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A04運行:特命係、北海道を征く
0046A:ここにあの事件の関係者がいたらどうするつもりだったんだね
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井関はそのまま鍛冶職人たちに連れていかれ、故障した貨車の方へ行ってしまった。3人もそこについていこうとしたとき、井関が突拍子もない声を上げる。
「ええ!? なんでこうなってるんだ!?」
その声に呼応するかのごとく、あちらこちらから職人たちが集まってきてはアーでもないコーでもないと専門的な話を始める。
3人はとうとうそこへ割って入る機会を失い、立ち尽くした。
「すまねえが、ちょっとこっちも見てくれねえか」
ほかの職員にも声をかけられる。見ると、彼は機関士の用だった。
「どんなご用件でしょうか?」
「車両点検の実施方法についてちょっと相談が……」
機関士はそう言いかけてから、水野に怪訝な目を向けた。
「お兄ちゃん、そういうのわかる?」
「ええ。私は運転局の人間ですので、むしろ専門で……」
水野がそう口にした瞬間、盛り上がっていた職場内がシンと静まり返る。
「う、運転局ぅ!?」
機関士がそう声を上げた瞬間、騒然とする。誰かが叫んだ。
「おいバカ! 丁重にもてなせ!」
「運転局の人間だ! タダでは帰すなよ!」
機関士や車掌たちがそう口々に言い合いながら集まってきて、そして急にへりくだり始める。
「これはこれは大変な失礼を……。ささ、センセイ、こちらです……」
彼もまた職員に連れられてどこかへ行ってしまった。
そうなると、残されたのは笹井と小林の二人である。
彼らは共に技術屋ではないからして、井関の事柄に口を突っ込むことができず。
また運転屋でもないからして、水野の事柄にも口をはさめず。彼らの活躍を、ただ呆けて見守ることしかできない。
そのうち、職場の一人がやってきて、気の毒そうに話しかけてきた。
「……それで、君たちはなんかできることはないの」
「オイ、大変だ!」
喧騒の中、一人の職員が職場に走りこんできた。彼はこの騒がしさをものともしないほどの大声で危急を知らせるものだから、否が応でも彼に視線が集まる。
「何があった」
職場の親玉が彼を問い質す。すると、息も絶え絶えに緊急事態が告げられた。
「今から、大蔵省と会計検査院がやってきます……!」
そう言うなり、彼はその場で倒れてしまった。
「……まずいぞ、機関車を隠せ!」
一瞬の間をおいて、職場は騒然となる。井関も水野も事の重大さを思い知り、今までの話題をほっぽり出して右往左往としだした。
職員らは―――そこに井関も水野も混ざって―――、えいさこらさと今しがた直したばかりの機関車を山に捨てようと動かし始めた。
「おおい、二人とも手伝ってくれよ!」
彼らがそんなことを言い出した時、笹井はよく通る野太い声で一喝した。
「落ち着き給え!」
彼の一撃はすさまじく、恐慌状態に陥っていた職場がまたしてもシンと静まり返る。小林はその中で、堂々と胸を張った。
「まったく、君たちは大蔵省との闘いを知らんのか」
「まあ仕方あるまい。我々が戦争の仕方を教えてやろう」
二人はニヒルな笑みを浮かべながら中央へ躍り出た。明かり取りから差し込む陽光が、ホコリと共に彼らを照らす。
「オイオイ、さっきまでボサーっと立ち尽くしていたデクノボーに、何ができるだって?」
一人がそう言うと、職員たちは怪訝そうなまなざしを二人に向ける。
だが、それに臆する彼らではない。彼らは依然として堂々たる佇まいで君臨している。
「俺は職員局職員課、小林文雄」
「ワシは総裁連絡室連絡員、笹井浩二」
「「ずっと大蔵省と闘い続けた我々だ。この程度のこと、造作もない」」
まるで、時代劇の口上のような見事な見得を、彼らは切って見せた。途端に、彼らは口をあんぐりと開ける。
「職員、局?」
「連絡室って、まさか……」
忘れてはならない。彼らはエリートなのだ。技術に明るい井関を、有能で知識も豊富な水野を、一瞬で置いてけぼりにして昇進街道をまっしぐらに進んでいった、紛れもない特急組の先頭車両なのである。
「内務省官僚を、舐めるんじゃないよ」
「黙ってワシらについてこい、戦争じゃあ!」
ときの声が上がる。井関もこぶしを突き上げ、大声で叫んでいる。久しぶりに、親友の”まともな”姿を見て、井関はうれしくってぴょんぴょん飛び跳ねる。
「汚いことをさせたら日本一の君たちがやっと帰ってきた……」
「先輩、内務省をダマクラかして予算ブン取ったときより良い顔してます!」
褒めているのか貶しているのかよくわからない声を無視して、笹井はより一層の大声を上げた。
「敵はァ、赤坂大蔵大臣邸! 大蔵省を叩き潰す!」
「ええ!? なんでこうなってるんだ!?」
その声に呼応するかのごとく、あちらこちらから職人たちが集まってきてはアーでもないコーでもないと専門的な話を始める。
3人はとうとうそこへ割って入る機会を失い、立ち尽くした。
「すまねえが、ちょっとこっちも見てくれねえか」
ほかの職員にも声をかけられる。見ると、彼は機関士の用だった。
「どんなご用件でしょうか?」
「車両点検の実施方法についてちょっと相談が……」
機関士はそう言いかけてから、水野に怪訝な目を向けた。
「お兄ちゃん、そういうのわかる?」
「ええ。私は運転局の人間ですので、むしろ専門で……」
水野がそう口にした瞬間、盛り上がっていた職場内がシンと静まり返る。
「う、運転局ぅ!?」
機関士がそう声を上げた瞬間、騒然とする。誰かが叫んだ。
「おいバカ! 丁重にもてなせ!」
「運転局の人間だ! タダでは帰すなよ!」
機関士や車掌たちがそう口々に言い合いながら集まってきて、そして急にへりくだり始める。
「これはこれは大変な失礼を……。ささ、センセイ、こちらです……」
彼もまた職員に連れられてどこかへ行ってしまった。
そうなると、残されたのは笹井と小林の二人である。
彼らは共に技術屋ではないからして、井関の事柄に口を突っ込むことができず。
また運転屋でもないからして、水野の事柄にも口をはさめず。彼らの活躍を、ただ呆けて見守ることしかできない。
そのうち、職場の一人がやってきて、気の毒そうに話しかけてきた。
「……それで、君たちはなんかできることはないの」
「オイ、大変だ!」
喧騒の中、一人の職員が職場に走りこんできた。彼はこの騒がしさをものともしないほどの大声で危急を知らせるものだから、否が応でも彼に視線が集まる。
「何があった」
職場の親玉が彼を問い質す。すると、息も絶え絶えに緊急事態が告げられた。
「今から、大蔵省と会計検査院がやってきます……!」
そう言うなり、彼はその場で倒れてしまった。
「……まずいぞ、機関車を隠せ!」
一瞬の間をおいて、職場は騒然となる。井関も水野も事の重大さを思い知り、今までの話題をほっぽり出して右往左往としだした。
職員らは―――そこに井関も水野も混ざって―――、えいさこらさと今しがた直したばかりの機関車を山に捨てようと動かし始めた。
「おおい、二人とも手伝ってくれよ!」
彼らがそんなことを言い出した時、笹井はよく通る野太い声で一喝した。
「落ち着き給え!」
彼の一撃はすさまじく、恐慌状態に陥っていた職場がまたしてもシンと静まり返る。小林はその中で、堂々と胸を張った。
「まったく、君たちは大蔵省との闘いを知らんのか」
「まあ仕方あるまい。我々が戦争の仕方を教えてやろう」
二人はニヒルな笑みを浮かべながら中央へ躍り出た。明かり取りから差し込む陽光が、ホコリと共に彼らを照らす。
「オイオイ、さっきまでボサーっと立ち尽くしていたデクノボーに、何ができるだって?」
一人がそう言うと、職員たちは怪訝そうなまなざしを二人に向ける。
だが、それに臆する彼らではない。彼らは依然として堂々たる佇まいで君臨している。
「俺は職員局職員課、小林文雄」
「ワシは総裁連絡室連絡員、笹井浩二」
「「ずっと大蔵省と闘い続けた我々だ。この程度のこと、造作もない」」
まるで、時代劇の口上のような見事な見得を、彼らは切って見せた。途端に、彼らは口をあんぐりと開ける。
「職員、局?」
「連絡室って、まさか……」
忘れてはならない。彼らはエリートなのだ。技術に明るい井関を、有能で知識も豊富な水野を、一瞬で置いてけぼりにして昇進街道をまっしぐらに進んでいった、紛れもない特急組の先頭車両なのである。
「内務省官僚を、舐めるんじゃないよ」
「黙ってワシらについてこい、戦争じゃあ!」
ときの声が上がる。井関もこぶしを突き上げ、大声で叫んでいる。久しぶりに、親友の”まともな”姿を見て、井関はうれしくってぴょんぴょん飛び跳ねる。
「汚いことをさせたら日本一の君たちがやっと帰ってきた……」
「先輩、内務省をダマクラかして予算ブン取ったときより良い顔してます!」
褒めているのか貶しているのかよくわからない声を無視して、笹井はより一層の大声を上げた。
「敵はァ、赤坂大蔵大臣邸! 大蔵省を叩き潰す!」
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