『婚約破棄されたので北の港を発展させたら

ふわふわ

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【第4話 王都を去る日】

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【第4話 王都を去る日】

朝の王都は、いつもより少し騒がしかった。

クレスト公爵邸の前には、大きな馬車が三台並んでいる。

荷物を積み込む使用人たちが忙しそうに動き回っていた。

「その箱は後ろの馬車へ!」

「こちらは壊れ物です、気をつけてください!」

庭の中央で、私はその様子を眺めていた。

「……ずいぶん大がかりですわね」

そう呟くと、隣に立つ執事アルフレッドが答える。

「お嬢様が北方へ移られるのですから、当然でございます」

私は苦笑した。

「少し旅行するだけの気分でしたのに」

「残念ながら領地は旅行先ではございません」

アルフレッドの言葉は相変わらず冷静だ。

私は空を見上げた。

王都の空は今日もよく晴れている。

「お嬢様!」

侍女の一人が慌てて駆けてきた。

「どうしました?」

「王宮からの使者が……!」

「また?」

私は思わず笑った。

昨日の夜にも来ていた。

もちろん断った。

「今回は三人です!」

「熱心ですわね」

私は肩をすくめた。

アルフレッドが尋ねる。

「お会いになりますか」

私は首を振った。

「いいえ」

そして穏やかに言う。

「もう婚約者ではありませんもの」

侍女は少し困った顔をした。

「ですが王太子殿下の命令だそうです」

私は微笑む。

「それでもお断りしてください」

「理由は?」

「忙しいと」

侍女はぽかんとした。

「それだけですか?」

「それだけです」

私は優雅に言った。

「引っ越しは忙しいのです」

侍女はまだ納得していない顔だったが、やがて頭を下げた。

「……かしこまりました」

彼女は慌てて門の方へ走っていった。

アルフレッドが静かに言う。

「殿下は相当慌てておられるようですな」

「でしょうね」

私はあっさり答えた。

昨日の夜の時点で、王宮は混乱しているはずだ。

王家の資金。

王都の商会。

貿易。

全部止まっている。

それに気づけば、誰でも慌てる。

「ですが」

私は小さく笑った。

「もう関係ありません」

アルフレッドは少しだけ口元を緩めた。

「お嬢様らしいお言葉です」

その時だった。

門の方から怒鳴り声が聞こえた。

「待て!」

「待ちなさい!」

庭の使用人たちが驚いて振り向く。

門が乱暴に開いた。

そこに立っていたのは――

カルディオン王太子だった。

私は瞬きをした。

「……まあ」

アルフレッドも少し驚いた様子だった。

王太子が護衛を連れて、直接来るとは思っていなかったのだろう。

カルディオンは怒った顔でこちらへ歩いてくる。

「アリアベル!」

私は軽く一礼した。

「ごきげんよう、殿下」

彼は息を荒くしていた。

「何をしている!」

「引っ越しですが」

私は素直に答える。

カルディオンは信じられない顔をした。

「引っ越しだと!?」

「ええ」

「昨日の話を覚えていないのか!」

「婚約破棄のことでしょうか」

カルディオンは叫ぶ。

「そうだ!」

「なぜこんなことをする!」

私は首をかしげた。

「こんなこと?」

「王家の資金を止めただろう!」

ああ、やっぱりそこなのね。

私は落ち着いて言った。

「止めましたわ」

カルディオンは言葉を失う。

「な……」

「なぜだ!」

「理由は簡単です」

私は微笑んだ。

「もう婚約者ではありませんもの」

カルディオンは固まった。

私は続ける。

「クレスト家が王家を支援していたのは」

「婚約関係があったからです」

「ですから」

私は優雅に言う。

「契約終了です」

庭が静まり返る。

カルディオンの顔が赤くなる。

「ふざけるな!」

「王家だぞ!」

「困るに決まっているだろう!」

私はきょとんとした。

「困るのですか?」

「当たり前だ!」

「金も物流も全部止まった!」

私は小さく息を吐いた。

「それは大変ですわね」

カルディオンは怒りで震えていた。

「他人事みたいに言うな!」

私は少し考えてから言った。

「では」

カルディオンは身を乗り出す。

「何だ!」

私は穏やかに言った。

「エルネスタ様にお願いしてみては?」

一瞬。

空気が止まった。

カルディオンは絶句する。

「……え?」

「真実の愛なのでしょう?」

私は微笑む。

「きっと助けてくださいますわ」

庭の使用人たちが必死に笑いをこらえていた。

カルディオンの顔は真っ赤になっている。

「アリアベル……!」

私は軽くドレスをつまみ、一礼した。

「それでは殿下」

「お忙しいでしょうから」

そして馬車へ向かう。

カルディオンが叫ぶ。

「待て!」

私は振り返らない。

馬車の扉が閉まる。

アルフレッドが静かに言った。

「出発します」

馬車がゆっくり動き出す。

窓の外でカルディオンが立ち尽くしていた。

私は小さく呟く。

「さようなら、王都」

馬車は門を抜ける。

その背後で、王太子はまだ叫んでいた。

だがその声はもう届かない。

私は前を向く。

北方領地へ。

新しい生活が始まるのだから。
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