『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ

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第26話 重ねない選択

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第26話 重ねない選択

 風向きが読めるようになると、人は次に“重ねたく”なる。
 判断を、成果を、成功体験を。
 だが、重ねれば重ねるほど、歪みは見えにくくなる。

 アルベルトは朝の報告を聞きながら、その兆しを感じ取っていた。

「陛下。前回の是正が評価され、同様の申請が増えています。迅速な承認を――」

 彼は手を上げ、言葉を止める。

「同様、とは?」

「……条件が似ています」

「似ている、は同じではない」

 静かな訂正。
 勢いで積み上げることを、彼は拒んだ。

「基準は据え置く。迅速化は、入口でなく出口だ」

 入口を広げれば、出口は詰まる。
 それが、組織の基本だ。

 彼は、承認の“束ね”をやめさせた。
 一件一件、短く、しかし独立して判断する。

「重ねるな。比較しろ」

 若い官は、少し驚いた顔で頷く。

 昼前、王宮の回廊で小さな不満が囁かれた。

「最近、承認が慎重すぎる」
「流れが鈍るのでは?」

 アルベルトは、反応しない。
 代わりに、指標を一つ公開する。

――再申請率:低下
――是正後の修正回数:減少
――現場停止時間:短縮

 速さは、表に出ないところで担保されている。

 一方、領地。
 エレノアは、複数の提案書を前にしていた。
 市場拡張、加工施設、物流改善。
 どれも魅力的だ。

 だが、彼女は首を振る。

「同時には、しません」

 側近が問う。

「機会を逃しませんか?」

「逃すのは、機会ではなく余裕です」

 彼女は、提案を一枚ずつ並べ直す。

「順番を決めます。重ねません」

 理由は三つ。
 人手、資材、説明。
 どれか一つでも薄くなれば、信頼が削れる。

 午後、エレノアは市場の掲示板を更新した。

――今月は、物流のみ
――加工は来月、説明会後
――拡張は、評価次第

 明確な線。
 人々は、がっかりしながらも、納得する。

(重ねない選択は、期待を裏切るように見える)

 だが、期待を膨らませて裏切るより、
 先に線を引くほうが、長く続く。

 夕刻、王宮で老侯爵が言った。

「重ねれば、評価は上がりますが」

「上げない。積むのは、責任だけでいい」

 アルベルトは、椅子に深く腰掛ける。

(王とは、欲張らない役目だ)

 成果を集めない。
 判断を、静かに並べる。

 同じ頃、領地の集会所で商人が言った。

「今月は我慢だな」
「来月が見えているなら、耐えられる」

 重ねない選択は、不満を小さく、未来を明確にする。

 夜。
 アルベルトは白紙を前に、何も書かなかった。
 予定は、詰めない。

 エレノアは帳簿を閉じ、灯りを落とす。
 計画は、余白を残す。

 重ねない選択は、慎重ではない。
 むしろ、前に進むための整理だ。

 王は、判断を並べ、
 公爵令嬢は、期待を整える。

 交わらぬ道でも、同じ原則が働く。
 重ねないから、折れない。

 翌朝、国と領地は、静かに動き続けていた。
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