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異世界急行 第一・第二

整理番号15:スイザラス鉄道ボイラー爆発事故(4・聴取)

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 第327列車 ボイラー爆発事故 事情聴取(独自)

 以下は、本件事故に際し、関係者から聴取した証言である。
 なお、本件調査報告書に際し、以下の用語を以下の通りに定める。

当務機関士:本件事故当該列車を運転していた機関士
当務機関助士:本件事故当該列車に乗務していた機関助士
当務車掌:本件事故当該列車に乗務していた車掌



【証言:当務機関士】
 聴取者:あなたの氏名と所属は?
 機関士:ケルトン・サムラック、スイザラス鉄道第三機関区所属……。
 聴取者:身分は?
 機関士:平民です……
 聴取者:国籍は?
 機関士:サン・ロード皇国民です……
 聴取者:事実は大きな声ではっきりと。では、質問に入る。
 機関士:はい

 まとめ:基礎事項の確認を行った。

 聴取者:まず、事故の様子について。マーシー駅発車から順に
 機関士:直前に、臨時の火急列車とのすれ違いがあって遅れていたので、焦っていました。そして、急いで入替を行い、列車の先頭に機関車を連結しました。
 聴取者:その時、機関車の向きは?
 機関士:逆機(通常とは反対向きで連結すること)でした。マーシー駅には転車台が無いのと、折り返し時間が少ないので、いつも逆機です。
 聴取者:水や燃料等の補給は?
 機関士:行っていません。いつもかなりギリギリですが、マーシー駅でもバフロス駅でも折り返し時間が少ないので、補給のタイミングがあまりありません。
 聴取者:そして、そのままマーシー駅を発車した?
 機関士:はい。マーシー駅発車は定時でした。
 聴取者:それから?
 機関士:マーシー駅を出て、それからダッシ―駅までは通常通りでした。

 まとめ:機関士には、この時点で少々焦りのようなものがみられるが、しかし本件事故との関係性は見つけられない。

 聴取者:機関助士には、どういう指示を?
 機関士:あまり水を使うなと指示しました。
 聴取者:それはなぜ?
 機関士:もう水槽の残りの水が少ないと思ったからです。
 聴取者:いつもそのような指示を?
 機関士:ええっと……
 聴取者:事実は正確かつはっきりと。恒常的にそのような指示を出していたか?
 機関士:出していました。
 聴取者:それはなぜ?
 機関士:バフロス駅に到着するまでに、水が足りないと思ったからです。
 聴取者:本来の予定では、水の補給はどこで行うのか?
 機関士:列車がバフロス駅に到着次第行う計画と通達されています。
 聴取者:水を節制し、それでもしボイラーが空焚きになってしまったら、危ないという認識は?
 機関士:ありました。けれど、水槽の水が無くなってしまっても同じ結果が起きるので、それも避けたいと思いました。
 聴取者:機関助士はあなたの意図を正確にくみ取っていたか?
 機関士:……いつものことだったので、そうだと思います。
 聴取者:しかし、事故は発生した。ではこれは機関助士の責任か?
 機関士:いえ、指示を出し運転していたのはすべて私なので、私の責任です。
 聴取者:それは、心証をよくしようとして言っていないか? 本心からそう思っているか?
 機関士:はい。

 まとめ:指示が不明瞭かつ信頼関係に頼り切っている。しかしながら、機関助士との間に信頼関係のようなものがうかがえるため、機関助士の聴取を待ちたい。

 聴取者:では、続けて。
 機関士:はい。ダッシー駅を過ぎると、急な下り坂になるので、速度に気を付けて運転していました。すると、いきなり火室から煙が出てきました。驚いて制動を採ろうとしたら、バンバンと爆発が……。
 聴取者:事故の表現、再現は正確に。バン、バン?
 機関士:はい。バン、バンです。
 聴取者:それは二回爆発が起こったということか?
 機関士:はい。
 聴取者:それは本当に? どうやって確認した?
 機関士:……。
 聴取者:わからないことはわからないと。
 機関士:わかりません。
 聴取者:本当に、バン、バンと聞こえた?
 機関士:それは間違いないです。バン、バンでした。

 まとめ:現時点では特記すべきことはない

 聴取者:わかりました。ありがとう。その他、異常などは? 正確に。
 機関士:ありません。……あの。
 聴取者:言いたいことは、はっきりと正確に。
 機関士:責任は全て俺にあります。
 聴取者:はい。
 機関士:助士は悪くないです。全部俺が悪いんです。
 聴取者:なぜ?
 機関士:……。(三十秒間黙秘を続けた)
 聴取者:意見は正確に。余計な偽装などは、却って不利になることがある。
 機関士:俺が悪いんです。
 聴取者:だからそれはなぜ?
 機関士:悪いんです。
 聴取者:ひつこいですよ。それはなぜ?
 機関士:機関士だからです。
 聴取者:自分の言動やその他行動に原因があったと考えているわけではなく、自分の職務に責任があると考えている?
 機関士:はい。
 聴取者:それ以外にはなにか?
 機関士:ありません

 まとめ:機関士の論理性は破綻しているが、思考自体は破綻している様子が無い。機関士と機関助士は現時点で政府当局により拘束されており、現在裁判に相当する手続きを待っているさなかである。
 このことを念頭に置きたい。

 総評:機関士の指示は明瞭とは言えないものの、機関助士との信頼関係は良好に思える。また、証言内に興味深いものがあるため、今後精査すべきである。

 以上。






【証言:当務機関助士】
 聴取者:あなたの名前と所属を。
 当助士:……。ごめんなさい。
 聴取者:あなたの名前と所属を。
 当助士:全部僕が悪いです。ごめんなさい。
 聴取者:この聴取は責任の所在を追求するためではなく、事故の原因を追求するために行われる。あなたの名前と所属を。
 当助士:ダーダリア・ラルル。第三機関区所属。
 聴取者:身分は?
 当助士:下賤です。
 聴取者:そういうことではなく、法制度上の身分は?
 当助士:平民だと思います。

 まとめ:機関助士は錯乱しているように思われる。しかしながら、思考自体ははっきりしており、聴取の続行は可能と判断した。

 聴取者:では、まず当日。体調等に不良は?
 当助士:無かったと思います。
 聴取者:体調不良は飲酒などによる酩酊も含む。本当にないか?
 当助士:私は酒が飲めず、またケルトン機関士も私にそれを無理強いするようなことは無かったので、私が酩酊するはずがありません。(後日、ケルトン機関士並び関係者への聴取で確認済み)

 まとめ:この時点では機関助士に一定の落ち着きがみられる。

 聴取者:では、マーシー駅から順に。
 当助士:はい。まず、マーシー駅では補給などが出来なかったので、水を節制しなければならないと思い、いつもより缶水(ボイラー内の水。この水を沸かし蒸気を発生させる)を少なくして、運転に臨みました。
 聴取者:それは、機関士からの指示を受けたか?
 当助士:はい。機関士からその様にするように指示がありました。
 聴取者:運転中、缶水の水面高さは確認したか?
 当助士:はい。
 聴取者:どのくらい?
 当助士:……。

 まとめ:機関助士からの指示を受けていたことは把握している。

 聴取者:なぜ、運転中に水面高さを把握する必要があるか、理解しているか? また、水面高さはどのようにして把握しているか?
 当助士:水面高さは缶水の量を把握するために見ます。水面高さは、水面計で確認します。
 聴取者:水面高さはどの程度であることが望ましい?
 当助士:八分目です。
 聴取者:では、当時は?
 当助士:……六分目だと思います。
 聴取者:水面高さが低下、ひいては缶水が減少すると、どのような危険性があるか?
 当助士:ボイラーが空焚き状態になり、熱によって破壊されます。
 聴取者:もう一度聞くが、水面高さは何分目だったか?
 当助士:……七分目だと思います。
 聴取者:なぜ、発言を訂正した?
 当助士:信じてくれないと思ったから。それに、事故が起きた以上、私の勘違いだと思ったから。
 聴取者:これは責任を問うものではなく、原因を把握するための聴取である。自己判断で決めつけた結論を話されると、却って不利益を被ることになるから、たとえ勘違いでも、有り得ないことでもいいから正直に話すこと。

 まとめ:機関助士は聴取者を含め他人を信頼しない節が見受けられた。彼との信頼関係を曲りなりにも築けていた機関士は、やはり意思疎通が図れていたと考えてもよいだろう。

 繰り返しになるが、事故時の水位は?
 当助士:事故が起きる手前、ダッシ―駅通過時に、出発信号を確認した後に確認しました。その時は、七分目でした。
 聴取者:七分目?
 当助士:はい。それで、怖いなと思い給水機を絞って缶水への給水を押さえました。
 聴取者:なぜ絞った?
 当助士:まず、水の節制を言い渡されていたからです。
 聴取者:それで?
 当助士:そのあと、もう一度確認したら八分目になっていて、もう少しだけ絞ろうと思いました。
 聴取者:それはなぜ?
 当助士:缶水の給水量が十分に絞り切れていないと感じたからです。それに、この辺りは気圧が低く、このまま給水を続けたら缶水から水があふれて危険だとも感じました。
 聴取者:それで?
 当助士:そのあと、しばらく坂を下っていました。私は滑走して制動が狂うことが無いように、車輪に向かって砂撒きをしていました。
 聴取者:それは誰の指示で?
 当助士:指示は受けていません。ただ、いつもこの区間で機関士が苦しそうにしていたので、いつも自発的に行っていました。

 まとめ:現時点では、機関助士の発言の正誤について判断することはできない。付記するならば、缶水八分目程度でボイラーに爆発されては、機関士は上がったりである。

 聴取者:そして、事故発生時は?
 当助士:砂を撒いていたら、急に火室から煙が上がったので、まずいと思って水魔法で炎を消そうとしました。
 聴取者:すぐに火を消そうとしたか?
 当助士:しました。間違いありません。
 聴取者:それで?
 当助士:火を消そうと思ったら、すぐに爆発が……。
 聴取者:どのように?
 当助士:こう、ドンドンって感じで。
 聴取者:爆発は二回?
 当助士:音は二回しました。でも、どうしてそうなったかはわかりません。

 まとめ:機関士の証言と同一である。また、事前に口裏を合わせた形跡もない。

 聴取者:はい、もう結構。では最後に、言い残したことやその他あれば。
 当助士:……あの、機関士はどうなりますか?
 聴取者:我々は意思決定機関ではないので、判りかねる。
 当助士:お願いします。私が悪いんです、ケルトンさんは悪くありません。
 聴取者:どのあたりが自分の責任だと考えているか?
 当助士:……缶水の管理不行き届きは、助士の責任です。
 聴取者:具体的な行動や言動が、原因とは考えていない?
 当助士:私には想像もつきません。けれど、なにかが失敗だったのだと思います。なぜ、どこで失敗したのかがわからない時点で、私は助士失格です。
 聴取者:繰り返すが、具体的なきっけかと思われるものは無い?
 当助士:はい。
 聴取者:機関士に問題があったとは思わないのか?
 当助士:有り得ません。彼は貧民街の出身で大変苦労してきました。とてもまじめでしっかりとした尊敬すべき人です。彼が、なにかミスをするとは思えません。

 まとも:特にコメントするべきはない。

 総評:機関助士は精神的にかなり追い詰められているようであるが、彼自身の中で筋は通っている。また、自身に責任があると申告しながら、それを否定するような証言を繰り返していることも気になる。

 以上。






【証言:乗客】

 証言者:当該列車一両目中程に乗車していた旅客。三十代女性。
 備考:証言中は意識があったが、証言後に多臓器不全で亡くなる。

 聴取者:手短に行いましょう。氏名は?
 証言者:アリッサ・メラノフ……。
 聴取者:列車のどの辺りに乗っていましたか?
 証言者:先頭車両に……。バフロス駅から、彼と合流する予定でした……。
 聴取者:先頭のどのあたりに?
 証言者:真ん中あたりに……。
 聴取者:事故発生時、どのような感じでしたか?
 証言者:急に大きな音がしたと思ったら、目の前が真っ白に……。
 聴取者:真っ白、というのは?
 証言者:まるで炎の様に熱い光で、それは私の身を焦がしました……。
 聴取者:爆発の音は何回聞こえましたか?
 証言者:二回。
 聴取者:それ以外に、気が付いたことは?
 証言者:……。

 証言者の体調を鑑み、聴取は打ち切り。

 総評:爆発についての証言が、前者二人と共通している。
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