時パスタ (短編)

おおぎや ちあき

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パラレルワールド

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「というわけさ」

突然いなくなったという、ゆきの旦那さんの考案した西洋麺なるものの話を聞きながら、翔太はゆきの店まで一緒に歩いてきた。

「早速そのピリっと辛い麺を作ってあげるから食べてみなさいよ」

ゆきの話で翔太は、それまでの経緯が大体理解出来てきた。

この時代じゃまだオリーブ油はなかった。ニンニクと唐辛子を入れるて炒めるパスタといえばペペロンチーノだ。

(一体その旦那さんという男は、どこから来たのだろうか? ひょっとして自分と同じ未来からやってきた人間なんだろうか?)

そんなことを考えている間に、良い香りがして、目の前にその西洋辛味麺とやらが載った皿が置かれた。

「さどうぞ、食べてみて」
「ではいただきます」

オリーブオイルではないが、良い小麦粉の香りと噛んだ時のコシ、そして味もなかなかのものだった。
ニンニクと鷹の爪で味を調えたそれは、ピリっとした辛味と旨味が凝縮して、まさにペペロンチーノに近い味で美味かった。

「ウマイ! そしてこんな食べ物があるなんて物凄く感動しました!」
「ゆきさんの旦那様は天才ですね!」

「そうかい?、そりゃあ良かったよ。最近じゃお武家様とか異国の外国人まで食べに来てくれることもあるんだよ」
 ゆきは、満更でもない様子で微笑んだ。

「異国の人が店に来た時には、旦那がペペロン何とかとか訳の分からない言葉を出して説明しようとしていたよ、あたしはびっくりしたんだけれどね」

「おかげで商売繁盛で忙しくなって、今じゃ手伝人を雇いたいほどなんだよ」

ペペロンチーノはイタリア語、ピリピリはポルトガル語で両方とも唐辛子のことだ

(とすると、居なくなったという旦那さんはひょっとして異国の人か?)

「ゆきさん、そこの品書きにある(西洋浅利麺 盆是)っていうやつは、こいつにアサリが入っているんですか?」

「うん、ちょっと作り方も違うんだけどさ、どんなのかというと・・・」

 その時、翔太は昔親父が作ってくれたことのあるまかないご飯を思い出した。

 ラーメンの麺で作ったアサリを入れたボンゴレもどきのやつだ。

(そうだ! あの時携帯で写真を撮ったんだったなぁ)

 まだ電池が少しだけ残っていたスマホを着物の袖から取り出した翔太は、その中のアルバムを検索して、その時の写真を探し出してゆきに見せた。

「その盆是ってやつは、こんな感じのやつでしたか?」

その瞬間、ゆきの顔が驚きで青ざめた。

「何だい! こ、こ、これは!」
「い、いたに、板に絵が出てきたよ!」

 そこには、皿に盛ったアサリの麺料理を前に翔太の父親が映し出されていた。
そして、その絵が動いて、喋ったのだ。

「なあ翔太、これは和風ボンゴーレだよ、どうだ? うめえか?」

 動画の中の男は微笑んで語り掛けていた。

「い、板が、板の絵が動いて、喋ったよ!」

 ゆきは、気が動転している様子で言葉も切れ切れに呟いたのだった。

「それに、こ、この人!」

「この人は、うちの旦那じゃないか!」

「あんたー、 今どこにいるんだいー」


箱の中の旦那の笑顔に、ずっと呼びかけ続けるゆきだった。


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