああ、それでしたら……」

 若者が何かを話そうとしたとき、奥から鋭い怒鳴り声が飛んでくる。

「オイ兵藤! 東京の人間に余計な事しゃべるんじゃねえ!」

 若者は震えあがって、そのままどこかへ飛んで行ってしまった。水野はその顔を怒りで満たして、声の主の方へ食って掛かりに行こうとする。井関はその肩をどうどうと抑えると、一人で彼の下へ向かった。

「おいそがすいどご申し訳ねんだけんども、わんつか話ば聞いてけろ」

「おめ、東北とうほぐの出かい。どこさね」

七戸すちのへだ」

「おめ七戸か。わは八甲田挟んだ隣だ」

「弘前か。こりゃ明治の頃はコトだ」

 2人の言葉はどんどんエスカレートしていき、3人には聞き取れない会話になっていく。そのうちに、2人の間から笑い声が漏れ始めた。

「おい井関、なんの話をしているんだ」

 しびれを切らした笹井が耳打ちする。井関は笑顔で答えた。

「この人は七戸の出身で、わは弘前の出身だはんで、八甲田事件のころは大変だったねって」

「??? なんて?」

「だがら、この人はわらはんどだったから覚えてねげど、叔父がそれでゆび取れたって言ってて、わは生まれる前に親戚が死んでまったって」

「お、おお。そうかそうか」

 もはや井関の言葉すら笹井には理解できなかった。そして井関は彼に向き直る。すると彼は、一転申し訳なさそうな顔になった。

「おめが悪い奴じゃないってことはわかった。すたばって、わんどおれたちだって意地悪して何も話さないわけじゃなんだ」

「そうか」

「んだ。申し訳ねど、構内は自由に見て回っていいから、それで勘弁してけろ」

「じゃあ、ちょっと見させてもらうよ」

 彼は頭を下げて去っていった。

「なにやら訳アリ、という感じだね」

「そうだね。じゃあ井関、どこから見て回るかい?」

 小林が水を向けると、井関はある方面を指さした。

「ボクは、あれが気になるかな」

 そこには、”C13”と書かれた機関車が、鎮座していた。
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