『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ

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第32話 継続の設計図

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第32話 継続の設計図

 確認が終わった翌朝、世界は何事もなかったかのように動き出した。
 それこそが、答えだった。

 アルベルトは、定例報告を最小限にまとめさせ、机の引き出しから一枚の白紙を取り出した。
 だが、書き始めない。

(設計図は、文章ではない)

 継続とは、意思ではなく構造だ。

 老侯爵が言う。

「陛下、次の改革案を……」

「要らない。代わりに、止め方を決める」

 周囲が、わずかにざわつく。

「うまくいっている時こそ、止めどきを設計する」

 勢いは、止まれないと暴走になる。

 アルベルトは、三つの“停止条件”を提示した。

「基準が増えすぎたら、統合する」
「例外が増えたら、基準を更新する」
「判断が滞ったら、入口を絞る」

 前に進むための、ブレーキ。
 それが、継続の設計図だ。

 午前中、各部署に“停止条件”が共有された。
 反発はない。
 むしろ、安堵が広がる。

「止まっていい線が、見えた」
「無理をしなくていい」

 止め方を知ると、人は長く走れる。

 一方、領地。
 エレノアもまた、継続を言葉にしなかった。
 代わりに、三つの箱を用意する。

 ――今月やる
 ――来月考える
 ――やらない

 彼女は、提案書を箱に分ける。
 迷いは、箱が引き受ける。

「“やらない”は、捨てるのではありません」

 側近に告げる。

「今は、やらない。必要なら、戻します」

 決断は、永遠でなくていい。

 昼、王宮では若い官が質問した。

「停止条件に当たったら、誰が止めますか?」

「気づいた者が、止める。私の許可はいらない」

 それが、継続を支える。

 同じ昼、領地の市場で、商人が言った。

「今月は、見送りだな」

「来月、また出せばいい」

 言葉が、軽くなった。

 午後、王宮に一件の異例報告が上がる。
 基準が重なり、判断が遅れ始めた兆し。

 アルベルトは、即座に統合を指示する。

「停止条件に該当。基準を一本化」

 迷いはない。
 設計図があるからだ。

 一方、エレノアは“来月考える”箱を見直し、二件を“やらない”に移した。
 代わりに、一件を“今月やる”へ。

(余白が、動く)

 夕刻、王宮では老侯爵が感心した。

「止める判断が、早いですね」

「早いのではない。決まっているだけだ」

 夜。
 アルベルトは白紙を戻し、灯りを落とす。

 エレノアは箱に蓋をし、書斎を出る。

 継続の設計図は、派手ではない。
 だが、壊れない。

 王は、止め方を共有し、
 公爵令嬢は、やらない箱を守る。

 交わらぬ道でも、同じ構造が息づく。
 続けるために、止まれる。

 それが、成熟の形だった。
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